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「ん?」
男が首をかしげる。
「なんだ?」
他の男たちが問い返すが、無視して再度エレノアの額に人差し指を突き付ける。
「おかしい」
「ん? なんでこいつ気絶しないんだ?」
「効いてない。いや、効かないんだ」
「はぁ!? こいつスキル持ちか?」
「記憶操作が効かないスキル持ちなんて……」
「いや、新種のスキル持ちとかさぁ」
「そんなレアスキルならこいつ攫われてないんじゃないか? そもそも平民のスキル持ちは珍しいし、そんなに力の強い珍しいスキルは発現しないだろ?」
エレノアの頭上で男たちは口論を始める。
「口論はやめろ。みっともない」
通せんぼしていた男の声で二人の男はぴたっと口論をやめた。覇気のある声だ。
「君はスキル持ちなのか?」
急に通せんぼしていた男に聞かれ、エレノアは首を傾げた。
スキルという言葉は知っていても、誰も身近で持っていなかった。あれは貴族しか持たないものではないのか。
通せんぼ男はぐいっとエレノアに顔を近づけた。エレノアは逃げようとしたが、後ろに身長の高い筋肉でごつごつした男がいるので逃げられなかった。
「濃くて分かりづらいが、紫の瞳。平民では珍しいな」
「まさか、どこかの家の愛人の子供ですか?」
エレノアはさすがにむっとした。お母さんは決して愛人ではない。
「連れ帰って調べてみよう。希少なスキル持ちかもしれない。眠らせろ」
通せんぼ男はとっても偉そうだ。三人の中で一番偉そう。
エレノアは布をかまされて口をふさがれたままだったが、後ろのごつごつ男が何かを口と鼻に当ててきた。ふがふがと体をよじると薬品臭がする。
「おい、まだ眠らないぞ」
「は? この薬品を嗅がせたらだれでも数十秒で眠るはずなんだが? クマでも眠るぞ?」
「布をかまされてるからじゃないか? 隙間から漏れてるとか。取ってやれよ」
三人の男たちは思い思いのことを喋る。エレノアの口に嚙まされていた布が外された。と思ったらすぐにまた薬品臭のする布が当てられた。
「全然眠らない……」
「これは面白いな! 何のスキルだ? 面白い! もう物理的に気絶させろ」
エレノアの後ろにいた男が首に手刀を落とす。
「これでもダメなのか! すごいな! 君のスキルは何だ!?」
「これ以上強くやると死んじゃうかもしれないんで……この強さで男も大体気絶するはずなんすけど」
通せんぼ男は興奮し、筋肉ごつごつ男は困惑している。
「もういいでしょう。現場処理があるからこのまま連れて帰りましょう」
エレノアの額に人差し指を当てた男が不機嫌そうな声を出す。
エレノアはまた口をふさがれて手だけ縛られたまま、ご立派な馬車に乗せられた。すっごいふかふかだった。
攫われた時は夜だったが、もう日が昇っている。
昨晩転がされて眠れていなかったエレノアは心地よい馬車の揺れでこっくりこっくり眠り始めた。
「薬が効いたのか?」
「いえ、あの薬品ならすぐ眠るはず」
「じゃあこの状況でヨダレ垂らして寝ているのか。大物だな」
男たちの会話を子守歌にエレノアは深く眠ってしまった。