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「カイル。君は今、本当に冷静なのか?」
「極めて冷静だ」
カイルはヒヴァリーが閉じ込められ火事になった部屋が見える庭にいた。側にはレオポルドも立っている。
「じゃあどうして公爵家から犬と猫をわざわざ連れてこさせたの!? いくらダンカンのスキルが使えなくて彼女の居場所が分からないからって。もうちょっとほら、誰かのスキルがあるじゃん?」
「追跡系のスキルは珍しく、使えるのはダンカンだけでしょう」
第二王子ゲイリーに止められているが、カイルはオニキス(犬)とエリーザベト(猫)にエレノアの服の匂いをかがせている。服も公爵家から持って来たものだ。
「でもほら、スキルで嗅覚の鋭くなる人間もいるから! あとは足跡を判別できるのとか! 心を読める部下もいるから今やらせてるし!」
「じゃあ早くしてください。誘拐ならすぐ殺されることはないかもしれませんが、あいつは鈍感なので他人の神経を無意識に逆なでします。殺されるかもしれません」
「カイル、エレノア嬢のこと心配してるんだよね? どうなのその言い方って。いやもちろん、大変説得力あるけど」
第二王子の隣ではクラリッサが目を瞑り、パーティー会場で怪しい動きをする人間がいなかったかなど手がかりを必死に思い出している。ダンカンは会場で手がかりを探している最中だ。
「思い出しました。ピーターとは、エレノア様が働いていた青果店の店主ハンナの息子の名前です。書類で見ました」
「いたか、そんな奴」
「店主の息子には会ってない。確か親類のやっている他の店を手伝いに行っていて、いつ帰るか分からないと」
「じゃあそいつにはカイルのスキルを使えてないってことか」
「ヒヴァリーの話によると男の一人はピーターと呼ばれていたそうなので、彼でしょうね。パーティー会場でエレノア様をチラチラ見ている給仕がいます、いえ、いました。彼が潜り込んでいたようです」
「給仕の監督を調べろ。あと今日入るはずだった給仕の行方も探せ」
クラリッサは映像をはっきりと思い出しながら説明するせいで時制が怪しくなる。カイルも他人の記憶を読み取ってできるが、クラリッサは自分の目で見たものを完全に記憶できるのでカイルの出る幕ではない。
「ワフ!」
「オニキス、何か見つけたか」
「ワッフワフ」
オニキスはその場で嬉しそうにぐるぐる回った。落胆の雰囲気がカイルの顔に満ちる。
「カイル、いくら犬でもこういうのは訓練していないと」
「シャー!」
「今度は猫!?」
「シャア!」
エリーザベトはオニキスと違い、クンクンしながら迷いなく歩み始めた。カイルたちが驚いてついてこないのに気付くとあんたら何しとん?とでも言いたげに睨んでくる。
「エリーザベト、まさか分かるのか?」
「シャー!」
「え、カイル。まさかその猫のこと信じるんじゃ……」
「今のところこれしかありません」
「頭おかしくないか!?」
第二王子ゲイリーの叫びもむなしく、カイルはエリーザベトの後を追いかけた。その後をオニキスも楽しそうに追う。
「だめだ、あいつ頭に血が上ってる。おい、カイルに三人ついて行け。どこにいるか連絡を怠るな! そして、公爵たちの動向は?」
「二人ともまだ会場にいますわ。酒を飲みながら火事について話しています」
「人を使ったにしても優雅な行動だな。すぐ帰宅しようとしたところで馬車がごった返しているから賢明な判断ではあるが」
「犯人もそれで捜索が遅れると踏んでいるのかもしれません」
クラリッサはそこまで言ってから美しい眉を寄せて考え込んだ。
「どうした、クラリッサ。何か気になることでも?」
「気のせいかもしれませんが……」
「君の記憶力で気のせいはないよ」
「……フェルマー公爵夫人の姿をほとんど見なかったと思いまして」
「夫人? 夫人なら公爵の隣によくいたじゃないか」
「最初はいらっしゃったけれど、その後はずっとよく似ている彼女の妹の伯爵夫人しかお見かけしていないわ。今日のドレスも姉妹でなぜかよく似ていて……」
「すぐにフェルマー公爵夫人を調べろ! この周辺に物件を持っているかどうかも!」