冬の訪れ
さて、そういうわけで何か知らんけど新しい魔法を覚えました。
鞄の収納力をアップさせる魔法と言えばいいでしょうか。本来は自分の周辺の空間をこう、ぎゅっとさせてそこに持ち物をしまうやつらしいんですが、そこまでは流石に無理だった。
あれどんだけ魔力使うの……
日常的に使ってたら消費魔力量も減るようになるよ、とレーゼリナさんは言うけれど、そこまで熟練度を上げるのに一体どれだけ使えばいいんだ……?
毎日魔力枯渇レベルまで使ってなんぼ、みたいな感じするので流石にそれはちょっと……
今まで魔力枯渇するレベルまで使った事なかったけど、あれを何度も経験したいとは思えないんだわ……
もうマジでメンタルやばいとこまで落ちる。
ネガティブの極み、みたいになれる。なってもどうしようもないものになるとか、何の意味が……ってなるわ。
自分が持つ本来の魔力量を上げる方法は他にもあるらしいけど、一番効果があるのは枯渇するまで使って休む、を繰り返すらしい。寝る前に使い切ってそのまま寝て起きたら全回復、となってればいいけど、ゲームと違って寝て起きたら全回復してるとかって事は生憎とない。
場合によっては昨日の疲労を引きずる事もあるし。
全回復して毎日朝起きたら元気溌剌! ってなってるならね、この世界筋肉痛とかそういうのとは無縁なんだわ。でも普通に筋肉痛というものが存在する世界なので起きたら全回復、はまずない。
そこそこ回復はするけど、それだって個人差とかあるし年とともに回復量が落ちるとかも普通にある。
寝る前に限界まで魔力使ってそのまま倒れるように寝て、というので全回復できるならその方法も実践したけど実際は起きたら昨日の疲労を引きずって最悪な目覚めになるからね。やらない。
まぁ日々それなりに魔法使ってたら少しずつではあるけど魔力量上がる事もあるっていうし、瞑想とかするとちょっと上がるって言われてるけどレーゼリナさんに言わせればそんなの微々たる量すぎて気休めにしかならない、との事。
いやでもそっちのがまだ弊害ないからな……メンタル最底辺突き抜けてどん底の底まで落ちるのに比べればまだ安全にできる感じだしな。まぁ確かに日常生活でそれなりに魔法使ってたとしても、それで魔力量が上がったかって実感できたか? って言われたらとても微妙だけど。言われてみれば……みたいな思い違いの可能性もあるくらいのちょっぴり感。
……っていうか、幼い頃の私、地味に魔力枯渇寸前まで使うっていうのやってた気がするんだよね。
いや、親に強制されてとかではなく、単純に己の限界がわからないまま色んな魔法を使ってみたくて、みたいな感じでやってたような気が。
とはいえ使ってたのは治癒魔法が大半で、だからこそうっかり失敗してもそこまでの被害は出なかったけど。
魔力を使い切るくらいまでになれば勿論精神的にもどーんと落ち込む感じはするけど、幼い頃の私それ、普通に体調不良として寝込んでた気がする。
今思えば幼い頃のそんな無茶が結界を無詠唱で発動させまくるのに役立つ要因と言えなくもない。
あれで魔力量が上がった結果がこれ、と考えればまあ……とはなるけど。
でも今になってまたああいう感じで魔力量を上げろと言われるととてもお断りしたい。
小さなころは家の中にいて何もしなくても問題ない感じだったけど、今は普通に生活しないといけないし。ご飯の支度くらいはレーゼリナさんがやってくれるかもしれないけど、店とかは流石にね……
とりあえずメンタルもそこそこ回復したので、本日はレーゼリナさんにお留守番を頼んで私は薬草の調達に出た。
いっぱい入る鞄の性能を試したい、というのもある。
いつもはカゴを持参していくわけだけど、今回は複数枚の袋を用意した。
袋に入れて、一杯になったやつを鞄にしまう。薬草をそのまま鞄にぶちこんでくと後から出した時にごちゃごちゃになって出てきそう、ってのもあるから一応ある程度仕分けるのは大事だと思う。
万一鞄がもうこれ以上は無理です……ってなっても袋なら抱えていけるからね。
カゴを複数持つよりは袋の方がマシだろう。
というかカゴを複数用意する方が逆に大変。
袋ならまだどうにかなるけども。
というわけで鞄の中には折りたたんだ袋を複数いれて、私はせっせと薬草調達に励んでいたのである。
とはいえ季節はすっかり秋も終わりを迎えて冬になりつつある頃。
全然採れないってわけじゃないけどやっぱり他の季節と比べると採取量は低め。
鞄の性能を試すの、ちょっと時期間違ったかな、という気がしなくもない。
……一人で採取していたならば。
今回はなんと護衛にマトハルさん――いやこれは割といつもだな――と、何ともう一人同行者がいる。
その同行者は――
「しっかしまぁ、何度かここには来てるけど相変わらず薬草に関しては豊富なもんだよなぁ……」
なんて言いながら手際よく薬草を採取しているゲヘノムさんだ。
「豊富なんですか?」
「そうだな。他の所と比べるとかなりな。冬が近いとなれば全く何も採れない、なんて所、それこそたっくさんあらぁな」
「あー、そう言われるとまぁ、そう、ですね」
こっちは冬でもあまり雪が積もらないけど、場所によっては雪が積もってそれこそ植物なんて何にも、なんて場所だってあるわけだ。まぁそういう所と比べればそりゃ豊富に採れると言える。同じく雪が積もらないような場所と比べても違いはそこそこあるらしいけど。
こればっかりはあちこち移動しているゲヘノムさんだからわかる事なんだろう。
私は言われてもいまいちピンとこない。何となく理解できなくはないけれど……といったところか。
護衛としてついてきたマトハルさんは、今現在こちらの様子を確認しつつ周囲に近づいてきた魔物を追い払っている。
ちょっと前にマッシュルームベアが出たとはいえ、そしてその死体を食べた魔物もいるだろうとはいえ、流石にもうパワーアップ期間は終了してるだろう。ちらほらと姿を見せているのは食料を探し求めている冬眠するでもない、群れからはぐれただろう感じのやつばかりだ。つまり、たいして強くない魔物が時々こちらを窺う程度。
とはいえそういうのが集まって一斉に襲い掛かって来られると面倒なのは面倒なので、マトハルさんは見かけるたびに追い払っているというわけだ。
マトハルさんが別の魔物の対処をしている隙を狙って別の魔物が……という事も今の時点ではない。
あったとしても私は結界でどうとでもできるし、ゲヘノムさんだって自分の身を守るくらいは余裕だろう。
なので割とまったりしつつ薬草を採取できた。
……とはいえ、精々袋二つ三つ一杯にするのがやっと、といった程度だったので鞄の中の容量たっぷりになった感はあまりなかった。
……やっぱ試す時期が悪かったなこれ。
何度か使っていくうちに熟練度的なものが上がって消費魔力量が減るとかレーゼリナさんは言ってたし、そうなるといつかは発動しっぱなしにしても問題ないのかもしれない。それこそ、私の結界のように。
「そういえばゲヘノムさんはいつまでこちらに滞在する予定なんですか?」
「そうさなぁ、今からどっか行くにしても場所によっては雪のせいで移動が限られるなんてのもあるからなぁ……春まではいるかもなぁ」
「そうなんですか」
問いかけた事に意味なんてない。単なる世間話程度のものだ。
けど、割とあちこち移動してるっていうし、ある日用事があって話しかけようとしたのに気づいたらもうとっくにウルガモットから出て行ってましたよ、なんて事になったらそれはそれで自分が困るかもしれないと思ったから聞いたに過ぎない。
いや困る事あるかな……? とも思うんだけど。
とはいえ、ゲヘノムさんは各地を移動しているだけあって、それでいて自分も薬師として――そう、驚くべき事にギルダーでもあるけど本人は薬師なのだそうだ――日々研鑽を積んでいるのもあって、薬草の知識は凄い。
採取してる時も、私が使うやつを採取しつつ自分が必要なやつもきっちり調達してるのを見てると動きに無駄がないのがわかる。
私はまだ確実に必要な奴以外は採取するにしてもこれ何に使えたっけ……? みたいに思い出しながらの採取なのでゲヘノムさんと比べるととても遅く思えてくる。
流石に採りつくすわけにもいかないので、ある程度のところで切り上げてそんな感じの世間話をしながらウルガモットへ引き返していく。
「……どういう風の吹き回しだか……」
なんてマトハルさんが呟いていたけれど、ゲヘノムさんは聞こえていなかったのか、それとも聞かなかったことにしたのか、何も言わなかった。
後日、マトハルさんにあの時の呟きの意味を聞けば、ゲヘノムさんは別に冬だからって用があれば普通に移動するぞと言っていた。
うーん、つまり、まだウルガモットに何らかの用事があるから留まるって事、でいいのかな……?
マッシュルームベアが発生した時にキノコの胞子対策で材料求めてきたわけだけど、その一件は解決したわけだし他に用があるなら確かにゲヘノムさんならあっさりとウルガモットを後にしてるような気はする。
とはいえ、マッシュルームベアの時のような緊急性があるものでもないのだろう。
でもまぁ、多分個人の事情なんでそこを深くは突っ込まない。マトハルさん相手でもなんかのらりくらりとかわしそうだしね。そんでもって私も首をつっこむつもりはないわけで。
まぁとりあえずは……暇な時ならゲヘノムさんも薬草採取に付き合ってくれるという事だけは確定したっぽい。




