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いつもお読みいただきありがとうございます!

「いやー良かった。俺のスキルは弾かれなかったね。足とか手とかあるね? うん。良かった良かった。あんまり抵抗されたら体の一部だけ置いてきちゃうこともあるらしいからさ」


 赤毛の王子は物騒なことを言いながら満足げにエレノアの全身を確認すると、綺麗な女性のいるテーブルへ近付いた。


「殿下」

「クラリッサ、怒らないでよ。だって俺が王子って信じてくれないんだもん」

「それは信じないでしょうね。そのように軽薄な態度では」

「仕事の時は真面目な王子様だよ。プライベートまで真面目にやってたら死んじゃう」


 エレノアは知らないところに連れてこられた上にいきなり放置されて、非常に困った。ここはどう見ても室内だ。さっきまで屋外にいたのに、いつのまに移動したのか。そもそも、これって目の前のこの人のスキル?


「エレノア嬢、ここにどーぞ」


 王子がイスを引いて声をかけてくれたが、エレノアはその場から動かなかった。


「ご主人様はどこですか?」

「カイルはお仕事だよ~。さ、座って座って」


 銀髪の令嬢が申し訳なさそうにカップを置いて立ち上がって会釈をしてくれたので、令嬢の顔を立てるために仕方なくエレノアはイスに座った。目の前の綺麗なご令嬢はこのチャラい王子の婚約者でクラリッサ・クロフォード公爵令嬢だそうだ。


 公爵令嬢ってことは……ご主人様と家格は一緒なのか。いや、どっちがお金持ちとか知らないけど。公爵家でも上下ってあるのかな。


「髪はまた染めたの?」


 王子はエレノアの頭のてっぺんあたりを見ながら聞いてくる。

 この人が本当にご主人様の上司ならご主人様が何か報告したのだろう。


「つばの広い帽子をお茶会で公爵夫人の前で被るのはどうかと思ったので、紺色の粉を振っているだけです」


 帽子ではお茶が飲みづらい。染めたら髪が傷む……散々染めて傷んでるからね……。でも半端な髪色をお見せするわけにもいかないしカツラは高い。今度つばの広くない帽子を探そう。


 王子に笑顔で「拭き取ってね」と濡れたタオルを渡されて仕方なく粉を拭き取った。

 銀髪美女はその様子をじーっと見ている。穴があきそう。


「どう?」

「ちょっと近くで見せていただきますわ」


 銀髪美女は立ち上がって側まで来ると「失礼」とエレノアの髪をかきあげていろいろとジロジロ見始めた。


「え? え?」


 髪をかきあげるだけならまだしも、服を引っ張って隙間から背中を見ている。


「クラリッサ。そこまで見なくてもいいだろ」

「あら、失礼しました」


 お上品な女性に見えたけど、実は変態なのだろうか。


「顔立ちは自信がありませんが、ほくろの位置が一致していますね。でも、ほくろが遺伝するとは言い切れません」

「ん? クラリッサ? どこのほくろの位置?」

「背中側の左肩部分です」

「え、なんでそんなところのほくろを見たことがあるんだ? まさか浮気!?」


 私は何を見せられているのだろう。痴話げんか? エレノアはげんなりした。


「エレノア嬢はお父さんのことを覚えてる?」


 散々痴話げんかを見せられ、エレノアがこの状況に飽きていた頃だった。突然、王子からそう質問される。


「覚えてませんし会ったこともないですし、生きてるかどうかも分かりません。そもそも父なんて私には存在しません」

「全力で否定してくれるね。そこを何とかちょっとでも思い出してくれない?」

「私に父はいません」

「うーん、じゃあお母さんがスキル持ちだったとか、ない?」


 エレノアは問われて考え込んだ。平民のスキル持ちに会ったことがなかったので、無意識に母はスキルを持っていないと思っていた。スキルを持っていないのが普通なのだから。でもエレノアにはスキルがあるようだから、果たして――。


「分かりません。母はスキルを持っていないと思っていましたから」


 治癒のスキルはあるのだろうか。そうしたらお母さんは死ななかったのに。


「そっかぁ。いや君とお母さんが住んでた家の周囲をうろついてる怪しいのがいてね。捕まえても何人か仲介してるみたいで雇い主が分からないんだよね。だから何か分からないかなって」

「殿下、そういうことを最初から説明しておけば彼女から信頼されたのでは?」

「え、いきなり君が住んでた家の周り嗅ぎまわってる連中がいるから情報教えろって言われたら怖くない?」


 この二人、仲がいいのか悪いのか。また二人でギャアギャア言っている。主に王子がギャアギャア言っていて、銀髪美女は淡々と返しているけれども。


「そういえば、治癒のスキルってあるんですか?」

「あるけど希少スキルだね。そのスキルを持っている人がいたらすぐ城で雇うよ」

「そうですか……」

「君があの家に住んでいた時、誰かに尾行されたことはなかった?」

「気付きもしませんでした」

「はぁ。殿下。私が彼女と話すので出てってください」

「え、この部屋は一応俺の部屋なんだけど」

「殿下がいると話がまとまりませんから」


 銀髪美女は冷たい視線を王子に投げ、しばらく押し問答をした後に王子が悲しそうに部屋を出て行った。王子の哀愁漂う背中をエレノアは何とも言えない心境で見送る。


「さて、じゃあ私からきちんとお話しますわ。なぜあなたをここに連れてきてもらったのか」

「あ、はい」


 銀髪美女の言葉にエレノアは何となく背筋を伸ばした。


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