7.城の中―――ナイトオブラウンズ
灰色の石でできた通路を進むブリジット。
その後ろをドドがついて歩く。
二人は鉄を纏った兵士たちに誘導されている。
カースタッグの城兵たちだ。
「ここカースタッグは広大なラブロンの森から北方面を護る最前線だ。領主は軍務卿のイリリオ・サンゼリオン公だがここの城代は代々カースタッグ家が務めている。王命で王国各地から勇士も徴兵され派遣されている。塔からは魔導士、聖堂からは司祭が派遣されている。今の城代は騎士ガナムで……」
ペラペラとカースタッグ城について説明しているのはブリジットだ。兵士たちは首を傾げる。当然だ。釈迦に説法。カースタッグ兵は説明されずとも知っている。
一体誰に説明しているか?
まるで空間に話しかけているようだ。
「あの、ブリジット殿、先ほどから誰に説明されているのですか? 怖いんですが」
「独り言だ」
彼女はドドに説明していた。
ここでの態度振る舞いは、王にも伝わる。
怪しきは罰せられる。
ドドが闇の王と戦う前にリドリア王国を敵に回すことになる。
(ブリジット、わざとやっているのか。それとも天然か?)
ドドもブリジットの予想外の動きに困惑していた。
当初の計画では彼女の師の一人、勇者マリアと共に戦った塔の魔導士に会いに行くはずだった。
荷馬車の製造を依頼するなどまごまごしている内に案の定武勇猛々しいブリジットは城に招かれてしまったのだ。
迷路のような城の奥、一際重厚な鉄の扉を近衛兵が開く。広い居室には空席の玉座。その傍らに白い髭を蓄えたロートル。
その前に並び立つ兵士たちが玉座への道をつくっている。
ブリジットは促され進み、止まった。
「ようこそおいでくださいました、ブリジット殿」
「先を急ぐ。要件があるなら手短に頼む、サー・ガナム」
ドドには冒険者と城を任される騎士の立場の差が分からない。
しかし、どう考えても自由職のブリジットと軍事の総督たるガナムでは、立場が違う。
(おいおい大丈夫か?)
案の定、立ち並ぶ城兵たちがブリジットに剣を向けた。
「無礼な! 冒険者風情が!!」
「ちゃんと称号をつけて呼んだぞ?」
まったく悪びれた様子がないブリジット。
旅路をブリジットに任せるのがいよいよ不安になるドド。
「良い……この方は我らが恩人、勇者マリアの直弟子にして光の加護を受けた英雄職。なればこそ、マリア殿の意思を引き継ぎ、彼女の残した仕事を頼みたいのだ」
ガナムが説明したところによれば、元々この地にマリアが訪れたのはオーガの襲撃への助力を請うためだった。
彼女はオーガが大量に発生する原因を調査するためラブロンの森に入り亡くなった。
その仕事を引き継げという言い分だ。
無論、これはただのこじつけである。
彼らの目的はより優秀な冒険者をこの地に引き留めること。
今や勇者が死んだラブロンの森には一層冒険者にとって敷居の高い土地となった。
ブリジットがこの地を足早に去れば、冒険者たちの認識はより厳しいものとなる。
武力の放流を避けたい。それが城を預かるガナムの真意。
そのことはさすがのブリジットも承知していた。
貴族は強い冒険者を手元に囲いたいものだと経験上知っていたからだ。
貴族の要請を面と向かって断ることはさしものブリジットにも憚られる。後々面倒になるからだ。
そこにきて彼女は妙案を思いついた。
それは計画の変更。
というより、大胆かつまるっきり方向性の違う計画へとシフトした。
「一つ条件がある」
「もちろん、報奨金は弾みますぞ」
「いや、正式に雇ってもらいたい。できれば武術指南役として」
その申し出はガナムには願っても無いことだった。
「あなたの実力は知っている。教官として申し分ない」
「いや、私ではない」
ブリジットは笑みを浮かべた。
それを見てドドは嫌な予感がした。
「では、誰を採用すれば?」
「ここにいる、私の従魔ドドだ」




