13.ルークの魔法講座―――アドバイス
突然指南役になったドドはその類まれなセンスで次々と兵士たちを強くしていった。
などと、上手くいくわけが無かった。
「教えるのって難しいな」
「めずらしい。ドドが落ち込んでる」
挑戦を募り、一通り倒しまくったドドはアドバイスをしたくてもできない場合があった。
「うん。おれはそもそもキチンと習得したわけではないからな。例えば段階を経て習得するタイプの技なんかはどう指導していいのかわからない。というか、できないやつがなぜできないのかがわからん」
「はぁ……天才ってやつね」
理屈を説明すればだれでもできるというわけではない。それを身体に覚え込ませるにはトレーニングによる反復が欠かせない。
そのトレーニングについて知らないものは一から考えなければならない。それはドドにとって未経験の分野だ。
「でも強くなっている人もいるじゃないか。結果は出してる。私へのアドバイスも的確だったし」
「そうだな。だがブリジット、それっておれで無くても大体そうじゃないか?」
「ん?」
「指導をして何人か成長。これではオークに指南役をさせる理由としては不十分だ」
「た、確かに。リスクを負って結果が普通だとダメだな」
ドドが結果を出し切れていない理由はもう一つある。
それはドドが魔法について素人であること。
「身体ができている者に一つ芸を仕込むくらいならいいが、総合力を上げる場合、どこを伸ばすかの判断には魔法が大きく関わる。問題点を見つけてもそれを魔法で補える場合があるし、おれが思う長所が実際の魔法戦闘では足を引っ張る可能性もある」
「ドド、そういう答えがわからない問題があったときは一人で抱えるな」
「うん、だから今相談してる」
「無駄だ。私も天才型だから。できない人に説明できないし、ドドにも上手く説明する自信ない」
「ああ、そう」
「こういう時は専門家に頼むんだ」
◇
「それでまたわし?」
「困ったらルーク先生だろう?」
ドドとブリジットはルークの研究室にお邪魔していた。
「ドド、お主は優秀すぎるんじゃ。普通、そうそう兵の問題などわからん。それがわかるがゆえに伝えきれないことが歯がゆいのじゃろう。じゃがそもそも全員を個別指導するなど無理がある」
「む、そうか……」
「魔法と身体の動き、総合的に判断するなら実戦を想定して戦い、本人に体得させればよいのじゃ。アドバイスは求められたとき、すればよい。指導で大切なのは対話じゃよ」
(そうか。おれは自分の意見をどう伝えるかに気を取られていた。またおれは……話すことを省き過ぎだな)
ドドは指導の筋道を掴んだ。
ドドの笑みに二人がたじろぐ。
(これっぽちで、自己解決しておるとは。このオークやはり相当に頭が良い。これで魔力があったらと思うとぞっとするのう)
「せっかくじゃし、魔法について基本的なことを教えておいてやるかのう」
「それはありがたい」
「ドドよ、魔力とはどんな力だと思う」
「ふむ……燃料のようなものだろう。人体のエネルギー源と化し、纏えば外皮のようになり、放てば質量体、周囲の環境にも影響する」
「うむ。よく理解している。じゃが、不十分じゃな。魔力には実は二つの性質があるのじゃ」
物体に影響する力と霊的な干渉力。
物理現象と非物理現象。
魔力はその両方を引き起こす動力となる。
「細かいことを言えば、魔力は体内にある状態をマナ、体外で運用する場合はエーテルと言う物質に変化する。例えばじゃ、マナの状態での運用を得意とする者が、エーテルを極めようとする。これは可能か? おすすめはせんな。時間がもったいない。それほどにマナとエーテルでは運用の感覚が異なる。マナでの運用は『剛力』『軽快』『超感覚』。エーテルが『放撃』『纏』『加速』というように、主だった使い道が異なるのじゃ」
「火や光の魔法は?」
「あれらはエーテルが作用するタイプの魔術に該当するので単純魔力運用のさらに応用じゃな。火の属性魔法を使う場合『放撃』か『纏』で使用する。ただし、魔術の行使中は他の魔力運用は使えん」
ドドが首を傾げる。
「う~ん……いや待てよ。ブリジットは全部使っていたような気がするぞ。それに光を纏いながらいろいろやっていた」
「私は天才だからな」
ブリジットが胸を張る。
「うむ。天才じゃよ。単純魔力運用は俗に『闘法』などと呼ばれるが、内一つか二つが関の山じゃ。それをこのブリジット嬢は『回復』以外全て使用し、さらに希少な光属性の適性を有し、戦闘中『魔術』と『闘法』を同時に仕える稀有な存在じゃ。そういった万能職を英雄職と呼んでおる」
ドドの脳内イメージで魔法使いがズバズバと剣を振るう様子が描かれた。
「おお、ブリジット、すごかったんだな」
「いや、その私より強いドドの方がおかしいぞ?」
ドドはこの娘に何を教えることがあろうかと益々悩んだ。
「ブリジットはどうしておれに勝てないんだ?」
「それを私に聞くかね? う~ん。まず、やりずらいんだ。ドドはこう……遅いのに先回りして動いていて捉えどころがない。前にドドも言っていただろう。私の動きが直線的で読めるとか。私が見て動いているから反応できないとか」
「そうか……!」
ドドは気が付いた。
万能のブリジットが対応できていない部分を改善するトレーニングならば全員に有効である。
「うん。基礎錬を思いついた」
「え、もう?」
「ああ、鬼ごっこだな」




