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23.死闘―――ハンス・モーガン

 魔力の無いドドが不意打ちで放った顎への一発。

 魔力でのガードが無かったにも関わらずエルダーオーガはすぐに立ち上がった。



「タフだな」



 エルダーオーガは突如咆えた。

 大気が震える。


 先ほどまでと異なり眼が血走る。



 言葉は分からずとも、感情が伝わる。



『おれの狩りを邪魔した』



 激高したエルダーオーガは勢いに任せてドドに突進した。

 ドドより二回りも大きい巨体が迫る。

 ドドはその動きを先読みして見切り、背のコスモスを抜いた。

 しかし次の瞬間、避けたはずのドドの身体が吹き飛んだ。



(何!?)



 きりもみ状態で乱回転して宙に放り出されたドドは前後不覚状態。


 エルダーオーガは打ちあがったボールを打つように金棒をドド目掛けて振り切った。



 激突音が轟き、炎上する周囲の煙が弾けた。



 エルダーオーガの首にドドの踵が接する。




(中空で、しかもあの体勢から!?)



 ブリジットの驚愕はエルダーオーガも同様だった。しかし、効いたというより単に驚いただけだ。

 それはドドも同じ。


(なるほど、魔力の『纏』を錬磨させるとここまで硬いのか)


「ドド! よ……よせ、そいつはあなたより強い!!」



 エルダーオーガはドドに魔力が無いと認識した瞬間、『纏』をあえて緩め、広範囲に展開した。

 魔力の見えないドドはこの魔力の塊にはねられたのだ。

 逆にドドのカウンターの蹴りに対しては魔力を首に一点集中、魔力のみでガードした。


 カラクリを理解してもドドにはどうすることもできない。

 金棒を躱す動きは紙一重とはいかない。

 大きく回避しなければならない。

 そのため、反撃ができない。できたとしても魔力のガードは一撃で敗れない。

 封じられた三寸の見切り。カウンターによる一撃必殺。

 ドドの動きの優位性は完全に失われた。


 ドドはコスモスで攻撃を受け流そうとする。



(『輪ノ太刀』で受け流そうにも、こいつ、金棒に纏わせている魔力の厚さを一々変えやがる。おれに間合いを測らせない念の入れよう。切り返す暇がない)



 受けに回るドドの身体が大きく後退させられていく。



(受けるのはやめよう)



 ドドは受けの最中に剣の型を変えた。



「構えを?」


 コスモスの長い柄の根元を片手で持ち、柳生新陰流の両手持ちから片手持ちへ。

 中段の構えから直立し、半身に。



(あれでは、受けは無理だ。守りを捨てたのか、ドド)



 勝算があったわけではなく、これが斧牛陸大の最も知る剣術だったからである。


 受けに回っていたドドが突如、エルダーオーガを中心に弧を描いて動き始めた。



(確か、こんな感じか)



 振り下ろされる金棒へ決死の踏み込み。



「ドド!!?」



 ブリジットの叫びが届いたころ、ドドの刺突がエルダーオーガの赤黒い手に三か所手傷を負わせていた。


 柳生新陰流の剣が無数の型から成る攻防一体のカウンター剣術ならば、今ドドが再現した剣は防御の方法が二つ、型が一つしかない攻撃に特化した攻撃剣。


 スペイン剣術。


 弧を描く独特の歩法から繰り出される必殺の突き。

 いわば縦横無尽のフェンシング。



 正面から突くのではなく斜めから避けて突く。

 突き即斬の追い打ち。


 果たしてこれが正当なスペイン剣術なのかドドに知る由もないが、かつて斧牛陸大に手傷を負わせた剣といえば、この剣。


 西洋武術のエキスパート、ハンス・モーガン。

 世が世なら、歴史に名を遺す剣術家となったであろうスペイン出身のフェンシング選手。彼の本職は西洋武術の研究であり、ドイツ剣術やイタリア古流剣術にも精通していた。

 表向き大学教授にしてオリンピック金メダリストという華々しい経歴を持つ彼だが、完全なる異常者だった。

 己の剣が本当に通用するか実験する目的で斧牛陸大を本気で殺そうとし続けた。返り討ちに遭い七度も重傷を負いながら、最後まで陸大に挑戦し続けた。

 そして陸大に重傷を負わせた数少ない人物の一人。



(す、すごい……ドドはあんな剣も使えたのか!?)



 この剣がドドと相性が良い点が三つ。


 まず半身から大きく踏み込むという動作。

 踏み込みは武術に共通する重要な要素だが、陸上をやっていたドドにとってこの踏み込みは、短距離の一歩目のようで馴染みがある。


 後ろ足を前足と並べる脚幅が極端に狭いスタンス。

 これで攻撃の間合いが目測より延びる。


 正面から攻撃するイタリア式やドイツ式と異なり、敵の攻撃線から外れて攻撃するため、紙一重で躱す必要が無い。



 そして、一番は片手が空くということだ。



 六度目の刺突で、エルダーオーガにいら立ちが見えた。

 踏み込み、突き、退くという動作を六度繰り返したことで刷り込まれたパターン。


 ドドは踏み込み、突き、突如パターンを変えさらに踏み込んだ。



 空いた片手に込めた全重量。


 それを刹那に拳で打ち放った。



 渾身の発勁がエルダーオーガの脇腹に炸裂した。



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