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なぜネコは下りられなくなるような木に登ってしまうのだろうか。
それは、そこに木があるから! なんちゃって。
エレノアは難なくネコのいるところまで登った。こういうのは体が覚えているらしい。
やっぱり座ってお勉強よりも体を動かしている方が楽しい。
「ネコちゃん、おいで~。エリーザベト様もいるからカイル様が飼ってくれるかも。あ、でも子ネコだから親ネコがどこかにいるかな?」
子ネコに向かって手を伸ばすと、警戒されて引っ掻かれた。
「大丈夫だよ~」
手を伸ばして引っ掻かれるというやり取りを何度か繰り返し、なんとか子ネコを手中に収めた。
公爵家から支給された服に子ネコの爪を引っかけるようにして、落ちないようにする。エリーザベトとは正反対の黒ネコだ。
「わ、すごい。こんなに高いんだ」
エレノアはそこで初めて木の上から景色を見た。手前には貴族の屋敷が連なっているが、遠くには王都の街並みが見える。
「私の住んでた街はあの辺かな?」
方向はよく分からないが、あの辺と思ったらあの辺だろう。エレノアは公爵邸に来てからまだ少しだというのに、街があるのかも分からない方向を眺めてホームシックになりかけた。
「エレノア様! 下りてきてください!」
「ワンワンワン!」
うっかり涙が出そうになっているとレオポルドの心配そうな声とオニキスの元気な声が聞こえた。
「はーい」
上を向いてちょっと鼻をすする。そしてエレノアは注意深く木を下り始めた。
登るよりも下りる方が大変だ。子供の頃遊んでいて、木登りが上手くなると下りるときの方が怪我をしやすかったのだ。
「ミャア!」
半分まで難なく下りたところで、違うところからしっかりとしたネコの鳴き声がする。
「ん? エリーザベト様かな?」
「ミィ!」
違った。親ネコらしきネコが茂みからこちらを見て必死に鳴いていた。それに子ネコが反応してしまう。
「あ、ちょっと!」
子ネコは親ネコを見た途端、エレノアから離れようともがく。服に引っ掛かった爪が取れずに暴れ始めた。
「ちょっとぉ! まだ早いってば!」
あ、落ちてもクッションを敷き詰めてくれてるし大丈夫かな? でも、うまく受け身が取れないと骨折しちゃうのも可哀そうだし。
子ネコの安全のためにエレノアは木から降りるのを優先した。
しかし――
「あー!」
子ネコが暴れた拍子に引っ掛かっていた爪がするっと取れた。子ネコは勢いよくジャンプする。
「え、まずいかも!」
手を伸ばしたエレノアの指は子ネコにかすりもしなかった。
子ネコが落ちていく先はちょうどクッションと土の狭間。というか土の方に寄っている。
使用人が慌てて走ってくるが、間に合わないだろう。
こ、骨折しませんように! エレノアは祈ることしかできなかった。
「ミィ~!」
「ワンワン!」
あれ? 子ネコが空中で止まっている。とっくに地面に落ちている速度だったのに、いまだ空中でジタバタしている。
走ってきた使用人が空中のネコを手のひらで捕まえた。すかさず親ネコが駆け寄ってくる。
「え、何?」
「エレノア様、下りてきてください!」
え、もしかして私のスキル? え、でも『鈍感』なんだよね?




