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9.波乱のオーク―――アンノウン

 カースタッグ兵に恐怖が蔓延した。

 自然と騎士たちが剣を抜いていた。


 ドドを包囲する王国から選りすぐられた騎士、魔導士、司祭。



 全身に憤怒を纏い、城代ガナムが息子を打ち負かしたオークへ今にも飛び掛かろうとしていた。



 ドドはこういう展開を良く知っていた。

 一度戦えば、次から次へと戦いが舞い込んでくる。

 いつもと同じだ。恒例行事と言ってもいい。



「ま、待て!」



 違ったのは負けたジェミニという男の反応だった。



 怒りではない。恐怖でもない。

 その眼には感嘆からくる畏敬が宿っていた。



 ジェミニは剣を突き立て、膝を着いた。



「私は負けた。約束通り、指南役をお願いしたい」



 城兵長ジェミニの申し出は城内に、城市に、そしてドドに衝撃をもたらした。



 ◇



「どうしたものか」



 ドドは一人部屋のなかで考えをめぐらしていた。

 檻ではなく部屋なのはジェミニの計らい。

 部屋の外が兵士で厳戒態勢なのはガナムたちの指示。




 今、城内が揺れている。自分をめぐって。

 城兵長ジェミニがドドを重用すると宣言した。それに反目する者たちが多数。



 彼らはドドの処遇を巡り、ブリジットを交えて一席を設けた。

 円卓を囲み、対応の話し合いが行われている。



「あのオークは一体何なのだ? エルダーではないのか?」

「いやいや、だとしたら魔力でわかりましょう。エルダーの前にハイ・オークでもない。奇天烈なオークとしか言いようがありませんのう」



 エルダーではないことは魔導顧問、塔の魔導師ルークが否定する。



「なぜ話せる?」

「その昔、魔物とは皆獣同然だったはず。何の因果か、邪な魔物が知恵をつけ、魔族となったと言われております」

「つまり、あのオークは魔族ということか!?」

「いやいや、むしろ魔力を失っているのですから、オーク未満とでも言いましょうか」

「なら危険は無いと?」

「何を可笑しなことを」



 声を荒げたのは聖堂の司祭グロン。



「あのような醜い化け物が城内を闊歩するなどそれだけで不衛生だ。即刻始末するべきですよ」



 力ある聖堂の代表者の発言で、結論は決まったかに思われた。



「王都には栄光の『黄金龍ゴールデンドラゴン』、王家の守護者ジュエル」



 口火を切ったのはジェミニだ。



「北部には平原の支配者、『嵐の神狼(フェンリル)』ライフル、西の連峰、『魔導の塔』に住まうは空の覇者、『荒山の幻翼獣(グリフォン)』エクセリオン、東の海洋には不可侵の領域『大海蛇シーサーペント』ウリオノール……彼らは魔物でありながら人語を解し、人と共生している」

「何を言う! あれらは古より人が崇めし神獣だ! あの汚らわしいオークを同列視するなど、畏れ多い!! 冒涜ですぞ!!」



 グロンが激怒する。

 人語を話す魔物はドド以外にも存在する。

 ジェミニはドドの中に、それら神聖獣に値する何かを感じた。



「同列などしていない。私は、人と魔物の関係は多様だと言いたいだけだ」



 ジェミニの言葉を聞き、ガナムが口を開く。

 その関係性のこれかれについて。


「ブリジット殿、あのオークが我らに危害を加えないと保証できますか?」



 静観していたブリジットは入城してから初めて表情を緩めた。



「ドドは私の命を救い、師匠の魂を救った大恩人だ。人じゃないけど……」



 まっすぐ言い切ったその言葉に、反対派が揺れた。

 彼女は一切ドドを疑っていない。言葉を尽くさずともそれははっきり伝わった。



「まぁ、そもそもここで話し合っても無駄だ。ドドは私より強いと言ったが、ここに居る者が束になっても敵わない。集団で掛かればいいというレベルではない」

「ふ、大げさな」

「ドドはエルダー・ゴブリンの巣を一人で掃討した」



 司祭グロンは顔色を変えた。


「エルダーゴブリンの巣ですと?」

「ああ、しかもただのエルダーではない。ラブロンの森のエルダーゴブリンだ」



 列席の面々は顔を見合わせる。

 その戦力は単にエルダー・ゴブリンと同格とは断定できない。複数のハイゴブリンを含む軍勢を相手に掃討するのは圧倒的に力が勝っていなければできない芸当だ。





 カースタッグ兵がそれをやるなら、全軍でできるかどうか。

 必ず死者がでるだろう。



 モンスタ―の格はその脅威度で五つの位階で定めさらに五段階の等級で分け、25段階に振り分けられる。


 脅威度が小さい順から―――

 第一位階『腐緑』代表格はゴブリン

 第二位階『凶黄』代表格はワーム

 第三位階『血赤』代表格はオーガ

 第四位階『死紫』代表格はワイバーン

 第五位階『暗黒』代表格はドラゴン


 エルダーゴブリンは第三位階『血赤1』

 しかもラブロンの森の等級は二段階上がる。

 単体で『血赤3』

 コスモスを有していたため実際は『血赤4』相当。そこにハイゴブリン等の群れであったことを考慮に入れれば、ドドが壊滅させた巣の脅威度は第四位階『死紫』に相当した。



「馬鹿な。オーガの群れより脅威度が上だというのか!?」

「『死紫』となるとワイバーンやデーモンクラスですぞ?」


 円卓は大きく揺れた。


「ドドに教えを乞うのは真っ当だと私は思う。指南役をドドがやるなら、私が一番弟子になる」


 ブリジットの言葉は話半分にしか聞き入れられなかった。

 結局話し合いは、ドドの処遇を保留することに決定した。結論の先延ばしだ。


 騎士たちは脅威と名誉の間で揺れた。

 中にはジェミニの城兵長の任を解くべきだと言う者もいた。

 しかし、この地に迫る危機を前にそれはできない。


 一先ずブリジットに滞在してもらいたいカースタッグ側は彼女の言葉を信じるフリをした。




 かくしてドドとブリジットは城での滞在を許された。



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