使いどころが限られる
空間圧縮、という言葉からてっきり攻撃系だと思ってたけどレーゼリナさん曰く、自分の周辺の空間を圧縮させてそこに荷物を収納する、とかいう使い方らしく覚える事ができれば確かに便利だなあ、と思ったのは確か。
でもさ、まず魔女なら使えて当然、とか言いつつも実際おばあさんもリタさんも使えなかったって部分で察するべきだったんだよね。
まずこの魔法、めっちゃ魔力使う。
レーゼリナさんから魔法の詠唱を教わって、いざ実践してみたけど発動しない。
いや、発動はしてるの。ただ、予想している効果範囲以下のパフォーマンスしか発揮されないだけで。
自分の周囲の空間に荷物を収納ってそもそも、その魔法常に発動させ続けてるって事なわけで。
そりゃあ魔力量がとんでもないくらい有り余ってるとかじゃないと無理だわ。
早々に察した。
唱えても唱えても魔力だけが消費されてく感覚だけ凄くて、実際に収納できたのって薬瓶一つが精一杯ですよ。割に合わん。
普通に鞄持ってその中に荷物入れた方がよっぽどマシだわ。
多分これアレだわ。
レーゼリナさんの言う魔女なら、っていうの大魔女なら、っていうのが正確な表現ではないだろうか。そもそもおばあさんとリタさんは使えなかったんだし。そういう部分ちゃんと表記して。
何かうっかり自分でもできそうに思えたけど、大魔女なら使えて当然、って最初に言われてたら間違っても試しにやってみようかな、とか思わなかったわ。そもそも私は魔女ですらない。おばあさんとリタさんという二人の魔女に面倒見てもらったという事実はあれど、私は正確には魔女じゃない。
というか魔女の定義ってなんだ。
生まれつきの種族とは何か違うっぽいし、でも生まれた時から魔女、みたいなのもいるって聞いた気がするし。もう何がなんだかわからない。世界は謎に満ちている。
ともあれ、どう頑張っても無理だな、っていうのだけはハッキリした。
試しにレーゼリナさんが実際に使ってるのを見せてもらったけど、なんでこれ私にできると思われたんだ? っていうくらい無理。
そもそも詠唱教えてくれたとはいえ、レーゼリナさんは無詠唱でやってたし。
向き不向き以前に圧倒的にレベルが足りない、っていう感じだったわ。
ちなみにその日は私が魔力を枯渇する勢いで使い果たしたので早々に休む事になった。
体力的には特に何の疲労もしてないはずなのに、倦怠感がすごかった。精神が不安定とか情緒不安定とかそういう風に言われても否定できないくらいに気分がガクッと落ち込んだし、不治の病にでもかかったんじゃないかって気さえした。
健全な精神は健全な肉体に宿る、とかいう言葉が前世であったと思うけど、あれはある意味で合ってるのかもしれない。
体は健康そのもののはずなのにメンタルがガッツリ消耗してるともう何かそれだけで無理。
逆にちょっとくらいの不調でも精神が元気ハツラツしてたらある程度はどうにかなりそう、っていうか気にならないっていうか。まぁ後からガッツリくるのは言うまでもないけど。
私は魔力枯渇してるってわかってるからまだ客観的に自分を見れてる感じだったけど、そうじゃなかったらどうなってた事やら。
メンタルがっつり地の底に沈みこんでるレベルでどんよりしてるところに更に何かこう……ちょっとしたイヤな事とかあったら余裕で世界全てが敵に見えるくらいになってるんじゃないかなー。普段は気にならない自分に向けられた悪口とかそういうのも確実にグサグサきそう。いや私宛の悪口とか少なくともウルガモットで聞いた事ないけど。
ディットさん絡みで私に突っかかってきた女の人はいたけど、アレだって今みたいな精神状態の時に遭遇してたらそりゃもう盛大に後を引きずって凹みに凹んでただろうなってのは言える。
「ちなみに魔力枯渇する勢いで使い切って、回復したらまた枯渇するまで使う、を繰り返すと回復する時に少しずつだけど魔力の量は増えるよ」
レーゼリナさんがベッドでぐったりしてる私に向けてそんな事を言うけど、いやこれ……気軽に何度もやろうって思えるものじゃないんだわ。
こんなメンタル凹みまくりの時にお前は才能がないとかあれこれ言われたらマジで数年単位で引きずるレベルのトラウマになりそうなのに、そんな精神状態を延々続けるような真似をするのはある種の自殺行為でしかないと思うんですが……
何度か繰り返してたらそりゃあ魔力の量が増えて、いずれはあの魔法も使えるようになるのかもしれないけど……随分と気の長い話だと思う。
あと休みの日がずっと続いてるなら魔力枯渇期間が長引いてもいいけど、仕事してる時とか人と接する時にそんなメンタルだったらただの世間話くらいの気安い会話でも重く受け止めて勝手に自滅しそう。
この薬置いてませんか? とかいうお問い合わせですら無かったら用意してなかった私が駄目なんだ……とか思い込みそう。そこまでいったら完全に手遅れでは。
自分は駄目な奴だー、程度で済めばいいけどこれ下手したらこんな自分が生まれてきてすいません……みたいになって突発的に自死しちゃうとかならんか?
そりゃ魔力を底上げしたいとか考える人はいるだろうけど、でもこの修行方法は明らかアウトだと思うんだよなぁ。もうびっくりするくらいメンタル凹むもの。
私もレーゼリナさんが理解してる状態でそこにいるからまだしも、何の理解もない人が身近にいる状態でこんなんなってたら間違いなく喧嘩に発展して最悪の結果とか迎えてそう。
とりあえずレーゼリナさんが教えるって言ってたこの魔法に関して、私には扱えないという結論が出たわけだ。でもレーゼリナさんは完全に諦めたわけじゃなかった。いや諦めて。私のメンタルにもっと配慮して。
貴方は大魔女で凄い魔法を扱えるかもしれなくても、私は魔女でもない普通の一般人なんだわ。
もう魔力が枯渇するまでとかそこまではやらないぞ、という姿勢でいたらレーゼリナさんも無茶振りかましたりはしないけど、じゃあこれは? こっちの魔法は? みたいな感じであれこれ試そうとしてくる。
もうこれ弟子っていうより実験動物の気持ちなんだわ。
けれども。
レーゼリナさんの執念というべきか、あれこれ試した結果私自身の周囲の空間を圧縮してそこに物をしまい込む事はできなかったけれど。
鞄に魔法をかけて中の容量を増やす、という事には成功した。
ゲームにありがちな何かいっぱい物持てるやつキター!!
ってちょっとテンションが上がったのは言うまでもない。
ただ、まぁ。
魔法なので。
鞄に魔法をかけて収納量をいっぱい増やしたといっても、それは魔法がかかってる間だけ。
魔法を解除したら当然鞄の中に入りきるはずもないくらい荷物が入ってたら、最悪鞄がはちきれてしまう。
ずーっと魔法をかけたままの状態を維持できればいいけど、今の私にそれはできなかった。レーゼリナさんが鞄にかけた魔法が成功した事でじゃあこの魔法をずっと維持できるような魔法を……ってなったんだけど、この重ね掛けがとんでもなく難しかった。
もうさ、永続的に効果を続けるってそれ魔法っていうかある種の呪いでは? っていう気さえしてきた。
魔法じゃなくて呪いならいけるのでは? とか思ってみたけど無理だったよね。
とりあえずこの魔法は素材採取に出かける時に使って、いっぱい採取して帰ってきたら中の荷物を取り出す、っていう感じでしか今のところ使えなさそう。
数日旅をするような状況だと一度魔法解除して中の物を出しておける場所が必要だから、野宿の時は難しそうだな。宿で部屋個室でとれればまぁ、どうにか……って感じだろうか。
明らかに一般的に出回ってる魔法じゃないけど、まぁ、使い方次第ではとても便利と言えばそう。
日常的に使いまわせるかって言われると微妙だけど。
なんて思っていたら、レーゼリナさんは使わなくても毎日使っておけば慣れて消費魔力量も減るし、いずれはその魔法をずっと維持できるようになるかもしれない、とは言ってたけど。
……うん、それ、明らかにゲームにある熟練度とかそういうやつですよね。




