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16.赤い魔物―――オーガ

 オーガ。

 第三位階『血赤1』の魔物。

 単体でキングゴブリンを上回る脅威度である。

 あらゆる攻撃を跳ね返す強靭な肉体に加え、高度な魔力操作を駆使する。


 一体の討伐に10名から成る小隊が必要となる。この魔物が五体同時に攻め込んできた。



 勢い勇んだ冒険者パーティが壊滅。

 城の庇護の元にある集落が一つ全滅。

 集落の警邏を担っていた騎士が兵を率いたが返り討ちに遭い半数が戦死。半分が半死半生で逃げ帰った。



 この時被害者数はすでに30名に及んだ。



 五十人必要になるという簡単な計算は成り立たない。



 脅威度は『血赤5』

 投入は100名の部隊。

 騎士たちが自らの小隊を率い、城兵長ジェミニが先陣を切る。

 しかし、その号令の前に先行偵察した隊から報告が挙がってきた。



「何!? 倒した? もう!?」



 ◇


 ドドは魔力が無いため偵察にはうってつけだった。


 単身、オーガが隠れる窪地に背後から近づき、槍で仕留めた。オーガは魔力を使う暇もなく、三体同時に頭を鋼鉄の槍で貫かれた。


 残る二体に強襲を仕掛け、まず一体を殴り倒し、首を踏みつぶした。

 残る最後の一体は不利を悟り、逃げた。


 そこに待ち受けていたブリジットが一閃で首を斬り落とした。



「――以上だ」



 報告会でドド自らが語った。



「事実じゃ。ワシの出る幕も無かったわい」



 偵察に自ら同行したルークが肯定する。


 騎士たちが感嘆の声を上げた。



「はは! ウォード、活躍し損ねたな!!」



 騎士たちは偵察に同行した新参のウォードの勇気を称えた。


「はい……あっという間で」

「ウォードだけではない。私も出遅れた。ドドが引き付けて誘い込むと言うから」

「いや、槍は効かんというから当てて挑発しようとしただけなんだが」

「ほほ、思いっきり刺さっとったな。ありゃ見事じゃった」



 ドドは100m先から一度に三本投げてオーガ三体の頭部へ同時にヒットさせた。

 奇跡、たまたま、神業。

 それを見た者たちは運が良かったかのようにその結果を解釈した。


 実際は、何回やってもできる。

 理由はいくつかある。キチンと基礎を習ったから。実は放浪時代に主力武器として何度も使っていたから。アフリカで狩りを競ったから。


 だが一番の理由はこの男が斧牛陸大だからだ。

 彼にとっては普通のこと。


「だから言っただろう。そもそもおれは投げるのが一番得意なんだよ」

「ドド、『コスモス』使わないなら私に贈れ」

「これは君には重すぎる」

「大丈夫だって!!」



 和やかな報告会は、論功行賞の前の事前確認で、この後の城市をあげての祝勝会でドドの功績が称えられることとなった。



「よくぞやってくれた。この功績は間違いなく評価されるであろう。イリリオ公もお認め下さるだろう。本当によくやってくれた、ドド」

「光栄です」




 さすがの司祭グロンもこれに口ははさめなかった。

 オーガが攻めてきて城には全く被害が出なかった。最高の結果を出した。

 各地から出向してきた騎士も、手柄を取られたと口では言うがドドの力を認めていた。



 すでにドドがオーガを討伐した話は城市中に広がっていた。ジェミニが偵察隊の報告を全軍に伝令したためだ。


 しかし、引き下がるグロンではない。



(こうなれば、多少強引でも罪をでっち上げるしかない)



 グロンは策を巡らせる。



 報告の後退席したドドとブリジット。


「ドド、ちょっといいかな?」

「もちろん」



 ドドはジェミニに呼び止められた。



「今回のオーガの素材は君の物だ」

「いいのか? 軍の補給に必要だろう」



 本来は戦いにかかった経費として兵糧や軍馬のエサ、けが人への見舞金や死者の遺族への補償金を得たものから差し引く。それらを勘定して、論功行賞の時に報奨金が出される。

 先に渡すのには理由がある。



「いや、それは心配いらない。ここ最近魔物の素材で資金は潤沢だからな」

「なら、ブリジット、もらっておいてくれ」

「はいはい。私はあなたの財布係ですよ」



 ドドは案外浪費家で、食材や装飾品があると買ってしまうのでブリジットが管理している。



「いや、金はすぐに使ってもらいたい」

「ん?」


 二人は互いの身なりを確認する。

 それなりにいいものを着ている。特にドドの服はオークだと毛嫌いされないよう、ブリジットが城の呉服屋に無理を言って仕立てさせた分、金をかけている。このままパーティにも出られるだろう。人間ならば。



「聖堂にお清め代として納めるんだ」



 お清め代。

 要は賄賂だ。



「なぜかな?」

「そうするしかない。司祭グロンが君を消したがっているのは知っているだろう? 今回の件でも負傷者が出なかった。司祭グロンの手元には金が流れない。これ以上彼を刺激するより、金を渡して問題が起きないようにした方がいい」

「そうか。ドド、ここは従った方がいい。聖堂と揉めるのは面倒だ。ここで問題になるとどこの国に行っても安全じゃなくなる」



 ブリジットも聖堂との付き合いの難しさは理解していた。反対しなかった。


 ブリジットはそんな聖堂と反目するリスクを負ってドドの後見人のようなことをしてくれている。

 ブリジットに反することはできようもない。

 しかし、素朴な疑問がわいた。


「ふむ。あの司祭、必要か?」

「な、なにを!? 滅多なことを言わないでくれ。聖堂の司祭がいなければいざという時治療できないし、魔物大軍に襲われるんだぞ」

「治療しているのか? それに魔物は襲ってきている」

「いや、それは……神の御加護が無ければ、我々は生きていけないんだ」

「信仰か。わかった」



 各地を放浪したドドは各地の信仰がどれだけ重要か理解していた。

 それは時に法より重視される。

 理屈ではない。



「おれは大人だから、あの小太りの無能なおっさんとも仲良くやるさ」

「はは、エライエライ」

「ほ、本当に頼むぞ!? 揉めないでくれよ!?」



 心配するジェミニをよそに、ドドとブリジットは祝勝会の前に換金を済ませ、意気揚々と聖堂に向かった。


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