表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/42

24.頼りになる男

「ラルカのドレスを?」


「はい! 子供たちのために役立てたいと思いまして」



 その日の夜、ブラントと夕食を共にしながら、ラルカは自身の建てた計画を打ち明けた。

 ブラントは時折相槌を打ちながら、ニコニコと話を聞いてくれる。



「それは良いですね。素晴らしい案だと思います! 子供たちも喜んでくれそうですし、きっと成功しますよ」


「本当ですか⁉ ブラントさまにそう言っていただけると、なんだか自信が湧いてきますわ」



 実際のところ、ブラントがどんな風に考えているのか分からないが、彼がラルカの提案を否定しなかったこと、褒めてくれたことがラルカは嬉しくてたまらない。



(だってこれは、ブラントさまが居てくださったからこそ浮かんできた案ですもの)



 はにかむように笑いつつ、ラルカはそっと頬を染める。何だかとても照れくさかった。



「貴女のドレスを取り寄せるために必要な領地や使用人たちとのやりとりは、僕が担いましょう。ラルカは何の心配も要りません。全て僕に任せてください!」



 ブラントはそう口にして、ドンと胸を叩く。ラルカは思わず目を瞠った。



「けれどブラントさま、忙しい貴方の手をわずらわせるわけには……」


「いえいえ。忙しいのはお互い様です。そこに男性だから、女性だからという括りはないでしょう?」


「それは……おっしゃる通りだと思いますわ」

 


 性別が『女性』だからというだけで、軽視する男性はごまんとんいる。全く同じ仕事をしていても、だ。

 ブラントのように言ってくれる男性は寧ろ珍しい。これまで交わしてきた文官たちとの会話を思い返しつつ、ラルカの心がほんのりと温かくなる。



「それに、僕はもう二度と、貴女をお姉さまの件で苦しませたくありません。

大丈夫。そういう根回しや交渉は得意ですから。ラルカは大船に乗った気でいてください。

僕は貴女のためにできることがあることが、とても嬉しいのですから」



 ブラントの言葉は、あまりにも優しく、頼もしい。ラルカの目頭が熱くなった。



「ありがとうございます、ブラントさま。そうしていただけると、本当にとても助かります」


「婚約者として当然のことです。どうぞ、お任せください。

ところで、イベント当日は沢山人が集まりそうですね。僕の方からもアミル殿下に状況をお話して、警備を強化できるようにしておきますね」


「……! そんなことまでしていただけるのですか?」



 当日の警備については、ラルカの大きな懸念事項だった。エルミラの近衛経由で各署に依頼を出す予定でいたのだが、アミルに話を通してもらったほうが、事はずっとスムーズに進められる。



「もちろんです。殿下もイベントのことを気にしていましたし、当然のことですよ」



 本当に頼もしい限りだ。ラルカは羨望の眼差しをブラントへと向けた。



「あ、あの! 差し出がましいとは存じますが、よろしければこのまま、ブラントさまにご助言いただきたいことがあるのです」


「……? はい、僕で良ければ何なりと」



 ブラントはニコリと微笑み、首を傾げる。ラルカはそっと身を乗り出した。



「先程のわたくしの案なのですが、女性や女の子にとっては、とても魅力的だと思うのです。

けれど、これだけだと、男性や男の子にとって魅力のないどころか、近寄りがたいイベントになってしまいそうだと思ってまして」


「ああ、なるほど……」



 あの後、企画を煮詰めていく中で、このままでは参加者が女性に偏ってしまいそうだという壁にぶち当たった。女性向けのイベントだと見做されて、男性が全く集まらない可能性がある、ということも。


 けれど、デメリットが分かったところで、男性をターゲットにした案がすぐに用意ができるわけでもない。


 だからこそラルカは、男性であるブラントに助言を求めてみようと考え至ったのだ。



「そうですねぇ……男の子の場合はオシャレよりも、体を動かしたいタイプが多いですから。

僕や殿下の子供の頃の服を用意しても、喜ばないでしょうね。何なら、会場に付いていくことを躊躇ってしまうかも。待ち時間が長いことを嫌う男性は多いですし、居心地の悪さを感じてしまいそうで」


「そうなんです。わたくしもそう思います。

けれど、わたくしには、男性が喜ぶものが思いつかなくて……」



 言いながら、ラルカはしょんぼりと肩を落とす。

 ブラントはしばし眉根を寄せて押し黙っていたが、やがてポンと小さく手を叩いた。



「……でしたら、僕たち騎士たちが、子供たちに無料で剣技の指導をする、というのはどうでしょう?」


「剣技の指導、ですか?」



 全く思いがけない提案をされ、ラルカは瞳を瞬かせる。



「ええ。僕が文官ではなく騎士を目指したのだって『剣はカッコいい』という意識があったからですし、小さな男の子を相手にじっとしていろ、買い物に付き合えというのは酷な話です。

ですから、女性陣を待っている間に、思い切り体を動かす場を作ってあげることをオススメします。

剣技と――――乗馬体験を用意するのも良いですね。ラルカの提案した『憧れを体験する』というものに繋がる部分もあると思うのですが、如何でしょう?」



 ブラントの解説に、ラルカは大きく息を呑む。それから彼女は瞳をキラキラと輝かせながら、満面の笑みを浮かべた。

 


「ブラントさま! それって、とても素敵だと思います! もしも実現したら、男の子たちにもたくさん喜んでいただけます! 絶対に喜んでいただけますわ!」



 胸がトクン、トクンと大きく高鳴る。誰かの提案に、こんな風に興奮したのは初めてだ。ラルカは尊敬の念を込めて、ブラントを見つめる。



「ありがとう、ラルカ。そう言っていただけて、とても嬉しいです。

とはいえ、僕の案を採用するためには、幾つか課題があります」


「課題、ですか?」


「ええ。会場の広さや警備体制の確保に加え、事業への理解を促しつつ、各署への根回しを行うといったことが必要になると思います。一般人に怪我をさせるわけにはいきませんし、従事する騎士たちの配置方法の検討や、事前準備も重要になるでしょう。それ以外にも、文官を含め、たくさんの人を巻き込むことになりますから」


「……そっか。そうですわよね」



 ブラントの提案は、ドレスの無料体験ほど簡単にはいかないらしい。自分自身の考えの浅さに、ラルカはガッカリしてしまう。



「けれど、安心してください。この件についても、僕からアミル殿下に打診をしてみます」


「本当ですか?」


「ええ。僕だって、ラルカが大切に思っているこのイベントを成功させたい――――子供たちに夢や希望を与えたいと思っていますから。

それに、こういった提案をする以上、僕はこちら側の責任者の一人になるでしょう。もしかしたら、ラルカと一緒に仕事ができるかもしれませんからね」



 ブラントはそう言って穏やかに微笑む。



「わぁ……! そうですわね! そうなったら、わたくしとても嬉しいですわ!」


「僕もです。是非、一緒に実現させましょう」


「はい、ブラントさま!」



 満面の笑みを浮かべるラルカを見つめつつ、ブラントは幸せそうに瞳を細める。

 食事を終えた後も、二人の話題は尽きることなく、深夜近くまで話に花を咲かせるのだった。


【お知らせ】

①サブタイトルを変更してみました。

②本日以降、毎日更新できる見込みです。概ね10万字程度で着地できそうです。


 以上、よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ