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12.指南役のオーク―――オツカレサマ?

 希少金属アダマンタイト鋼で鍛えられた『コスモス』の効果は絶大だった。


 兵士には最低限の装備が支給されるがそれは正規兵のみ。軍にはその規模を維持するために非正規兵の枠が設けられており、ここカースタッグにも多くの非正規兵がいた。

 正規兵となると騎士の従士にもなれる。身分においても軍人は一般市民よりも上に当たる。

 成り上がりを夢見る者や、一発逆転を狙う命知らずたちがこの枠を埋めている。


 彼らの装備は持参で、正規兵と比べて粗末なものだ。



「よっしゃぁ、オークなんぞおれがぶっ殺してやるよ!!」



 恐れ知らずの無頼者がすぐさま挑戦した。

 男は吹き飛んだ。

 訓練場を囲う塀の向こうまで飛んでいった。



 一撃。



「オークだと思って侮るな。当然リスクはある。命がけで来い」



 最初に全力を出したことで、欲望に駆られた者たちの熱はすぐに冷めた。




「次はおれだ」



 手を挙げた男は慎重に戦闘態勢を取った。


 魔力を用いたスピード増強。

 魔力が生むある種の反発力を用いた急加速。



 懐に飛び込み、ショートソードで斬りかかる。

 斬ったのはオークの残像。

 握っていた剣が手元から弾かれた。前蹴りを食らいノックアウト。



『加速』にオークがあっさりと対応した。

 その事実が恐怖を蔓延させる。

 そして、ドドは相手に何も言葉をかけない。



 ルークは後見人となった手前、やや不安を覚えた。


「まさかあやつ、ここにいる非正規兵を叩きのめす気か?」

「ドドは私と違って賢い。そんな意味のないことしない。何か目的があるんだ」



 次にドドの前に立ったのはドドを超える長身の男。

 非正規兵と言っても元冒険者で訓練を受けた実力者。



(確かにこれだけ動けるオークは見たことがないな。だがオークだと思わなければいいだけのこと)



 男は全身を『強化』した。

 大剣を構える。



(素早い魔物相手には不用意に飛び込まず、攻撃の瞬間を待つ)



 男はじりじりと間合いを詰める。

 ドドは初めてコスモスをまともに振った。


 男は迎え撃った。

 剣と剣が激突。

 両者の身体が後方にはじけ飛ぶがややドドの方が体勢不利。



(魔力なしでこのおれとほぼ互角だと……!! だが……もらった!!!)


 男は前に出た。


 力任せに振るった剣。


「ぬん!!」


 地面を穿つ勢いで売り込まれた剣はコスモスで受け流された。



「何!?」




 男の首に剣が突きつけられた。

 純粋な剣技の差。



「器用な奴だ……くそ、参ったぜ」



 スピード。

 パワー。

 どちらも通用しない。



 次は大楯を持つ男。

 装備が違う。

 正規兵だ。この場を監督している立場のある男。



(これ以上オークに好き勝手させるのは好かん。兵の士気に係る)



 じりじりと距離を詰めて、斬りかかるタイミングを見計らう。不用意に攻めないドド。


 間合いに入り、男が鋭く剣を突く。


 攻撃の瞬間盾の守りが緩む。その隙にドドは男の腹に蹴りをお見舞いした。


 しかし男は倒れない。



「……ほう」



 ドドは手ごたえに反し、ケロッとしてる男に感心した。



「魔力の『纏』を習得した者に魔力の無い攻撃は効かん。さて、あやつはどうするかのう?」

「そうね」



(防御特化。魔力を纏うことで鎧と化す。ドド、どうする?)


 突き出された剣を躱し、腕を捕らえた。



(城兵長との戦いは見た。そう簡単に関節を極めさせるものか!!)


 男は大楯で殴りつける。

 十キロ近い金属は鈍器になる。



 しかし、ドドは全く怯んでいない。



「この!!!」



 魔力を込めた打撃。

 しかし、ドドの身体には有効ではない。


 すくっと男の身体が浮いた。

 片手一本で投げられた。アームホイップ。

 地面に叩きつけられる。



 すぐに起き上がる男。見失ったドドを探す。

 その顎に拳がかすめる。



「なぁ?」


 男の脚はとたんに不安定な地面に翻弄され、立っていられなくなった。



「あれは」



(私もやられた。やはり魔力で護っても意味ないのか)



「ほほう、エルフに伝わる武術にあのような技があると聞いたことがあるが、実際に見ると魔力を使っていないとは信じられんのう」



 不穏な空気が流れる。

 挑戦者たちのレベルは確実に上がっているのにも関わらず、ドドに一太刀も入れられない。

 この勝負に勢いやマグレ、運は関係ない。

 ドドに勝つには相応の実力が必要である。



「次は私だ」



 その空気の中、手を挙げたのはブリジットだった。



 高まる期待。



「七つ星冒険者の戦いが見られるとは」

「一体どちらが強いんだ?」



 対戦カードの話題は城中に広まり、観戦者は一気に増した。



 先手はブリジットから。

 長身と長剣の組み合わせで、間合いは恐ろしく広く、魔力による加速で剣を振るう。

 剣は光のオーラが纏う。これは属性魔法に分類される。


 加速に属性魔法。

 複数の用途で魔力を同時に運用できるのは英雄職の才覚ゆえだ。


 横薙ぎの一閃をドドが身をかがめ躱す。

 そのまま脚を狙った蹴り。これをブリジットが躱す。


 すぐさま態勢を立て直し、上段から斬りかかるブリジット。間合いの外だが光のオーラで刀身を延長して見せた。一度限りの奇襲。


 振り切る前に動きが止まる。

 そこにいるはずのドドがいない。


 否。

 下から蹴りが腹にめり込んだ。



(あの体勢から即座に私の動きを読んであんな蹴りを……!)



 強力な蹴りを当てるための工夫。

 その内の一つは死角から打つ。


 極近距離から身体を折りたたむようにして後方へ蹴り上げる。相手に背中を見せるような体勢だが、視界から消えるため、避けにくい。

 躰道における海老蹴り。



「お、その光。守りもできるか」



 とっさに光のオーラでガードし、ブリジットは無傷。



「おおお!!!」



 2人の攻防の油断なさと迫力に歓声が起こる。



「今の攻撃で仕留められないとは。やはり、強いなドド」

「まだまだこれから」



(わかっている。ドド、これはデモンストレーション。より多くの技を見せれば、その有効性が伝わる。そういうことだろう?)


 ブリジットの光のオーラは攻撃も守りも自在。加えて加速と感覚強化にも魔力を割いている。

 ブリジットには先の三名のような弱点は無い。



 対するドドは魔力が無いためただ肉体の技能でのみ戦っている。



 いや、技能を魅せる戦い方を選択している。

 ドドなりにこの事態について打開策を考えていた。オークである自分が人に信用されるためにどうすれば良いのか。


 気になったのはブリジットやジェミニの反応。それは前世ではなかったものだ。

 前世と違うのは生きるために、技を使用したこと。


 自分に向けられた多くの技が、ドドを今活かしている。



(人が惹かれるとすれば、長い年月を費やし、研ぎ澄まされた彼らの『武』。今ようやく分かる。あの不毛とも思える戦いの日々は、この時のためにあったのだと。そして感謝しよう。おれを脅かしていた彼らとその『武』に)


 暴力の権化は異世界で真に荒神へと歩み始めた。



 眼にも止まらない攻防。

 入れ替わり立ち代わり、ブリジットの猛攻をしのぐドドとドドの技に対処するブリジット。

 ふと、ドドが無造作に体を間合いに入れた。

 カウンター狙いの誘い。


 ブリジットは避けられた場合を想定して剣を振るう。



「な?」



 ドドはブリジットの剣を掴んでいた。



(これは最初に会った時、やろうとしていた……まさか剣を掴む技があるなんて!!)


 直後、剣は彼女の手から離れた。

 手首を抑え刀身の腹を弾くようにして剣は彼女の手から零れ落ちた。



 真剣白刃取りから武装解除術。



「さて、次は誰だ?」



 ポカンとするブリジット。

「これで終わり?」と言いたげだ。


「チョット待て! ドド、何か、こう……無いのか?」

「ん?」



 ドドは首を傾げた。



「オツカレサマ?」

「違う。ドドは指南役! ドドから見て私はどうなんだ?」



 ドドはこれまで挑戦を受けることはあっても相手にアドバイスをしたことなど無かった。


「そうか……倒したからといって勝手に強くなったりはしないのか」

「は?」



(おれに諦めず何度も挑戦してきた奴らは、挑戦の度に強くなっていた。だがここでは、ただ相手を叩きのめして追い詰めてもダメか。そりゃそうだ)



 ドドは先ほどの戦いを思い起こす。

 ブリジットは緊張して待つ。

 それを周囲も見守る。



 あのブリジットがどうしてああもいとも簡単に負けたのか。



 理由が分かるなら聞き逃せない。



「おれに剣筋を見せすぎたな」

「チョット待て! 私の剣を見切ったというのか?」

「距離を詰めて突き。横薙。上段からの振り下ろし。それだけだろう?」

「いや、『加速』と光魔法を使っているんだが」

「ふむ。一撃必殺の域に達していない。その技は未完成。未完成の技を連続して出しているだけで、型でも何でもない。もっと戦略の組み立てに沿って肉体作りから始めた方がいいな」



 唖然としてショックを受けているブリジット。


 色々言っているが、要するにドドから見てブリジットは単なる鍛錬不足らしい。




「肉体作りとは?」

「食生活を変え、鍛錬で鍛える場所を考え、無駄な筋肉は削り、必要な場所に適切な筋肉をつける。あとは……」



 ドドの説明は明瞭かつ、知識に富んでいた。陸上十種では肉体のコントロールのために必要な筋肉を繊細に取捨選択する。

 どこにどんなタイプの筋力をつけるべきか。またそのためにどんなトレーニングをするのか。



 蔓延していた恐怖感や嫌悪感が薄れていった。

 雄弁に語るオークの話を興味深く多くの兵士が聞き入った。



 ドドへの挑戦の機運が盛り上がり始めた。



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