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いつもお読みいただきありがとうございます!

 エレノアは大きなベッドの隅に縮こまって泣いていた。


「おい」


 カイルが声をかけたが反応がない。うなされている。


「はぁ」


 カイルはため息をつき、エレノアの肩を揺すった。うなされているのだから起きれば落ち着くだろう。何度か肩を揺すってもエレノアは全く目を開けない。


「うっひっく……」

「ったく、これだから鈍感は。こんなとこでスキル発揮するな」


 強めに肩を揺するがエレノアは相変わらず起きない。

 カイルは肩から手を放してうんざりする。うなされている相手にどうすればいいかなんて知らない。自分の時はどうだった?


 母や父が手を握ってくれたことなどない。父は忙しいし、母は社交もあるがカイルに役目があるため物心ついてからは必要以上に近付いてくることはなかったはずだ。


 うなされた時はいつも――


「カイル様」


 後ろから声がかかってかなり驚くが、何とか顔には出さずに振り返る。


「なんだ、レオポルド。見てたのか」

「手を握って差し上げてください」


 レオポルドはイスをベッドサイドまで持ってきて座るように促す。

 部屋に入ってくるまではスキルを使ったのだろう。そうでなければいくらカイルが疲れてイライラしているとはいえ、レオポルドの気配を感じないわけがない。


「私はカイル様がうなされている時はそうしておりました。恐怖と緊張で手が冷たくなるのですよ。温かいと安心するでしょう?」

「……はぁ、分かった」


 うなされた時は起きたら側にレオポルドがいた。それだけでカイルは安心したものだ。

 今回だってレオポルドがやればいいとは思うのだが「では、仕事が残っておりますので」と言われると引き留められない。それにしてもあいつ、さっき老骨がどうのって一旦引いたのにまた戻ってきたのか。


 カイルは疲れた体をイスに沈め、枕を握りこむエレノアの手に自身の手を重ねた。

 レオポルドの言う通り、彼女の手は冷たかった。感触はもっと柔らかいのかと思ったらごつごつしている。令嬢の手ではなく、労働者の手だ。


 しばらくすると泣き声が小さくなり枕を握りこんでいたエレノアの手から力が抜けたので、カイルは手を取ってマジマジと観察した。あかぎれがあり、見たこともないほど手がガサガサだ。


 カイルは今日、スパイの尋問に付き合って疲れていた。

 王城に勤める侍女に他国のスパイ容疑がかかっていて、尋問後に記憶操作を行ったのだ。

 尋問していなければ、カイルはスパイ疑惑のある侍女の膨大な記憶を覗かなければいけない。ある程度このくらいの時期と分かっていれば見るのも探るのも楽だ。


 限られた記憶を覗いて消すだけなら簡単だ。しかし今回は捕縛された際や尋問の記憶のみ消して嘘の記憶を植え付けた。そのまま泳がせて嘘の情報を他国に流すためだ。

 繊細な作業だったから疲れた。


 そういえば、こいつの記憶を覗くことはできるのだろうか。父親が記憶から分かれば話が早い。


 あの時はこいつの記憶の消去を試みたができなかった。他の誰にでも有効なはずの記憶の消去。カイルのスキルなら記憶を覗いたり、消去したり、植え付けたりすることができる。


 疲れていたが少しスキルを使ってみることにした。

 対象に触れながらスキルを使えば頭の中に記憶の映像が流れるはずだが、何も流れない。


「スキル『鈍感』ってそんなに万能なのか?」


 泣き声がしなくなったので、エレノアの手を枕の上に戻してカイルは考え込む。

 カイルが覚えているのはそこまでだった。


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