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いつもお読みいただきありがとうございます!

「体調悪いんですか?」

「あぁ、これはいつものことですから」


 いつも体調が悪いということだろうか。自分の体調には鈍感が過ぎるエレノアだが、さすがに心配になった。貴族のご令嬢なら野菜は運ばないだろうし、移動もほとんど馬車だろうし虚弱なのかもしれない。

エレノアは頭脳派ではないので頭や額、こめかみを押さえることはまずない。腰や腕、足ならあるが。


「いつもって……えっと……」

「スキルの副作用よ」

「スキルに副作用ってあるんですか?」

「強力なスキルであれば、そうね。私の場合は『完全記憶』で発動条件も見ると聞くだから。全部記憶していると情報量がすごくて頭が痛くて」

「えぇぇ……では一体どうすれば……あ! 肩でも揉みましょうか!」

「カイルに定期的に要らなくなった記憶を消去してもらっているの。そろそろまた消してもらわないとダメね。今日この後お願いするわ」


 肩揉み得意なんだけどな。ワキワキさせた両手が行き場を失ったので膝の上に置いた。

 あれ、さっきはご主人様のことをカイル様と呼んでいたのに今は呼び捨てだ。仲がいいのだろうか。


「何のお話でしたか……ええっと、そうそう。スキルのお話でしたね」


 額を押さえる美女に交友関係を聞ける雰囲気でもない。


「子供に絶対父方のスキルが遺伝するなんてことはありません。母方のスキルかもしれません。それに両親とは全く種類の違うスキルを持つ子供が生まれてくることもあります」


 そうなのか。それなら彼女の頭の中にすべてのスキル情報が入っていてもエレノアの父親は分からない。


 エレノアはなんだか安心した。やはり、自分の父親についてなど知りたくない。でも、自分の父親が黒幕なら絶対に捕まって欲しい。攫われた時はお母さんが亡くなったばかりでぼんやりしていたが、あのまま外国に売られていたかと思うといくら鈍感でも恐ろしい。


「あれ? それならお役目をする人が定められてるって無理じゃないですか? 絶対にスキルが遺伝するわけじゃないのなら……ご主人様だって本当は公爵家の三男だったはずですよね?」


 さっき引っ掛かったことがやっと分かった。ジョシュア様は言っていたじゃないか、長男さんが亡くなっていなければ自分が次男だったと。定められているならジョシュア様のスキルは『空中浮遊』ではいけないはずだ。


 辛そうに頭を押さえていた美女は力なく笑う。


「そうです。だから、スキルが判明して思っていたものと違うスキルだった場合にスキルを書き換えるのです」

「書き換える? そんなことできるんですか?」

「方法は詳しく言えませんが、できます。公然の秘密で高位貴族はほとんどやっているでしょう。その場合、先天的なスキルは上書きされて消えてしまいますし、消えずに残る場合もあります」

「へ、へぇ……」

「スキルの書き換えはそう簡単なものではありません。それに、後天的に獲得したスキルだと本人に合っておらず扱いづらい場合もあり、いいこととは言い切れないのです」

「へ、へぇ……」


 バカみたいな返事しかできない。コーテン的と言われてもピンとこない。


「あれ、じゃあもしかしてロザリンドさんは……」


 エレノアは『雨降らし』のスキルを持つ侍女長を思い浮かべる。どこかの侯爵家出身だと言っていたが、彼女は自分だけスキルがしょぼいと悩んでいたではないか。


「あぁ、ロザリンドですね。彼女のスキルはおそらく後天的に獲得したスキルでしょう。後天的に獲得したスキルは訓練しても伸ばしにくいと言われています。もちろん、先天的に持っているスキルでも伸びづらいことは多々あります」

「スキルの書き換えがあるから遺伝をたどればいいわけじゃないんですね」

「はい。ついでに言えば、上書きして消えたと思われたスキルが子供に遺伝することもあるので……非常にややこしいのです」


 エレノアも聞いていただけで混乱してきた。あまり頭を使わないのでヒヨコが頭の中を走り回っている気分だ。


「高位貴族は秀でたスキルを自分の子供に無理矢理受け継がせてきたこともあるのです。そうしてお役目をこなしているのが殿下たちです」

「お役目って……やばいお仕事なんですか?」

「表にはできないことを処理する裏のお仕事です」


 ふぅとクラリッサは大きく息を吐く。


「さて、エレノア様もお顔立ちで分からないとなると……殿下だけは強硬手段に出る可能性があります。カイルが許さないと思いますが」


 何やら物騒なお話になってきた。


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