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7.挑戦者―――チャレンジャー

 勇者召喚された者たちが一貫して実現を夢見た武器。


 銃。


 しかし、たまたま選ばれたものにその知識があるはずもない。事態が動いたのはつい最近のことだ。

 特定の人物を生きたままこちらの世界に呼び寄せるという、革新的アイデア。その上で必要となるあちら側の知識を学ぶため、スマホの電源を魔法で解決して情報を取り出すことに成功した。


 ネットワークは無論つながらないが、ダウンロードされていたストレージ内の電子書籍や動画などのオフラインコンテンツは閲覧可能であり、運よく銃の実物とその大まかなアクションをこちらの職人に見せることに成功した。



 シングルアクションのリボルバー銃。

 弾丸そのものが魔力の壁を易々と突破する上に、強固な外皮ですら魔力を込めれば容易く貫ける。


 勇者アキラにとってこれは鬼に金棒だ。勇者としての特性として、莫大な魔力を有し『纏』を極めている。

 銃弾に魔力を込め『超感覚』で敵の動きに合わせて引き金を引く。


 アキラには敵の動きがスローに見える。

 如何なる魔物も銃弾は避けられず、当たれば貫通する。


 銃を構えた時点で、勝ちが確定している。



(こりゃ驚いた。銃を突きつけられても動じてないな。おもちゃじゃないんだぜ)



 アキラは躊躇なく撃鉄を起こし、引き金を引いた。



 弾丸はドドの横をかすめた。



「あ?」



 アキラは眉を顰める。



(弾がそれた?)



 二発目もドドには当たらない。背後のラブロン樹を貫通した。



「なっ?」



(どういうことだ? 『超感覚』でおれの五感は全てを把握しているはず。奴が動いたとしても照準は狂わないはずだ)


 三度、引き金を引いた。

 指に力を掛けた瞬間、アキラはドドの動きに気が付いた。



(まさか、こいつ……おれが引き金を引き切った刹那に弾道を予測して最小限の動きで躱してやがるのか?)



『超感覚』でもたらされる時間間隔の延長。

 周囲の動きはスローに見える。

 ドドに照準を合わせる。

 引き金を引いた一瞬前、ドドは確かに動いた。注視していても気が付かないぐらいごくわずか。


 息を吸って吐くぐらいの『揺らぎ』



 偶然を疑った。



 アキラは距離を詰め接近しながらの2連射。

 やはり当たらない。



「チッ。無駄弾を」



 アキラが装填をする。

 シリンダーから空の薬きょうを抜き、6発装填。

 照準を合わせ、撃鉄を引き起こす。


 引き金に指をかける。


『超感覚』は要らない。

 目の前に壁のような巨体があった。

 引き金。

 引けない。

 ドドの指がシリンダーを押さえている。



「うぉ!?」



 そのまま小手返しの要領で手首をひねられアキラの身体は斜めに崩れた。手首を折られる前に思わず銃から手を離した。



(このおれがあっさり銃を奪われただと……?)



 アキラは神業のような魔力操作で銃を握る腕を『剛力』で強化していた。しかし、腕力で抗えなかった。


 ドドは手にした銃から弾を抜き、シリンダー、バレル、グリップ、撃鉄に分解して捨てた。



「おいおい、ちょっと待てよ。どうしておれより銃の扱いに慣れてるんだ?」

「物騒な世の中だったからな。これぐらい誰でもできる」

「本当か?」



(まぁいい。楽に殺したかったが……)



 アキラは『纏』を全身に張り巡らす。

 勇者が極めた『纏』、それは常人のそれとは一線を画する。


 凝縮した魔力の壁は物理攻撃を一切通さず、拳をハンマーに、手刀を刃に変える。



「実は、こっちに来る前からおれは空手を習っていてね。魔法とはずいぶん相性が良かったよ。ただし、おれの戦い方は少し、派手でね。お世辞にも綺麗な戦い方とは違う」

「そーか」

「ぐちゃぐちゃになるけど、恨むなよ?」



 アキラが構えた。



(魔力の無い魔物がこのラブロンの森で生き残り、エルダーオーガを倒したカラクリ。それはおそらく、こちらに来る前に体得した格闘技のおかげだろう)



 アキラはマリアが聖女ミーティアに連れてくる人物について聞かれていた時のことを思い出していた。




『そいつはそんなに強いのか?』

『あなたには関係ないでしょ。もう引退したんだから』

『おいおい、おれはお前が連れてくる奴を指導するんだぜ? どんな奴かくらい教えてくれよ』

『え? 教えるって……アキラさんが?』

『あぁ? なんだよ、その顔は』

『まぁ……そっか。教えることがあったらそうすればいいけど』



 マリアは笑った。



『あの人はモンスター。怪物だよ。世界一強いんだから』

『もしかして、お前って格闘オタクとかか?』

『は? 違います。興味なくても誰でも知ってるの!』

『なんだよ、K-1のチャンピオンか?』

『K-1ってなに?』

『嘘だろ?』



(……まぁ、日本人がやってる格闘技なんて大体空手か柔道……ボクシング、総合って可能性もあるが……多分柔道だな。さっきの小手返しといい。格闘技に興味の無い女子高生が知ってるってことはオリンピックの無差別級で金メダルとかそんなだろう)



 実戦での投げ技の有用性、危険性。

 アキラはドドの戦い方をある程度予測した。



(いいぜ、投げてみろ。だがおれにダメージを与えることはできない)



 スリ足でにじり寄るアキラ。

 対するドドは、不動の構え。いや、構えていない。



「せいっ!!!」


 アキラが刻み突き。

 踏み込みと同時に突いた。


 ドドはそれを掌で逸らす。ボクシングのパアリング。


「……なっ!?」


 強引に距離を詰め、掴みかかってくる。

 その予測がアキラの敗因だった。


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― 新着の感想 ―
[一言] >「私は頼りないですかな?」 自分で証明してちゃ世話ねーわ…… 生かして返してもらえても多分ドラゴンさんにミンチにされるんだろうなぁw
[良い点] めっちゃスカッとした [一言] 楽しく読ませていただいてます!
2024/02/25 10:32 退会済み
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