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エレノアはどこかに担がれて連れて行かれる浮遊感の中、ずっと暴れまくった。途中で固い地面に放られても暴れ続けたがピーターの声がしたのでやめた。
「エレノア、大丈夫だから。やっと助けられた。もう大丈夫」
「ふがふが」
猿轡をされているので喋れない。どうやら馬車に乗せられたようでガタゴト走っている。
「エレノアが金持ちの親戚に引き取られたのはいいけど、望まない婚約をさせられて家の駒にされてるって聞いて」
「ふがっふがが?」
それ、誰の話?
「しかも髪まで無理に黒に染められちまって。暴力とか受けてないよな?」
「ふがっふが!」
今、この状況が完全に暴力!
ピーター、頭おかしくない? 心配してるんならまず私を袋から出して猿轡くらい外してよ!
縛られているため芋虫のように暴れ続けていると、意外にも早く馬車は停車した。城からあまり離れていないのだろうか。
「さ、着いたぞ。エレノア」
どこに!? 隠れ家? 袋に入れられていて周囲の状況は分からない。
また担がれて連れて行かれる。やっと袋から出され、目が慣れてくると思ったよりも綺麗な部屋だった。最初に誘拐されて助け出された部屋よりも綺麗だ。
騒いでも問題ない場所なのか、猿轡だけは外してもらえた。
縛られて横たわるエレノアにピーターはしゃがんで目線を合わせてくる。
「ちょっと、ピーター! あなた犯罪者よ!」
「そんなわけないだろ、エレノアを助け出したのに」
「勘違いで私を誘拐しといてお城に放火までして犯罪者じゃないなんて通用しない!」
「俺はあの人に従っただけだよ」
「マッチを油撒いた床に落としたのはピーターよ! それにヒヴァリーさんまであの場に残して! ヒヴァリーさんが丸焦げになってたらどうしようぅぅ」
恐怖でエレノアは泣き出しそうになる。さっきまでは暴れるのに必死だった上にうまく頭が働いていなかった。今更ながら恐怖が襲ってくる。
「大丈夫だろ、ちょっと脅かすだけって言ってたし。すぐ人来るって」
「どこがちょっと脅かすだけなの! そもそも何でピーターはこんなことしたのよっ!」
「いやだってエレノアを急に親戚が引き取りに来るなんておかしいだろ? パロマさん親戚なんていないって言ってたんだし。絶対詐欺だって思って、でも連絡も取れなくて心配してたらエレノアの現状を教えてくれる人がいたんだよ」
「そっちの方が絶対に怪しい!」
「エレノアが引き取られてその家の駒みたいに使われて望まない婚約させられてるって聞いたんだ。で、パーティーに潜入させてもらったら、よく分かんない男の横で無理矢理笑み張り付けてるし、髪の毛は染めさせられてるし」
口を開いたらいろいろバレるから喋らなかっただけなのに! あと髪の毛はずぅっと染めてたの! 私の地毛は何年も私だって見てない。私の髪は紺色じゃない。
「明らかに無理してただろ。だから俺も腹くくって助けようって」
「誰もそんなこと頼んでない! そもそも火事起こして誘拐紛いみたいなことするよりちゃんと話しに来れば良かったでしょ」
「今日はエレノアの横にがっちりガードついてたから余計に怪しかったんだよ。住んでるって聞いた屋敷の前まで行ったけど門番がいて寄り付けない雰囲気だった。めっちゃうるさい白ネコもいたし」
白ネコってエリーザベト様のこと?
ピーターとぎゃあぎゃあ言い合いをしていると、急に部屋の扉が開いた。驚いて口をつぐむと、顔を隠した恐らく男性とどこかの貴族の夫人らしき人が入って来た。
「あ、ありがとうございます。これでエレノアを助け出せました!」
ピーターが立ち上がって礼を述べる。この貴族っぽい方が協力者? てっきり今日ご主人様に教えられた、フェルマー公爵かアバネシ―侯爵が入って来たのかと思ったのに。
次の瞬間、顔を隠した男がピーターに素早く近付いた。
「え?」
困惑した声を出したピーターの腹にはナイフが刺さっていた。
「ピーター!」
エレノアは叫んだが、ピーターは男と自分の腹を交互に見ながらずるずると地面に倒れてしまう。
「まったく。忌々しいほどあのパロマに似た子供ね」
鈍感なエレノアでも分かるほどの憎しみが込められた声が上から降ってきた。