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18.再びの森―――リフォーム

 ジェミニとガナムが頭を抱えていた。

 昨夜の一件についてだ。


「なんだかすまんね」

「いや、ドドは悪くない。あの司祭が悪い」



 ガナムの執務室にジェミニとドドが立っている。

 深々としたソファーにブリジットとルークが座る。


 ドドは肩身が狭そうだが、ブリジットは非は無いとふんぞり返る。



「困ったことになりましたね」

「いきなり浄化魔法とは。我々が功労者として称える相手を蔑むなど、勝手が過ぎる!!」



 ガナムが机をたたく。



「……あの司祭は王都大聖堂にドドのことを報告したらしいぞい」


 ルークが伝える。


 聖堂が連絡で使うのは伝書鳩ならぬ伝書ツバメ。

 実際にはツバメに似た鳥で、水平飛行の安定した速さと長距離飛行が可能。小回りが利く上に賢く、人懐っこい。



「ブリジットが挑発するから」

「私のせいか!? ドドだって俗物とか言ってじゃないか!」

「ま、司祭は先に報告することで優位に立つべくことを急いだんだろう。少なからずブリジットの影響力を警戒しての行動だな」

「おそらく、司教かそれ以上の聖職者が聖騎士を率いてやってくるでしょう」

「それは面倒そうだ」



 取れる選択肢は1つしかない。



「何とか説得します。それまで、森に隠れていてもらえませんか?」



 ジェミニは勝算ありという顔だ。

 この城には各地から派遣された騎士たちがいる。

 今彼らの心象はとても良い。


 その協力を得られれば、聖堂に真実を伝えることは可能だと考えた。

 聖堂では司祭グロンの横暴から、不信感を抱く者も多い。


「グロンはおそらくドドと聖騎士団との衝突を演出して、対立の既成事実をつくるつもりでしょう」

「うむ。聖騎士たちとドドの不意の正面衝突さえ避ければ、問題はない。わしはこの事実をイリリオ公へ手紙で伝える」



「すまない。面倒をかけるな」



 ドドはラブロンの森に引き返すはめになった。



 ◇



 王都大聖堂が軍備を整えカースタッグにやってくるまで約三週間。


 ドドは名目上森の調査への同行として森に入った。

 前回と違い様々な物資がある。


 時に鉄製品が潤沢にあるのがありがたかった。

 魔物や魔獣の素材が豊富なため、この世界で鉄は希少だ。


 加えてその話を聞いた冒険者たちがこぞって帯同を望んだ。

 目的はブリジットだったが、城市を護ったオークに関心が無い冒険者などいなかった。


 結果、ドドは前の拠点に大勢で滞在することになった。



 拠点につくと思いがけず、以前と変わらない状態だった。



「もっと踏み荒らされていると思っていたが」

「ここがドドの縄張りだと認識されているということだ。ここなら安全だな」



 ラブロンの森に安全地帯が確保されている。

 それはカースタッグの歴史の中で前代未聞の一大事件だった。



 冒険者ギルドはすぐに職員や他の冒険者を派遣した。



「え? なに、どうした?」

「いえいえ、ちょっとこちらの暮らしをお手伝いさせていただきたくて」


 もちろんただ乗りするほど厚かましくはない。

 ギルド職員たちはドワーフたちを連れてきた。



「ほう、素人くさいのう。まぁ、すくない道具でよくやったほうかい」

「ラウロン樹をこんな粗末なもんに使うなどもったいない!」

「しかし贅沢なもんじゃ。椅子からコップまで全部ラブロン樹を使わせてもらえるなど、あるもんじゃないわい!!」



 ドワーフたちはドドがつくった柵や囲いを瞬く間に解体して、キレイに作り直した。

 小屋から、部屋、ベッド、椅子や桶、風呂まで造ってしまった。



「おお、すごい。さすがは匠のドワーフだ」

「おれもがんばってつくったのに」



 ドワーフたちが瞬く間に建物をつくり、簡易的なギルド出張所をつくった。



「なんだこれ?」

「完全に利用されたな。まぁ、住みやすくなって私は文句ないけど」



 自分が数か月かけて築いた住処が、一瞬で改築されてドドは少し傷ついた。


 暮らしはもはや街と変わらない。むしろ料理は食材豊富でどれも高級なものばかり。


「う、うめぇ!! ラブロン種の魔獣の肉がこんなに食えるなんて!!」

「いや、肉もうまいが、こんなに複雑な味の料理、食べた事ねぇよ」

「いや~、ブリジット殿は器量よしの上料理も堪能なのですな!」

「ん? 私が料理? するわけないだろ?」

「え?」


 冒険者たちが見ると調理していたのはドド。

 ブリジットは味見という名の盗み食いの常習犯。



「オークがつくった飯」

「いや、だが美味いな」

「これ、何が入ってるんだ?」

「安心しろ。城じゃ騎士たちも食べていたぞ」



『オーク飯』

 カースタッグ周辺の冒険者の間で極上に美味い料理をそう発音するようになるのはもう少し先の話。



 冒険者たちの目的はブリジットだったが、次第にドドの料理が目当てとなっていった。

 その食材も命がけで獲って来なければならない。


 冒険者たちはメキメキと力をつけていった。


 三週間も経てば、そこは立派な訓練施設。

 冒険者も入れ代わり立ち代わりで一向に減らず、むしろ増えていた。



「あの、私、ラブロンの薬草の研究がしたいんです!! ここに置いてください!! 必ずお役に立ちますから!!」

「ああ、いいんじゃない? どうだ、ドド?」

「使えそうな薬草なら納屋にあるぞ」

「うわ、希少な薬草がこんなに!!!?」


 薬師が卒倒した。


「僕を学士として雇っていただけませんか? ラブロンの森について研究してまして。図鑑に魔物や魔獣のデータを編纂したいんです」

「だってさ、ドド」

「いいんじゃないか? ああ、これ地図ね」

「ええ!! こんな詳細な地図!! モンスターの生息地まで!!!?」



 学士が卒倒した。



「おれをあんたの弟子にしてくれ!!!」

「おれ? ブリジットではなく?」

「はい!! お願いします先生!!」



 ドドに師事するものも現れた。


「おれは人にものを教えるのが下手だから、かなりスパルタになると思うんだけど」

「はい、お願いします!!」



 その実力は狩りの成果を見れば一目瞭然だ。

 一人現れるとつられて何人も弟子入りを志願し、すぐに道場のようになっていた。



 ドドの教える戦い方はいつしか『純体闘法』や『体闘法』、『体法』などと呼ばれるようになった。魔力に頼らず体のみでの闘い方という意味だ。ちなみに魔力を使う戦い方は単に『闘法』と呼ばれる。



「意外だな。ドドがここまで世話を焼いてやるとは」

「こういうつながりを軽視して生きてきたんだ。だがおれが知る技や知識を彼らが役立てたいと思うなら伝えてやるべきだと思った。おれが独占するよりずっと本望だろう?」

「誰が?」



 斧牛陸大に挑戦し続けた者たち。

 友達でも仲間でも宿敵でもない。

 そう呼べないことが、今になって少し申し訳なかった。



「おれと関わろうとしてた変わり者たちかな」


「ドドは友人が少なそうだな」

「ああ、だが人の心はある。傷つく」

「ははは。冗談だ。今はこんなに仲間がいるじゃないか」

「そうか。そうだな」



 必死に人間に戻ろうとしていた。

 だが、人間だった頃よりも、ずっと人間と馴染んでいる。



(なんだか皮肉だな……)



「よし! ちょっと本気で相手をしてやろう!」

「お、先生がやる気だぞ!」

「よっしゃぁ! おれが相手だ!」

「待て、私の番だ!!」

「いえ、ここは自分に」

「全員まとめてかかって来い!」




 ここに荒神が復活した。

 戦いを嫌い、武を否定した男は異世界でその武に助けられた。

 武の恩恵を受け、伝道者として力を振るう。

 世界が開けた。


 荒事を受け身で巻き込まれてきた荒神にされた男が、自らの意思で戦いへと進む、その覚悟を決めた。



「ドド、その……教えてくれるのはありがたいんだが手加減を……」

「ごめん」



 ただし、負傷者が絶えなかった。


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