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25.交流会

 ブラントの案が採用されるまでに、それほど時間は要しなかった。


 彼は自分の持った切り札を存分に活かし、各所に根回しをしていった。



 子供たちの剣技指導には、年若く経験の浅い騎士と、ベテラン騎士がペアで付くことで、安全面の確保と人材育成を同時に行う。

 一方、会場の警備等については、若手で経験も豊富な、国の要となる騎士たちを多く配置することになった。


 女性用のドレス程の量はないものの、会場には鎧や騎士装束、展示用の模造刀等を用意をし、大人の男性達にも楽しめるよう配慮をする。


 騎士や文官達を巻き込んでの大仕事だ。



 ここまでするとなれば、当初の予定よりも随分大掛かりなイベントとなる。

 このため、今回のチャリティーイベントは、エルミラとアミルの共同事業ということになった。



「こうして共に公務を企画するのは初めてだな、エルミラ」



 エルミラの執務室でアミルが微笑む。

 テーブルには侍女たちが淹れた茶と菓子が並べられ、和やかなムードが流れている。


 アミルの言う通り、二人が協働するのは初めてのことだ。式典等に共に参加することはあるが、そもそも、王族がイベントを主催すること自体が珍しい。ラルカがアミルをこんなに間近で見ることだって、実は初めてだったりする。



「ええ。折角規模を拡大したんですもの。絶対に成功させましょうね、お兄さま。

皆様も、どうぞよろしくお願いいたします」



 アミルの背後に控えた従者たちに向かって、エルミラが微笑む。


 この席は、エルミラとアミルのためと言うより寧ろ、二人の従者たちのために設けられたものだ。今後、互いにやり取りする機会も多いだろうから、という配慮である。

 当然この場にはラルカとブラントも居て、互いの主人の後ろに控えていた。



(何だか、とても緊張してしまうわ)



 毎日顔を合わせているのに。

 何なら一緒に食事をしているというのに、普段と別の場所で会うというだけで、ドギマギしてしまう。



 ブラントはラルカの視線に気づくと、とても穏やかに微笑んでくれた。ラルカも負けじと微笑み返す。心なしか両者の頬が紅く染まった。



 互いの主人による畏まった挨拶を終えた後は、しばし歓談の時間が設けられる。

 文官に騎士、侍女たちは、皆が同じ城で仕事をしている筈なのに、配置先が異なるだけで殆ど接点がない。


 仕事を円滑に進めるためには、一にも二にもコミュニケーションが大事である。


 エルミラのそんな提案から、職務の垣根を超えて交流会が開かれる運びとなったのだ。



(さて、わたくしもしっかりと人脈を広げなくては……)



 主だったアミルの側近については、名前は知っていても顔を知らないものが殆どだ。

 しっかり顔と名前を一致させて、連携を取っていかなければならない。



「ラルカ嬢、是非私と話をしましょう!」


「いいえ、是非俺と!」



 けれど、無礼講になった瞬間、ラルカはアミルの近衛騎士たちに取り囲まれてしまった。



「わたくし、ですか?」



 もちろん、今後騎士たちとやり取りする機会も多くなるだろうが、ラルカにとっての優先順位は低い。今回の場合はどちらかといえば、実際に仕事を割り振ることになるであろう侍女や文官たちと交流を深めたいのだが。


 思わぬ展開に目を丸くしていると、すぐにブラントが飛んできた。



「――――交流する相手を間違ってますよ? ラルカは既に僕の婚約者ですから」



 ドスの利いた声音。

 顔は笑っているのに――――普段穏やかなブラントの変わりように、ラルカは思わずギョッとしてしまった。



「知っているよ! 知っているが、あまりにも急展開過ぎるだろう⁉ アミル殿下の側近になったら、ラルカ孃との接点も増えると思ったのに! あっという間にお前と婚約を結んでしまったんだから」


「そうだぞ、ブラント! 一人で抜け駆けするなんてあんまりだ! せめて俺たちにも、ラルカ孃と話ぐらいさせてくれよ!」


「へ? えぇと……え?」



 ラルカは決して鈍いわけではない。彼等が何を言わんとしているのか、分からないわけでもない。

 だが、にわかには受け入れがたい話だ。そんなことを考えている人がいるだなんて、想像もしていなかったのである。



(良いのかしら?)



 正直、別の男性に言い寄られたところで困るだけなので、ブラントが庇ってくれるのはありがたい。


 けれど、こんな風に『婚約者』だと対外的にアピールして、後々ブラントは困らないのだろうか? 迷惑をかけるのではないだろうか?


 将来、彼が本当に結婚をしたいと思ったときに、ラルカのことが障害になりはしないだろうか? ――――そんなことを考えながら、ラルカの胸が小さく軋む。



「ああ、ラルカはどうか気になさらないでください。彼らが勝手に言っているだけですから、ね?」



 ラルカの肩を抱きながら、ブラントはニコリと微笑みを浮かべる。



「ブラントさま、ですがわたくしたちは……」


「本当に! 全く! 気にする必要はありません! 

何故ならラルカ。

貴女は既に――――僕の大切な婚約者なのですから」



 熱っぽく囁かれ、ラルカは思わず頬を染める。



(わたくしは、ブラントさまの婚約者……)



 心臓がドキドキと大きく鳴り響く。身体が燃えるように熱く、恥ずかしさのあまり涙が滲む。


 たとえ、いつか解消してしまう関係だとしても、今ラルカが彼の婚約者であることは紛れもない事実だ。

 ブラントとて、ラルカのことを婚約者だと――――大切な存在だと言ってくれている。



(嬉しい)



 そうと気づいたその瞬間、胸の中が甘ったるく、嬉しさがグッと込み上げてきた。


 何故だろう。

 ブラントの顔を見る度に、心臓がバクバクと暴れてしまう。

 ラルカはまともに彼の瞳を見ることができなくなってしまった。

 


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