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いつもお読みいただきありがとうございます!

 一週間前にお母さんが亡くなった。風邪をこじらせて。とってもあっけなかった。まだ信じられない。

 あんなに簡単に、人って死んでしまうんだ。


 現実逃避しそうになりながらエレノアは目の前の状況をぼんやり見る。これは多分、おそらく、きっと、人攫いだ。


 青果店での仕事を終えて帰宅する途中、路地に引っ張り込まれて馬車に詰め込まれた。

 訳が分からず悲鳴も上げられないまま口と目をふさがれる。


 しばらく馬車に揺られ、目隠しを外されて目の前にいたのは、同じく攫われたのであろう同年代の女の子や男の子。もっと幼い子供もいる。

 みんな口をふさがれて手足を縛られた状態で泣いたり、震えたりしている。


「お母さんが亡くなってあんた一人暮らしだろう? 一緒に住まないかい?」


 って青果店の店主であるハンナおばさんが誘ってくれたけど。お母さんが亡くなったことがまだ信じられなくて断った。こんなことになるなら、ハンナおばさんの言う通りにしておけばよかった。お母さんにもこの家から引っ越した方がいいって言われてたのに。


「船はまだか?」

「もうすぐだ。しかし、大量だな。これなら稼ぎは期待できる」

「いろんなとこから攫ってきたからな。みんな呑気なもんだ」


 見張りの男たちがそんなことを喋っている。どうやら船に乗せるつもりのようだ。

 お母さんと暮らしてた家、まだ片付けてなかったんだけどな。


 父親という存在はエレノアが生まれた時からいなかった。お母さんはとある貴族の家に勤めていたけど、妊娠して追い出されたらしい。お母さんの様子から無理矢理だったんだろうと分かる。でも、お母さんは私を可愛がって育ててくれた。そんなお母さんにはもう会えない。


 遠くで何か大きな音がする。

 船でも来たのだろうか。ここは港の近くだろうか。


「おいっ! 騎士団だ!」

「くそっ。なんでバレた!?」


 男たちの慌てた声といろんな足音が聞こえる。


「ちっ。踏み込まれてんなら逃げきれねぇな!」


 エレノアは一番最後にここに連れてこられたので、必然的に扉の一番近くにいた。

 ぐいっと男に腕を取られて、首元に刃物が押し付けられる。


「これ以上近付いたらこのガキが死んじまうぞ!」


 エレノアを無理矢理引っ張り起こした男は、盾にしながら騎士団に歯向かう様だ。

 エレノアは暗い部屋から突然連れだされて目がよく見えなかったが、徐々に見えるようになった。騎士団が来ているのは本当だった。ピカピカの鎧や剣を持った人たちがたくさんいた。


 騎士たちがひるんでいる隙に男はエレノアをひっつかんだまま、奥の階段を駆け下りる。どうやらここは二階だったようだ。


 裏口から出て、男は走る。後ろから数人の仲間の男たちも走ってくる。

 その中の一人は人質として幼い子供を抱えていた。その子供はどこからどう見ても貴族のお坊ちゃんだ。あんなに綺麗な金髪、平民にはなかなかいないもの。

 エレノアは抱えられながら意外と冷静に周囲を見ていた。


「はぁはぁ。くっそ。どこに逃げる?」

「どっかに籠城したって無理だろ。馬車か馬でも奪って逃げるんだ!」


 エレノアを小脇に抱えて男たちは走る。


「はぁ、騎士団は何をやっているんだか」

「主犯を取り逃がすとかないな」


 緊張感のない声がどこかから聞こえた。

 エレノアは身をよじって後ろを見た。後ろから走ってついてきていた男たちがいつの間にか倒れている。


「はいはい、君がリーダーね」

「は? いつの間に?」


 エレノアを掴んで走っていた男が急に止まる。

 前方を見ると、風にたなびく黒マント。そしてフードで顔まで覆い隠した人物が通せんぼしていた。


「っ。近付いたらこのガキがどうなってもいいのか!」

「君って雑魚だよね。雑魚はセリフまで雑魚」


 黒マントの人物の口元が弧を描いた。

 ふわっとエレノアは風を感じた。次の瞬間、誰かの腕がエレノアの体を抱え込み、エレノアを人質にしていた男は吹っ飛んでいた。

 吹っ飛んで勢い余ってゴロゴロ地面を転がる。坂道を落ちるリンゴみたいな勢いで回っている。


「これで逃げた奴らは全部?」

「あぁ。騎士団が取り逃がしたのは全部だ」

「そんな直接的に言ってやるなよ」


 エレノアを腕の中に抱き込んでいる男の顔は分からないが、見上げると身長が高い。

 他にも男が別方向からまたやってきた。これまでで全員、黒いマントを着て目深にフードで覆っている。


「じゃあ、あの処置をしておけ」

「そうだな、仕方ない。俺らも見られちゃったからな」


 二人が軽口を言い、エレノアを別の方向から現れた一人の男の前に突き出した。

 なんだろう。男が人差し指をエレノアの額に突き付けるのをぼんやり見ていた。


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