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「おかえりなさいませ」
公爵邸に到着すると、制服を着た人たちがずらりと並んで一斉に頭を下げる。角度までぴったり同じだ。
「うわぁ!」
「彼女が公爵家で保護されることになったエレノアだ」
エレノアに使用人たちの視線が集まる。
「殿下からの願いでもある。俺の婚約者と同等と考えて扱うように」
「エレノア様。お部屋にご案内します」
デンカって何ですかね?
明らかに仕事ができそうな40手前くらいの女性が口を開けた状態のエレノアの前にやってきた。侍女頭でロザリンドという名前らしい。
「こ、こ、ここは……お姫様が泊まるお部屋ですか!」
「公爵家の客室になります。こちらのお部屋は好きにお使いください」
「このベッド、何人雑魚寝できるのかしら……」
「明日からのスケジュールは決まり次第お伝えします。休憩されてから屋敷の中を案内しても?」
「あ、今からでも大丈夫です!」
公爵邸を案内されたが、エレノアの口は開きっぱなしだ。とにかく広い。大きい。
「執務室やプライベートなお部屋などには出入りされませんように。図書室や遊戯室などは自由に使えます。茶会や夜会を開催する場合がございますが、それはすでに予定が分かっているものなので事前に伝えます。その時はお部屋から出ないようにお願いします」
「はい」
そんな会話をしていると、前から黒い塊が走ってきた。
「ワフッ!」
黒い塊はエレノアに勢いよく飛び掛かる。あらまぁと反応が遅れたエレノアはそのまま塊と一緒に倒れこんだ。
「だ、大丈夫ですか? こちらはカイル様が拾ってこられた犬でオニキス様です」
犬にも様付けなのか……すごいな公爵家って。
ロザリンドはオニキスを上からよけてくれる。しかし、オニキスは起き上がったエレノアに再び近寄ってきて頬をペロペロベロベロ舐め回す。
「このように大変人懐っこいので……番犬ではございません」
「あはは、そうですね」
「他にもカイル様が拾ってこられた猫が……あ、今あちらにいらっしゃいますね。エリーザベト様です」
その名前は女王様か?
オニキスのペロペロ攻撃を受け止めながらどうにか廊下の先を見る。茶色と白のまだらのネコが優美に歩いていた。
「シャー! キッシャー!」
近くを通った使用人をエリーザベトは噛みつかんばかりに威嚇している。声は優美ではなかった。
「エリーザベト様は大変高貴な方で、人間に指一本触らせません。泥遊びを好んでおられてそろそろお風呂に入れてさしあげたいのですが、引っ掻いて噛むので誰も手が出せず。本当は真っ白なネコなのです。あの茶色は汚れです」
「あ、なら私お手伝いできると思います」
「エレノア様?」
「ただ飯食らいでは申し訳ないと思っていました! ぜひぜひやらせてください!」
「皆、ネコ相手だと舐めてそう言って後悔するのですよ……」
***
ロザリンドは期待も何もこめずカイルが拾ってきた動物、ではなく人間を見つめた。
カイルが動物を拾ってくるのは三回目。エリーザベト(猫)、オニキス(犬)、そしてエレノア(人間)だ。人間は初である。使用人達で「とうとう人間を拾ってこられた」と話していたところだ。
ブラッドリー公爵家の次男には代々役目がある。決して表には出ない裏の役目だ。
ロザリンドだってそのお役目について詳細は知らない。使用人の中できっちり知っているのは家令のレオポルドくらいだろう。
「餌の時間が終わったら捕まえましょう!」
「では、湯の準備をしておきますね」
目の前の拾われてきたエレノアは無邪気に笑う。平民のわりに所作や喋り方は丁寧だ。目を覆いたくなるほどガサツで困るということはない。つまり、ロザリンドはエレノアに対して不快感をあまり抱いていない。
まぁ付き合ってもいいか。どうせエリーザベト様に引っ掻かれて泣いて諦めることになるけど、と予想しながらロザリンドは答えた。