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「ふぅん、そんなことが」
カイルはエレノアのことをゲイリーに報告していた。
カイル不在の際は使用人が細かくエレノアの様子を記録している。
「今日も幸せそうにサンドイッチを頬張ってらっしゃいました!」「エリーザベト様がおかげでまた綺麗になりました! でも触らせてくれません」「料理長と野菜談義二時間」「鼻歌を歌いながら庭を散策。スキップはちょっと苦手な模様」「庭師と土いじり一時間」「エレノア様の手荒れてるのでハンドマッサージした方がいいですか?」など。
これ報告か?と言いたい内容もある。これを書いた奴ら、さぼってないか?
「殿下。彼女の鈍感スキルだけでここまでのことが起きているのか確証がありません」
「触ったカップが鈍感になってスキル解除されたのかもしれないだろ。それか鈍感すぎて他人のスキルでも関係ないんじゃないか」
「……殿下、あり得ないこともないですが……」
そんなスキルもあるにはあるが、カイルは呆れたようにゲイリーを見る。
「とにかく、彼女の二つ目のスキルについて情報をください」
ゲイリーはバツが悪そうに頬をかく。
ダンカンは夜中に任務に行っていたので、現在は家で眠っている。
「あー実はな、カイル。彼女に二つ目のスキルはあるにはあるんだ。だが、解読できない」
「解読ができない?」
「そうだ、二つ目のスキルの部分の文字が読み取れないんだ」
「聞いたこともないスキルとおっしゃってませんでしたか?」
「過去にもスキルの部分の文字が解読できないことはあった。未知のスキルの場合だ。俺たちが知らないから文字を認識できないんだ。でも、その時はなんとか解読できたからエレノア嬢のスキルの文字もすぐ解読できると思ってたんだ」
「……だから、聞いたこともないスキルと」
「そうなんだ。あながち間違ってはない。今解読チームが頑張っている。意外性の塊だよ、彼女は」
「はぁ」
意外性の塊と言われればそうだが……。
食事中でも寝ていてもうるさいし、平気で男をベッドに引っ張り込むし、普通にネズミを触るし、ひょいひょい木に登るし、大抵の令嬢が頬を染めるジョシュアに対して王子様と呼んでいたにも関わらず平気で放置してネコを優先する。
それに、あいつがいるとオニキスもエリーザベトも何なら野良猫でさえうるさい。エリーザベトなんて明らかにネコじゃない声を上げている。
意外性の塊じゃなくて騒々しさの塊じゃないか。
ゲイリーは明らかにプラスの意味で言っているので、素直に頷けないカイルであった。
「で、使用人が彼女に嫌がらせしたって話はどうなった?」
「犯人のランドリーメイドはむち打ちにしてクビにしました。もちろん、記憶操作も行いました」
「何か出たか?」
「いえ、誰かに指示されたようなことはなく単独犯でした。たまたまネズミの死体を見つけたから嫌がらせしてやろうと思ったようです」
「そっかぁ」
「記憶をのぞく過程で他にも反感を持っている使用人がいるので、そこをどうにかします」
「あぁ、女性の愚痴大会でも見ちゃった?」
「はい……」
カイルは思い出したのでゲンナリする。洗濯をしながら三人でエレノアのことをあーだこーだ言っていったが……人の悪口を言うよりも先にやるべきことがあるだろう。
「あぁ、愚痴大会で思い出した。カイルの婚約者の存在をこの前参加したお茶会でチラつかせておいた」
「早くないですか……? あぁ、もしかして侯爵家の?」
「そうだ。近々動きがあるかもしれない。これが茶会に参加していた貴族のリスト」
渡された紙を見て、カイルは表情を引き締める。
「ウワサは一日で回っていると思いますが」
「警戒してくれ。この前、人攫い集団を大々的に摘発したからすぐには動かないとは思っていたが……行方不明者が増えているという情報がある」
「もう、ですか。ダンカンの方は?」
「あっちは違法薬物だからな。他国がらみでまた面倒だ」
「気が休まりませんね」
「カイル、お前、眠れているのか? 数日前は顔色が良かったのにまた戻ってるぞ」
「他人の記憶を覗いて気持ちよく寝れるわけないじゃないですか」
「それもそうか。現場もあるしな。でも数日前は調子が良さそうだったぞ? 睡眠薬でも飲んだのか?」
「いえ、そんなことはしてません」
「そうか。ま、俺の気のせいかもしれん」




