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いつもお読みいただきありがとうございます!

「うわぁ、この野菜どこから仕入れてるんですか!」

「商人が持ってくるんだ。えーと確か、ここに仕入れ先の農園が」

「キャベツが大きいですね~。いい色! いいなぁ、このくらいの大きさになるとおいしくなくなることもあるのに」

「お、そのキャベツの良さが分かるのか。そりゃあ俺様の腕ならどんな野菜でも美味しい料理にするが、やっぱり素材がいいと一味違うよな」

「アスパラも同じところから仕入れてるんですね!」

「お嬢ちゃんの皿はいつも磨いたのかというくらい綺麗に食べてあるが、素材の良さが分かるなら納得だ」

「いや~、あまりに美味しくって。今日のオムレツにかかっていたソースは何ですか? あとコンソメスープも美味しすぎます!」

「あのコンソメスープは先代から教えてもらったレシピをだな」


 キッチンからキャッキャとはしゃぐ声がカイルの耳に届く。

 キッチンに行ってくる!と朝ごはんの後に走っていったので仕方なく追いかけると、強面の料理人と野菜談義をしていた。


 休憩時間を見計らうか、事前に伝えてから行けばいいものを。どうせ今は忙しいとあの気難しい料理人なら突っぱねると思ったが、スキル『鈍感』は伊達ではないらしい。


 弾んだ会話を背に、カイルはため息をついて仕事に向かった。



「ピンクブロンドか。しかし、フェルマー公爵家と断定はできないな。親戚かもしれない」

「はい、ピンクブロンドの濃さは違いますが親戚にもいますからね」

「フェルマー公爵家だったら……あの当主、浮気してたってことかぁ、やばいな。浮気するような人には見えなかった」


 いつも通り集まったゲイリー、ダンカン、カイルの三人は新しい情報を話し合う。


「しかし、思ったよりも大物そうだな。彼女の父親は」

「彼女は二つのスキル持ちのようですし予想はできたでしょう。殿下は彼女の二つ目のスキルの内容を教えてくれませんが」

「まぁな。まず、こちらで調べないと何とも」

「スキル『鈍感』を持った者は今までいたのですか?」

「あぁ、それについてはうちの婚約者殿が素晴らしい仕事をしてくれた」


 第二王子であるゲイリーの婚約者で将来の王子妃は、クラリッサ・クロフォード公爵令嬢だ。


「何か情報が出たんですか」

「彼女がこれまで読んだ資料の中に、スキル『鈍感』を持った暗殺者が登場した。ありとあらゆる毒と痛み、そして恐怖に対して鈍感。暗殺者として大変優秀だったそうだ」


 カイルとダンカンはその言葉を聞いて二人でイメージする。

 二人とも確認していないが心の内は一緒だった。うん、あいつには逆立ちしたって暗殺者は無理だろう。


「あの子、性格の問題もありますが暗殺者は無理そうっすね」

「俺も普段見ていてそう思う。相当天然だからな」

「ははっ、別にカイルの婚約者を暗殺者にすることはないさ。暗殺者がたまたまスキル『鈍感』を持っていてうまく活かせたという話なんだ」


 ゲイリーの婚約者、クラリッサ・クロフォード公爵令嬢のスキルは『完全記憶』。彼女は見たもの聞いたものを完全に記憶できる。ただ、カイルのスキルを使えば彼女の記憶を消し去ることも可能だ。


「あぁ、クラリッサがエレノア嬢に会いたいと言ってるんだが」

「……はい?」

「スキル『鈍感』の持ち主に興味があるようだ。女同士話しやすいこともあるかもしれないからいいんじゃないだろうか。それにクラリッサが『見る』『聞く』ことで彼女のスキルは発動する。情報としてクラリッサの記憶に残っておくことのメリットは大きいと思うんだが」

「クラリッサ様が彼女の存在を知ることで狙われる可能性は?」

「クラリッサはすでにその立場上狙われることも多い。護衛だってたくさんつけている。もともと公爵令嬢で一人で出歩くことなどないからな」


 カイルはうなされていたエレノアを思い出した。

 朝ごはんの時のギャーギャーうるさい様子でまた忘れかけていたが、あいつもあいつで鈍感なりにいろいろ感じることもあるだろう。


「それは時期尚早かと」

「ほぉ、なぜ?」


 カイルの返答にゲイリーは書類から目を離した。


「彼女は母親を亡くしたせいで夜うなされています。誘拐され俺たちを目撃し、公爵家に移され、さらにクラリッサ様に会うとなるといくら鈍感とはいえ急な環境変化に戸惑うでしょう。まずは信頼関係を築くことが大切です。信頼をなくせば引き出せるはずの情報も少なくなります。それに、ピンクブロンドの髪がもう少し伸びてからでもいいのではないかと。そちらの方がクラリッサ様の記憶と照合しやすいでしょう」

「あー、確かになぁ。親子関係を判別するスキルとかあったら楽なのにな~」


 ダンカンの能天気な言葉がゲイリーとカイルの間に割って入る。

 ゲイリーはしばらくカイルを眺めていたが、ふっと笑った。


「確かにそうだ。彼女の髪は染めずにそのまま伸ばせ。その状態でクラリッサが見れば誰かとそっくりだと分かるかもしれない。エレノア嬢の母親の肖像画がないのは痛いな」

「俺が青果店の店主の記憶を覗いたものから絵師に伝えて描かせましょう。ただ、青果店の店主の話では彼女は母親似だそうです」

「ふむ。そういえば、エレノア嬢の記憶は覗けなかったのか?」


 思い出したようにゲイリーは聞いてくる。


「昨晩試しましたができませんでした。昨晩は繊細な記憶操作を行った後だったので……もう何度か試します」

「あぁ、そうしてくれ。カイルのスキルがここまで効かないならスキル『鈍感』は凄いな。もしかしたら俺のスキルも効かないかもしれない。ダンカンの打撃にも耐えたくらいだからな」

「俺、ちょっと自信なくしました」

「今度試してみよう。面白い」


 あまりそういう発言はしない方がいいのではないかとカイルは思いながらも、何も言わなかった。


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