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いつもお読みいただきありがとうございます!

 しばらく後処理でカイルたちはとても忙しそうだった。公爵邸に帰ってこない日も多々ある。足を骨折しているのに大丈夫だろうか。


「君の二つ目のスキルがやっと解読できたよ」


 公爵邸にふらりとやって来て、エレノアを『瞬間移動』のスキルで王宮まで連れて来たのは第二王子だ。


 公爵邸で喋ればいいのにとも思ったが、クラリッサと会えたので良しとした。あのパーティー以降彼女たちとは会っていなかった。


「君の二つ目のスキルは『吸収』。貴族にはこのスキル持ちは誰もいなかったよ。おめでとう、正真正銘新種のスキルだ」

「きゅうしゅう」


 王子はぱちぱちとやる気なく手を叩いていたが、すぐにやめた。


「反応に困るから、そういう『大したことないな』みたいな顔はやめてね。新種だから」

「ずっと分からなかったから、もっと大層なスキルかと思っていました」

「大層なスキルだよ。今の君では触った部分の他人のスキルを無効化したり、痛みを吸い取ったりする効果しかないけれど、使いこなせるようになれば他人のスキルを吸収して奪って自分のもののように使うこともできる」

「それって……もしかして」

「おそらく、君の母親が持っていたスキルだろう。君の母親は危険が迫った時にそのスキルを知らずに使って、フェルマー公爵夫人の『同化』を奪ったんだ。もう確かめようはないけれどね」

「奪ったスキルって返せるんですか」

「うーん、新種のスキルだからまだ何とも。訓練してできるかもしれないし、できないかもしれない」

「そうですか」


 終わってみると呆気なかった。

 フェルマー公爵夫人はスキル無しになってしまったのを恥じ、エレノアの母親を血眼で探したが見つからず。そのうちに孤児や平民からスキルを奪うことを思いついたようだ。


 さすがに『同化』のスキルは珍しすぎて、孤児や平民の中にそのスキル持ちはいなかったようだ。スキルを他人から奪う研究をまず夫人は進めていたが、とにかく研究には金がかかる。そこで人身売買を持ち掛けたのがアバネシー侯爵だったというわけだ。

 エレノアが誘拐されたため、夫人を逮捕できていろいろ踏み込んだ捜査ができたらしい。


「結局、私の父親はフェルマー公爵なんですか?」

「そうだ。彼は驚くべきことに君と君の母親をずっと探していたと供述している。なんと、フェルマー公爵夫人がずっと妨害していて探し出せなかった。君の母親が『同化』のスキルを見事に使っていたせいもあるかもしれないけどね」

「信じられません、そんなこと」


 エレノアは膝の上でぎゅっと拳を作る。

 クラリッサが気を利かせて、お菓子をわざわざ口元まで運んでくれる。有難く口を開けてお菓子を食べると、王子は羨ましそうにこの光景を見ていた。


「君の母親は公爵について何か言っていなかった?」

「特には……覚えてません。父親のことを聞くと悲しそうな様子だったくらいしか」

「とっても言いにくいんだけど、公爵は君の母親と恋仲だったと言っている」


 言いにくいと口にしつつ、第二王子は軽く口にした。

 少しエレノアは救われた。重々しく言われたら、怒りで目の前が真っ赤になっていたかもしれない。冗談かもと流せる軽さだった。


「恋仲なら……なんで? なんでお母さんはあんなに苦労しなきゃいけなかったんですかね」


 フェルマー公爵夫人はお母さんを泥棒呼ばわりしていた。あの夫人のせいでお母さんは逃げ出したのかもしれない。でも、ずっとどこの誰とも分からない父親のことは考えないようにしてきたのだ。


「これまたとっても言いづらいんだけど。フェルマー公爵は君のことをできれば引き取りたいって言ってる。もちろん、言ってるだけ。俺は一切許可なんてしてないし、カイルはキレてる」

「ご主人様の足は大丈夫ですか」

「治りを早めるスキル持ちがいるから大丈夫だよ、君の指より早く治る」

「なら、良かったです」


 会話が途切れると、クラリッサがすぐに美味しそうなお菓子を口の前の絶妙な高さに差し出してくれる。エレノアは誘惑に負けて大人しく口を開けて咀嚼を続けた。


「公爵は人身売買に関与してなかったんですか? 逮捕されたって聞いてないです」

「なんと今のところ関与はないんだよ。むしろ、自分の妻を疑って彼はずっと探っていた。その部分の記憶をカイルが見て、最初は関与していたと思ったようだけどね」

「実は公爵がすっごい黒幕で、証拠も出ないようにしてうまいこと逃げおおせるってことはないんですか?」

「俺もそれを一番疑ってるよ。だから、徹底的に調べてる」

「どうかお願いします」


 今更、父親面してエレノアの人生に関わってこられても困る。

 お母さんといつから恋仲だったの。そもそも、なんで結婚してるのに……いや、お貴族様ならよくあることか。

 クラリッサがエレノアの手を握ってくれたので、滲んだ涙はなんとか引っ込んだ。

 お母さんがそんな人だったなんて思いたくもなかったし、ずっと無理矢理だったと思ってたのに……。


「公爵の関与をまだまだ調べるから、君には引き続き公爵邸にとどまってもらうけど。全部終わったらどうするか考えてる?」


 王子にそう問われて、あぁと思い至った。

 エレノアは保護のためにブラッドリー公爵家に身柄を預けられていたのだった。人身売買の件が解決したなら、もうブラッドリー公爵家から出て行かねばならない。


「お母さんと暮らしていた家は……もう賃貸契約切れてますし……あ、そういえばピーターは?」


 あの現場でピーターは大丈夫だと言われて以降、すっかり忘れていた。


「無事だよ。といっても腹を刺されたから療養中。その後、君の誘拐と王宮の放火で裁かれるけどね」

「そうですよね……ハンナおばさんにも会わせる顔がないし……」


 ピーターのやったことは明らかに犯罪だ。

 ヒヴァリーを縛り上げてあの場に放置したことは許せない。エレノアを助けようとしてやったことらしいけれど、ヒヴァリーまで命の危険にさらすことはなかった。エレノアとしては自分がされたことはどうでもいい。フェルマー公爵夫人がほとんど主導していたのだし。


「全部済んだら新しい土地に行こうかなって思います」

「ねぇ、君ってさ。スキル関係なく鈍感って言われない?」


 王子はクラリッサとアイコンタクトを取りながら、呆れたように聞いてきた。


「ずっと言われてますけど」

「だよね。あんだけイチャついててこれだもんね」


 王子の言っている意味がエレノアには分からなかった。


「カイルは記憶の解析が全部終わったらすぐに帰すから。もうちょっと待っててね。あ、スキルの訓練なんかは続けてくれる? なんといっても新種のスキルだからさ」


 エレノアは父親のことを頭から追い出して頷いた。

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