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いつもお読みいただきありがとうございます。

ほんの一部分に残酷表現があります。

 部屋中に浮かぶカップやソーサー、スプーン、ガラスの置物たち。エレノアはそれらを見てはしゃいでいた。


「我ながら、軽ければなかなかの個数を浮かせられるものだね」

「絵本の世界みたいです!」

「だけど、これ。スキルを解除すると全部床に落ちてしまうんだ。片付けるの手伝ってくれる?」

「全部そっと下ろせないんですか?」

「ものすごく神経使うんだよね。この後の仕事に障りそうで。割れそうなものをあのテーブルの上に乗せてくれる?」

「もちろんです! 私が浮かせてって頼んだので!」


 ジョシュアは空中に浮かんだカップに触れてスキルを解除しながら、元気よく動き回るエレノアを観察していた。


「エレノアちゃんは今何かスキル使ってる?」

「分かりません!」

「元気がいいね」

「ご主人様には無意識に使っているんだろうと。毒薬も睡眠薬も笑いが止まらなくなるキノコも何もかも効かなかったので」

「最後の奴ってヤバいんじゃない? 笑顔に見えるだけで顔まで痺れるやつ?」


 きゃいきゃい言いながら半分ほど片付けるとエレノアの勉強の時間になってしまった。残念そうに謝って退室するエレノアと入れ違いにカイルが部屋に入って来る。


「どうだった」

「うわ、兄に対して労いというものはないの?」

「ない」

「大体さ~、もういろいろ話してるんだから二つ目のスキルのための実験だって言えばいいのに」

「無意識にスキルを使っているなら意識させると使えないだろう」

「それは言えてる」


 ジョシュアはニヤニヤしながらパチンと指を鳴らすと、片付け終わらずに浮いていた食器や置物は静かに元の場所に戻った。エレノアに話したことは大嘘である。


「彼女が触るとスキルが解除された感覚はあったよ。平気で何個も俺のスキルをさらっと破って食器を片付けてくれたからね」

「殿下と同じスキルであれば解読チームが出る幕はないはずだ」

「そうだね。新種のスキルか触ったものを鈍感にするのか。それはそうとカイル、最近顔色がいいよ」

「現場にほとんど出ていないから当たり前だ」

「本当にそれだけかなぁ?」


 エレノアと一緒にいるおかげだろうと言いたげなジョシュアのニヤニヤに、カイルは心底鬱陶しいという表情だ。


「それだけだ。他人の記憶をのぞくのは結構疲れるから」


 口にしてしまった後でカイルはハッとする。ジョシュアの顔からは一瞬でニヤニヤした嫌らしい笑みは消えていた。


「兄貴が気にすることじゃない」

「そうは言っても気にするよ。たった一人の弟だからね」

「証拠が出ない時、このスキルは必須だ。子供が誘拐されて何人も国外に売られそうになってるのに記憶をのぞくのが嫌なんて言っていられない」

「確かにスキルは役に立つだろう。だがブラッドリー公爵家にしろどこにしろ、その家の固有スキルが子供に遺伝しなくなって久しいのに、無理矢理受け継がせる意味はあるんだろうか」

「それを決めるのは俺じゃない。次に受け継ぐとしたら兄貴の次男だ」

「正しいことなんだろうか。俺は、カイルに……叔父さんの遺体の一部を無理矢理食べさせた父さんを……許すことはできそうにない」

「幼いうちにやれば記憶には残らないから大丈夫だ。スキルを使いこなせるようにする訓練の方がキツイ」

「正直、スキルの継承がなんで失敗しないんだって思うよ。狂ってる」


 カイルは仕方がないとばかりに肩をすくめる。


 スキルの上書きには、そのスキルを持っている人物の血を飲む必要がある。しかし、飲んだ者が誰でもそのスキルを獲得できるわけではない。その人物の血縁者にのみ受け継がれる。


 しかし、カイルのスキルの上書き前に『記憶操作』スキルを唯一持つ叔父は任務中の事故で死んでしまった。その場合はジョシュアの話したように遺体の一部を血縁者が取り込む必要がある。


「俺は兄貴に次男ができるまで死ぬつもりはないから。叔父さんみたいに。そうしたら俺の血を飲ますだけでいい。血なら誤魔化して飲ませやすい」

「それでも異常だ。母さんなんてあの時発狂しかけてた」

「実際狂ってはいない。隠れている犯罪者やおかしなことをする貴族がいなくならない限り、このスキルは必要だ。『記憶操作』のスキルがなくなったら取り逃がしてしまう奴らもたくさん出てくる」


 カイルは一貫して割り切った態度だ。ジョシュアは暗くため息をつく。


「エレノアちゃんのお父さんは確定しそう?」

「まだ何とも。このままだと殿下が次の夜会に招くことを計画している」

「あの子誰にでもほいほいついて行きそう。お菓子でつられて」

「そんなことはないように言い聞かせる」

「でもかなり危なっかしいよ。毒物は効きづらいっていっても。それにダンスはできるの? 婚約したばかりで踊らないのはむしろ不自然だ」

「レオポルドが教えている。勉強よりダンスの方が好きらしい」


 結局、ターゲットと目している家からの動きがないのでエレノアの人生初の夜会参加は決まってしまった。


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