魔法の授業
新しい魔法、と言われてもそもそも私は攻撃魔法は使えない。
どうやらそれが、両親が私にかけた呪いによるものだとは知ったけれど、その呪いを解呪しようとは思わなかったので相変わらず私は攻撃魔法が使えないままだ。
力があれば復讐に走ったかもしれない、とか思われるような子だったんだろうか。前世の記憶を思い出す前の私そこまで苛烈な性格してたとは思えないんだけど。どっちかっていうと人見知りで内向的な感じだったっぽいし。
……だからかな?
自分を取り巻く周囲の環境が限られてるからそれを壊された時点でどういう行動に出るかわかったものじゃない、とか思われてたのかな……どっちかっていうと攻撃魔法が使えない事で自衛手段とかもなくなってしまうのでは、とも思うんだけど、復讐心に囚われて力の使い方誤って自滅、とかありそうだし。
余計な力を持たなければ、危険な事に首を突っ込む事もないと思われた可能性はある。
ともあれ、今の私が使える魔法はあくまでも結界と治癒魔法だけだ。
他の魔法は頑張ったところであんまり上手く使える気がしない。というか、使えない呪いがかかってたっていう事実よ。
なのでその手の攻撃魔法みたいなやつを教えると言われても私は使えませんよ、とレーゼリナさんに言えば知ってる、ととてもあっさり返された。
「アタシがお前に教えるのはアレだよえーと、ほら、アレ」
「アレ、じゃわかりませんよ。流石にそこまで察しはよくないです」
「あーと、ほら、あれだあれ、空間圧縮」
「何かいきなり高難易度っぽいのきましたね。えっ、それ教わったとしてマトモに使いこなせる感じのやつですか? 失敗して自分を含めた周辺の空間が圧縮されて見るも無残な……なんて事になりません?」
「失敗すればそりゃそうなる可能性もあるだろうねぇ。とはいえ、まぁお前なら大丈夫だろ」
「根拠」
「アタシを誰だと思ってるんだい? 大魔女レーゼリナ様だよ」
「正直大魔女ってだけで全ての発言に根拠を持たそうとするのどうかと思うんですけども」
「まったく心配性な子だね。アタシが大丈夫って言ったら大丈夫なんだよ。これでもそこら辺見極めるのは得意なんだ。できもしない事やらせるなんて時間の無駄じゃないか」
そこまで言われればまぁ、そうだけどさぁ、って気はするけど、でも大丈夫の根拠ではない。
今もまだ不審そうにしてる私にレーゼリナは小さくため息を吐いた。
「そうさね……実の所お前の事はそこそこ見てたけれども」
「はぁ」
見てた。
見てたと言いましたか今。
いつから、とかそういうのは聞いちゃいけない事なんだろうか。
いやそりゃ同居するようになってからは見てたって言われてもわかるけど、それ以前からとかだとちょっとこう……驚きはするよね。
「お前は攻撃魔法は呪いで封印されてるようなもので、でも元々使えないわけじゃない。
だからこそ、応用かませば使えるのさ。
結界だって身を守るためのものではあるけれど、それを攻撃に転じさせているだろう?」
「その言い方だと攻撃魔法を使えない人は何をどう頑張っても結界で攻撃できない、みたいですね」
「その通りだからさ」
……そうなんだ!?
私としては結界に無限の可能性を見出したりして前世であれやこれやしてたのもあったからできると信じてやらかしてたけど、実際はできない、ですと!? マジか。
いやだって攻撃魔法が使えなくても拳で殴り掛かるくらいは誰だってできるじゃん?
その応用というかその流れで結界で相手をぶん殴る事は可能だと思ってたんだけど。えっ、ホントに? ホントにできないの普通は?
マトハルさんとかが最初の頃に結界で殴ったりしたことに呆れというか驚きを見せてたのは、つまりそういう事……?
単にその発想はなかった、とかそういうやつではなくて?
なんて感じで信じられない、みたいなリアクションしてたらレーゼリナさんはあからさまに溜息を吐いた。さっきの小さいため息と比べて圧倒的露骨さ。なんだろう凄く残念な生き物を見てるような目をされてらっしゃる。
「お前が呪いを解くつもりはないって言いきってるから一応本人の希望に沿ってるけどね。攻撃魔法も使えるようになってたらお前、今頃はきっととんでもない魔法使いになれてたかもしれないんだよ」
「いえ、そういうのはちょっと……そりゃ使えないより使えた方がいいのはわかるんですけど、使えるのと使いこなせるのとでは大分違ってくるっていうか……」
しかもこの世界の魔法ってほら、ちょっと前に私がマーカーとかで治癒魔法陣とかやらかしたあたりからお察しだけど、攻撃魔法とか適当にぶっ放したら味方も一緒に、ってなるやつなわけで。
味方に被害がいかないように立ち回って魔法を使う、とかそういうの個人的にとても面倒というか、出来る気がしないので……だったら最初から使えないままの方がマシかなって。
ゲームみたいにターゲット決めてそこだけに魔法をどかーん! って感じだとまだいいんだけどね。
実際にはマーカー打ち込んだりしてからじゃないとそれもままならないっぽいからね。
そこら辺知らないうちに攻撃魔法使ってたら下手したら味方諸共全員火だるま、なんて事になってたと思うんで両親が私に攻撃魔法を使えない呪いをかけたのはある意味でグッジョブでは……?
そもそも復讐に走ったかどうかもわからないけど。
前世の記憶が蘇る前の私ならどうしてただろう。
自分の境遇がこんなことになったのはあいつらのせい、とかって恨んで手あたり次第盗賊とか山賊とかとにかくその手の相手を仕留めよう、とか思った可能性はゼロではないけれど、今の私だったらそこまでの労力はなぁ……両親を殺した相手がその場にいたならやったかもしれないけど、それ以外にまで飛び火させるかってーと微妙なところだな。
「でも、そういうのって発想の転換というか、攻撃も防御も紙一重っていうかだと思うんですよ」
だってほら、料理を作るのに使う包丁だって使い方間違って人刺しちゃえば立派な凶器だし。
知識を得る事のできる本だって閉じた状態でぶん殴れば結構痛い凶器だし。表紙でも背表紙でも角でもどこからぶつけても痛いっていう結構地味に手ごろなやつ。
一見すると傷つける事もできそうにない感じのやつだって、使い方次第では凶器に早変わりする可能性を秘めてると思うんだよね。
そりゃあ攻撃力の高い低いくらいの差は出るだろうけど。
そう言えばレーゼリナさんはやれやれ……みたいに肩をすくめた。
「そうなんだけどね。普通はそこまで考えないし、意識してその固定観念を壊すってのは中々に難しいものなのさ」
「そういうものですか」
「あぁ、困った事にね」
という事はつまり、私が結界で人をぶん殴るのを見た別の結界魔法の使い手が、あんな風に攻撃できるのか! って思ったとしてじゃあ自分も……! ってならないのか。
ああいう使い方ができる人がいる、という事実を知ったとしても自分がそういう使い方をできる、とまでは思わないのかもしれない。
……まぁ、私は物心ついたというか、前世の記憶思い出した時点で結界の使い方をあれこれ変えたけど、普通は自分とかそれ以外の誰かを守るのに展開させるだけの結界を、自在に操って攻撃するとなればいきなり上手くはできないか。
「それにね、見てたと言ったろう。
お前がマッシュルームベアを結界に閉じ込めて圧縮させたの、アレができるならこの魔法だって使えるはずさね」
「あっ、見てたんですか……えっ!? 見てたの!?」
いや、確かに見てた、とは言ったけど、それだっててっきりここで同居して私と生活してからのあれこれだけかと思ってたんだけど!?
まさかあの時見える範囲にいたって事?
でもマトハルさん何も言ってなかったって事は、マトハルさんが気配を察知する範囲外からって事?
大魔女ってくらいだし、魔法で遠くの様子を見る事ができるのかもしれない。そっちならマトハルさんが気付けなくても別に何もおかしくはないはず。
とはいえ、確かにあの結界をぎゅっと縮めて中にいる相手をしまっちゃおうねー、しようとした感じのあれはある意味で圧縮したと言えなくもないけどあれを空間圧縮とは言えないのではないだろうか。
そんな風に言えば、応用応用って軽く返されてしまった。
本人は大魔女だからかる~く言ってる節があるな、と思える。
私が難色示したところで、レーゼリナさんはその空間圧縮の魔法を教えるという意思をなかったことにするつもりはないらしい。何か教わる事になってしまった。拒否権とかないんですね……
でも空間圧縮とか具体的に何に使う感じの魔法なんだろう。魔物のいる空間ごとぎゅっとする感じなんだろうか。下手したら人間もぎゅっとなるよねそれ。
圧倒的攻撃魔法では? と呟けば、レーゼリナさんは何でそんな攻撃的な発想しかしないんだい、と思いっきり呆れてますよという態度だ。
「この空間圧縮ってのはね、使いこなせれば自分の周囲の異空間に物を収納できる代物さ。つまり、常に家財道具一式を持ち運べるしそこにしまってる財産は盗まれる心配もない。魔女なら使えて当然の魔法ってやつさ」
「あっ、何か思ってた以上に便利なやつでした……」
いけないいけない、何か攻撃魔法に関しての話が出たせいか、普通に攻撃する感じで想像してたわ。
レーゼリナさんの言葉を信じるなら、確かにその魔法めちゃくちゃ使えるやつ。
というか、薬草とか調達しに行く時カゴを持たなくてもいいって事では? 貴重品とか常にそこにしまい込めば金庫とかいらないって事だよね。いやまぁ、うちに金庫はないけども。
金庫っていうか、売り上げのお金とかをしまう箱はあるけどあれを金庫と言うにはちょっとなー……
魔女なら使えて当然、という事はおばあさんやリタさんも使えてた、って事か。
「残念ながらあの二人はこの魔法を使えなかったんだけどね」
私の考えを読んだようなタイミングで言われて、えっ、それは魔女なら使えて当然とは……? と思わず呟く。いやだって、そうでしょ? 今の話の流れなら二人も使えるものだと思うでしょ?
何か初っ端から出鼻をくじかれる、みたいな気持ちになったけどレーゼリナさんはこの魔法を教えるつもり満々だし、私としても便利な魔法だと思うので使えるなら使いたい。
そんなわけで特にごねたりするでもなく、私は比較的素直に教わる事にしたのである。




