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公爵夫人、つまりご主人様のお母様によってお茶に誘われたのはいいのだが。
「本日はお招きいただきありがとうございます!」
ぴしっとお辞儀をして促されたイスにエレノアは座った。
公爵夫人に先に話しかけてはいけないと言われているので、口を噤んでいる。頑張って噤んでいるのだが、公爵夫人は挨拶から喋ろうとしない。
「ご飯おいしいです。公爵邸においてもらってありがとうございます」
などと言えない雰囲気がビシバシする。
もしかして貴族様ってお茶を静かに飲むのかな? 目で会話してるとか?
そんなことを考えながら紅茶をいただき、目の前のティースタンドから一口サイズのサンドイッチを取ってもらう。
朝の意味深な行動といい、今日の急なお茶の誘いといい何か理由があると思うのだが公爵夫人が話してくれないのでエレノアにはどうしようもない。
ジョシュアと公爵夫人はよく似ているなぁと観察しながら、サンドイッチやお菓子を美味しくいただいた。
「あなたの前だとカイルは表情豊かね」
ちらちら視線を感じていたが、急に公爵夫人が喋った。なぜか目を合わせてくれず、エレノアではなく庭のバラに公爵夫人の視線は向いている。
ご主人様が表情豊か? どこが? ずっとしかめっ面か仏頂面ですけど……。
「出来の悪い子供を前にしたような表情ですよね」
さすがに「あなたの息子はずっと不機嫌な顔ですよ」とは言えないので、あははと笑いながら誤魔化しておく。
「見ていたから分かるわ」
「見ていた?」
最近視線を感じていたけど、エリーザベト様じゃなくって公爵夫人に見られていた?
え、それはちょっと怖い。結構な頻度で視線感じたよ?
「えへへ?」
笑ってごまかしながらスコーンを食べる。美味しい。まぁ、見られていただけならいいか。お貴族様の家に平民がいるんだからそりゃあ珍しくて見ちゃうよね。珍獣ペットだもんね。
「あの子は役目についてから家でもどんどん表情がなくなっていったわ。でも、あなたが来てから表情豊かよ」
またお家の事情をぶっこまれている。公爵夫人とジョシュアは顔立ちも似ているが、お家事情をペラペラとエレノアに喋ってくるところも似ている。
私、ひょっとして占い師だとか思われてる? 青果店で働いてただけなのに?
「カイルと一緒に寝たんですってね?」
「え? はい。一度だけですけど」
公爵夫人は目を瞑ってこめかみに手を当てる。あれ? レオポルドさんが珍しく慌てているけどどうしたんだろう?
それにしても公爵夫人は綺麗な人だ。青果店で働いていたらこんな綺麗な人にはお目にかかれない。相手が目を瞑っているのをいいことにじっくり観察する。
まつげが長く、肌にはシミ一つない。テーブルの上に置かれた片手もカサカサとは無縁だ。
「仮の婚約者として連れてきたとあの子は言っていたけれど、案外本気になっているのかしら」
ジョシュアのせい、そしてエレノアの受け答えのせいで誤解が走り続けているがエレノアは気付かない。エレノアとしてはカイルと一緒のベッドで寝たのは本当のことだからだ。そのままの意味で。
「あなた、カイルのことはどう思っているの?」
「どう……うーん……どうと言われても、優しいのに眉間の皺で台無しだなと」
「そう」
何とも言えない空気が流れるが、公爵夫人は庭のバラに目を向けているのでどういう心境なのかは分からない。
使用人が小走りにやって来て、レオポルドに耳打ちする。
「奥様、第二王子殿下がいらっしゃったようです」
「まぁ。カイルは仕事のはずだけれど。もしかして何かあったの?」
「いえ、エレノア様に会いに来たと」
エレノアは訳が分からず、目を瞬かせた。
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