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8.ドド Ver.2.0―――フルモデルチェンジ

 アキラの刻み突きを防御したドドが次に放ったのは掌打だった。


 顔にねじ込まれた巨大な手。

 しかし、『纏』を極めたアキラには一切ダメージが無い。

 むしろ、拳なら破壊していた。


 ところが、アキラは突如身体の動きに精彩を欠いた。



(何かされた)




 これは脳震盪か?

 だが、顔に食らった一撃で脳が揺れるほどやわではない。

 掌で視界が一瞬見えなかった。その隙に何かをされたということしかわからない。強固すぎる『纏』が災いする。


 平衡感覚がつかめない。

 耳から熱い物が流れている。

 出血。

 ようやく気付いた。


(『纏』の穴へ、ピンポイントに……)


 ドドが真に掌底をねじ込んだのは耳。音を取り込むために空いた隙間。

 衝撃は耳の穴から三半規管をマヒさせた。

 相手が柔道だと仮定して身構えていたことが完全に裏目に出た。


 集中が途切れ、完全な『纏』に隙が生まれた。

 再びの掌打。

 衝撃が、『纏』を貫き肺へ到達。


 ダメージより、衝撃が身体に迫ることへとプレッシャーが呼吸の乱れにつながり、さらに『纏』を削る。


 眼でドドの影を追う。

 振り向きざまに、顎へ振り下ろし。



(耳門、雁下、牙顎……こいつ、全部急所狙いか)



「調子に乗るな!!」


 ドドの追撃を腕で受け、即反対の手で突き。


 空手特有の相手の腕へダメージを与える攻撃的受け。

 受けから正拳突き。

 腰溜めからの腹へ、ひねりを加えた拳。



「……!」



 ドドは肘でガード。

 アキラは攻撃の手を休めず、突きを繰り返す。

 ドドは流れるような肘のガード。


(終いだ!)


 タイミング、距離を見計らいアキラの左回し蹴り。

 この一連の動きは他の動きと違う。

『加速』による踏み込み、『剛力』を筋肉への連動、『纏』の部分的集中による破壊力増強。これらをごく自然に組み合わせる。

 空手×闘法(魔力)

 アキラはその一連の動きを鍛錬により、技へと昇華していた。


 技の名は『砲射脚』



「は?」



 回し蹴りの出足。

 その膝へ合わせられた前蹴りで、蹴りは不発に。


 いともたやすく止められた。


「くそっ!」


 反射的に繰り出した逆脚。

 左回し蹴り。安易な蹴り。ドドは蹴りの間合いの内へ入っていた。

 今度は手で受けられ、カウンターの回転肘。


 虚を突かれたたらを踏むアキラ。

 すかさずドドは側頭部にハンマーパンチ。顎に肘。下から突き上げるように掌底。側頭部へ掌底。身体を掴み、膝蹴りを腹。


 極近距離で繰り出されるコンビネーションに成す術の無いアキラ。『纏』を突き抜ける衝撃が徐々に蓄積していく。

 たまらず『放撃』で全身の魔力を飛ばす。

 しかし、これはドドには当たらず、致命的な隙を生んでしまう。



「……」



 追撃しないドド。

 警戒?

 いや、次のアキラの反撃を待っている様子だ。



 さすがに気付かされる。

 思考より先に身体が理解する。

 全身から汗が噴き出した。

 これほどの危機感は、ハラスの使徒と戦った時にも無かった。



(エルダーオーガを倒せただと? イリリオ……随分控えめに言ったものだな)



 銃を躱され、奪われ、バラバラにされた。

 攻撃を躱され一方的に殴られた。

 必殺の蹴りはいともたやすく止められた。

 圧倒的実力差。


 聞いていた話と違う。

 脅威度は高めに見積もって『死紫』3だった。



(こいつ、強い! 魔力が無いはずなのに、なぜだ……いや、違う。そもそもこいつは)



 ジュエルが言っていた通り。

 もし、このオークが召喚された勇者ならば、オークに姿を変えてまだ、半年程度。


 魔力無し、オークの身体、準備期間の短さ。

 どれだけのハンディキャプを背負っているというのか。



 それでも、この強さ。



(元は何だ……!?)



『世界一強い』



(あれは……そのままの意味だってのか?)





 アキラの拳はラブロン樹を抉り、蹴りで大木を両断できる。常人には捕らえられないほどの速さと反応速度を有する。


 対してドドは魔力を使った動きは一切しておらず、拳を捌き、蹴りの出足をくじき、アキラの動きの予兆から常時0.06秒という速さで、先の動きを読んでいる。



 アキラにはドドが自分の思考、未来すら読んでいる、得体のしれない何かに見えていた。



「ドド、信じられない。前よりさらに強くなっている」



 ブリジットはずっと一緒にいてこの劇的な変化に気が付かなかった。


 アキラを圧倒するドドの力。

 無論、エルダーオーガとの実戦経験がドドの力を底上げしたことは大きな要因だ。

 ドドはいつでも、全力―――すなわち、サバイバル本能を呼び覚まし、肉体の限界以上の力を意識的に発揮できる。


 だが、ドドはまだ全力を出してはいない。

 この結果は、別の要因によるもの。

 すなわち、技の練度である。


 研鑽を積んだ技はそれ自体、実戦での有効性を増す。


 ドドは記憶にある技を直感的に選び使用してきた。

 それだけではオークという肉体と、人間用の技の間に齟齬が生まれる。



 当たり前だが、技を真に身に付けるということに近道はなく、地道な反復と研鑽が必要不可欠だ。



 ドドを除いて。

 記憶にある戦いから技を身に付ける『対話』の実行。

 二瓶銀二の『人体投擲術』を窮地の中会得したように、かつて苦戦を強いられた強敵たち、彼らの類まれな技術、身体操作、戦術。


 それらを怪物はわずか七日で完全に自分のものにした。

 

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