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ロザリンドは驚いていた。冷静沈着な彼女が目を見開くのは大変珍しい。
「シャァァァ!! ブギャアアアア! フンギャアア!!」
「うふふ、かわいいですねー。うわ、ここ泥が固まってこびりついてるぅ! あ、ここも!」
「ピギャアアアア! キッシャアアア!!」
「ワフワフ!」
「おお、ほんとに白いネコちゃんだったのね!」
「ワンワン!」
「シャー! ジャー!」
「ワンワン!」
「わぁ、綺麗になった~。やっぱり汚いと虫もくるし良くないよね~」
「シャァア……」
「青果店で野菜運んでたから私けっこう力あるの~」
餌を食べ終えたエリーザベトを難なく捕まえたエレノアは暴れまくるネコをものともせずに、容赦なく洗い始めた。
なぜかオニキスまでついてきて、こちらは楽しそうに尻尾を振って一緒に湯を浴びている。
エリーザベトはネコとは思えない声を上げながらエレノアに引っ掻いたり、噛みついたりするが、エレノアはへらへら笑いながら洗っている。
「あのエリーザベト様の攻撃にノーダメージ……」
「手袋してても噛まれたらめちゃくちゃ痛いのに」
「エリーザベト様、容赦ないからな」
「あの子、すごくね?」
「なんかエリーザベト様、元気なくない?」
これまでエリーザベトを洗おうとして敗北してきた使用人たちが続々集まってきている。仕事しろ。
***
エリーザベトは最初こそ暴れまくっていた。これまでの使用人はそれで撃退できていたから。正直、人間など舐めていた。
しかし、この見覚えのないへらへらした女は引っ掻いても噛みついても何の反応もない。「かわいいでちゅね~」なんて言っているだけだ。渾身の引っ掻きも噛みつきも意味がなかった。エリーザベトは得体の知れないこのへらへら女を心底恐ろしく感じた。
というか、エリーザベトは自分がこの家でトップだと信じていた。使用人たちはビクビクしながら傅いてくる。オニキスは……アホなので除外だ。あれはどんな人間にも尻尾を振る、プライドも何もないクソ犬野郎なのだ。
エリーザベトのプライドはその辺の山よりもよっぽど高かった。しかし、今日のお風呂でエリーザベトのプライドはエレノアに対してはぽっきり折れてしまった。
「さぁ、綺麗になりました~! ふきふきしましょう!」
今度は容赦なくタオルで拭かれる。濡れるのは嫌いだったが、泥が落ちたので体が軽く、さっぱりしている。ずっとこびりついていた毛も綺麗になり違和感もない。かゆみもない。
しかし、そんなことは折れてもプライドが高いのでおくびにも出さない。
「じゃーん」
「おぉ! 真っ白だ!」
不機嫌な顔を隠しもせずにタオルからふらつきつつ出てきたエリーザベトは、使用人たちの歓声に迎えられた。
エレノアはエリーザベトが暴れたせいで服がびしょ濡れだ。手袋を外した手はエリーザベトのひっかき傷や噛み跡だらけである。
なんなんだ、こいつ。
エリーザベトは知らないうちに身震いした。