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「この地下で間違いない」
カイルが屋敷の見取り図を広げると、ダンカンが一点を指差す。
「ここに武器がある」
「地下は見取り図に載っていないな」
「よくあることだ。でも、地下にマーキングした武器が集まっている。それも多数。ざっと二百以上……三百はあるな」
ダンカンのスキルは『追跡』。事前にマーキングしておいた物や人がどこにいるのか追跡できるスキルだ。ダンカンのスキルを使えば、国の端と端にいたとしても探し出すことができる。他国になると少し厳しいらしい。マーキングしていた対象に近づけば近づくほど位置がつぶさに分かる優れもの。
まるで執念深い狂犬のような能力だ。
どうやってマーキングするのかカイルでも知らない。
ダンカンはエレノアに一度会っただけだが、エレノアにも殿下の命令でマーキングをしている。触れるか何かが発動条件だろう。さすがに唾をつけるというわけではなさそうだ。
ダンカンは自分の婚約者にもちゃんとマーキングして追跡できるようにしているそうだ。「彼女に危険が迫ったら困るからな」と言っていたが……毎日どこに行ったか全部バレているのはご令嬢としてはどうなのだろうか……。
「地下なら屋敷の中まで入らないと証拠が手に入らないな。地下への行き方も分からない。どうする? カイル」
ダンカンに問われて、カイルは慌てて見取り図に目を落とす。殿下は現場に来ていない。
今回、武器を買い集めていると噂のあった子爵家の領地の屋敷までやって来ている。子爵家の私兵の数にしては購入している武器の所持数が多すぎるのだ。他国に流しているのか、それとも王への反逆でも目論んでいるのか。
ダンカンがマーキングした新品で大量の武器や火薬がこの家の地下にあるのだ。
「ボヤ騒ぎを起こして中に入るか。火薬は水に濡らしたくないだろうからな。そうすれば当主が慌てて地下への行き方が分かるかもしれない」
「じゃあ一階で騒ぎを起こすか」
「厨房周辺なら怪しまれない」
「スキル『発火』ならいけるな」
スキル『発火』を持つ部下によって厨房周辺からボヤ騒ぎを起こし、子爵が厩の中にある床の扉から地下に行こうとするのを見つけて取り押さえた。
そして地下にある大量の武器を発見。尋問したが吐かないため、カイルがスキルで記憶を覗いた。
「疲れた」
「服に臭いがついてる。焦げ臭いな」
「仕方がない。それにしてもいまだに武器を他国に流して戦争支援をしようとする馬鹿な貴族がいるとは」
「子爵家の領地からは国境までの道が整備してあるからなぁ。欲でも出したかな」
「最近は違法薬物系が多かったからな。とりあえず帰ってから殿下に報告だ。子爵をそそのかした人物を特定しないと。記憶の中では顔を隠していて分からない」
早朝から働いていたカイルとダンカンの目に傾きかけた太陽が映る。
「ん?」
「なんだ?」
「おかしい。エレノア嬢の位置が公爵邸ではない場所にある」
「は?」
「たった今移動したわけじゃない。さっきまでこっちの現場にかかりきりだったからな……ええっと、まずい。数時間前からだ。ん? 一瞬で移動しているな」
「脱走、いや誘拐か?」
「いや待てよ。この位置は王宮だ」
ダンカンはこめかみに手を当てて目を瞑ってブツブツ言うので「この位置」と言われても、カイルにはピンとこない。きっとダンカンの頭の中には地図が展開されているのだろう。
「安心だ。殿下もいる」
「はぁ……安心どころかめんどくさい予感しかない」
「とにかく急いで帰ろう」