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17.陰謀の司祭―――ホーリーライト

 聖堂には司祭グロンの他に僧侶たちがいる。魔法に寄らず治療を施したり、日々の祈りを捧げたり、聖堂内の管理が仕事だ。



「あの、司祭様……?」



 司祭グロンは見習い女僧侶、ダフネを部屋に呼びだした。

 ダフネは司祭が良からぬことを考えていると警戒したが、断ることなどできない。

 だが、司祭の口から言い渡されたのはとんでもない命令だった。



「わたくしが、城のオークの部屋にですか?」

「うん。何か理由をつけて二人きりになりなさい。安心しなさい。信仰が確かなら神が御守りくださる」


 ダフネはとうとうこの司祭は頭がおかしくなったのだと、唖然としてしまった。



(わたくしを育てて下さったミヤ司祭様なら決して言わないわ。王都の司祭様は違うというの?)



「その……それは何のためにでしょうか?」

「何のためにだと? 魔物の本性を暴くためだ!! これは犠牲ではない! これも聖職者の務めだ!!」



 ダフネは絶望していた。

 逃げようがない。

 聖堂に育てられた見習いの自分にはここで生きていくしかない。

 司祭はそれを分かって言っている。



 従え。そもなくば出ていけ。

 その横暴が許される。


 ならばダフネは逆らわない。

 オークに襲われに行かなければならない。



「わかりました。神の御心に従います」



 ダフネは震えながらそう答えるしかなかった。



「できるだけ、大きな声で叫ぶのだ。誰にも見られなかったら意味がないからな。」

「……はい」



 ダフネは泣きながら聖堂を出ようとした。



「おっと」

「あ、も、申し訳ございませ―――」


 入口で大男とぶつかった。

 まるで壁。

 見上げるとそこには緑の皮膚に、下あごから突き出した牙。


 服は着ているが紛れもなく、オークだと瞬時に判別できた。



「きゃああああっ!!!!」



 緊急事態を報せるアラームのようにその悲鳴は聖堂中に響いた。


「なんだ? あ!」



 司祭グロンは混乱した。

 まさかドドが聖堂にやってくるとは思わなかったのだ。



(いや、好都合だ!!)



「貴様、魔物の分際で聖堂に足を踏み入れるばかりか。聖堂の女官を襲うとは、ついに正体を現したな!!」

「いや、おれは金を―――」

「問答無用!! 下がっていなさいダフネ!!」



 司祭グロンは浄化魔法を放った。

 その正体は聖属性魔法の『放撃』。

 聖堂ではこれを特別な奇跡の術として法術と呼んだ。


 白い光がドドに放たれその身を包んだ。



「どうやら、金はいらんということらしい」

「へ?」



 光が収まると、そのままの姿でドドが立っていた。

 魔物に対して特別有効性が高い聖属性の魔力は魔物の身体を蝕むように焼く。

 予想していた結果が出ず、グロンはたじろぐ。



「ドドに聖属性魔法は効かないぞ」


 ブリジットはへたり込むダフネを起こしながら当然のことのように話す。


「な、なぜだ!! ここは聖堂だぞ!! いかに強力な魔物といえど――」

「ドドの着けている物を見ろ」



 霊を払う御守りのメダルのペンダント。

 ドドは魔力が無い。

 ゆえにゴースト系のモンスターに対する耐性が無く、身体を狙われやすい。

 そのためブリジットが与えた。

 これは王都大聖堂で大司教によって聖別されたもの。



「ドドの肉体はオークだが、心や精神は清らかである証だ」



(というかまぁ、中身は人間だからな)



 実際ドドはメダルを着けてから幽霊を見ていない。




「そ、そんな馬鹿な……!」

「ドド、帰ろう」

「いいのか? 面倒なことになる」



 ブリジットはため息をつく。



「すでに面倒なことになっている。それに私は王都の大司祭と知らぬ仲ではない。その御守りももらったし。聖堂は確かにお堅いし、融通が利かないが決して邪な組織ではない」

「なら、俗物を相手にする必要はないか。ジェミニには悪いが」



 放心している司祭を無視し、二人は気分を害したと聖堂を後にした。


 しかしすぐさま司祭が追ってきた。



「聖堂を蹂躙したこと、ただでは済まさんぞ!! 聖堂の威信にかけて貴様を排除してくれる!!」



 その後の祝勝会に司祭は現れなかった。



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