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三日ほどで熱が下がり、エレノアは公爵家に移された。
「うわぁ、おっきいおうち」
「馬鹿みたいに口を開けるんじゃない」
「はい、ご主人様」
「ご主人様はやめろ。あと、口を閉じろ」
「いやぁ、そう言われても……無理です」
旦那様とは呼びづらい。だって、公爵様がいるならその人が屋敷の旦那様だよね?
それに「ご主人様」が一番しっくりくる。
「はぁ……まだ犯罪グループの残党に狙われるかもしれないから外には出るな。あとあの日見たこと聞いたことは俺以外には喋るな」
「え、じゃあ青果店のハンナおばさんに挨拶は?」
「辞める話はすでにしておいた。君の家の私物も全部持ってきてある」
「わぁ! ありがとうございます! でも私からはなんの挨拶もなく出てきちゃったので手紙は書いてもいいですか? あう、でもそしたらハンナおばさんにも危害が及ぶかも? あ、えっと、あとキッチンは使わせてもらえますかね?」
「気になるんだろうからどうしてもと言うなら手紙はダメだが伝言をしておいてやる。それとなぜキッチン?」
馬車の向かいの座席でカイルは怪訝な顔をしている。
あー、この人。そういえば声に聞き覚えがある。私の額に指を突き付けてきた人だ。今気づいた。いろいろ聞きたいことがありすぎて先にキッチンのことを聞いてしまった。
「だって、自分で料理しますから。キッチンは大事ですよ?」
「料理は料理人がするから君はしなくていい」
「え! 三食全てですかぁ!」
「あぁ、アフタヌーンティーの時間もある」
「なんですと! 自分で料理せず作ってもらえる!? そんな上げ膳据え膳が許されるのでしょうか! お金がかかりますよね!?」
「金については気にしなくていい」
お貴族様、すごい。いや公爵様がすごいのかな。公爵家って貴族のトップだよね? 上げ膳据え膳。仕事も勉強以外特にない。外には出られないけど。お金も気にしなくていい。
あれ。これってペットでは? なるほど、犯罪グループが捕まるまでは公爵家のペットとして居ればいいのね。
「まぁスキルについていろいろ聞かれたり、実験のようなこともされたりするかもしれない」
あ、もしかして実験動物的扱いですかね。それとも頑張って家畜みたいな扱いからペットに昇格しろってことですかね。
お貴族様は人間をペットとして飼うこともあるのね。一昔前は奴隷制度もあったし、今の流行りはペットなのかしら。
そうよね、高位のお貴族様の使用人はどれだけ外見が綺麗かも重要だってお母さんが言っていたし。使用人枠とペット枠ってあるのかもしれない。
家に帰れないのは残念だけど、あの家に一人でいるのも寂しかった。
お母さんとの思い出がいっぱいあるから。お母さんが帰ってきていた時間になるといつも期待してしまう。ガチャって扉が開くんじゃないかって。
一人は寂しい。すごく寂しい。
家事を終えて戸締りを確認した後に訪れるあの静寂の瞬間。あれが嫌だった。静かなのはエレノアが一人であると現実を突き付けてくる。
「頑張ります!」
「なんだか嫌な予感がするな」
カイルはずぅっと難しい顔をしていた。熱が出ているときは機嫌が悪いのかと思ったが、この表情が彼にとって普通のようだ。