表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一体どうしろと  作者: 猫宮蒼
一章 自衛のために好感度とかもっとわかりやすくしてほしい

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

88/267

偲ぶ話



 驚く事に、収穫祭ではそこまで大きなハプニングはなかった。

 花祭りの時と星祭りの時と比べると圧倒的平和。

 そりゃあ、かつてどこぞのマフィアに所属してたとかいう巨漢と遭遇こそしたけれど、それ以降は驚くくらいに何もなかった。

 えっ、いいのこんな平和で……? ってくらい平和だった。


 思わずディットさんにそれを言えば、

「今年はそういえば花祭りと星祭りの時大勢捕まえましたもんね。去年はそうでもなかったんですよ?

 あとその前の年とかも。今年がちょっと多かっただけで」

 って返ってきた。

 マジか。

 今年だけそんな大量発生しちゃってたのか……えっ、じゃあ来年はもうちょっとのんびりお祭りを楽しめると……?

 期待はしたけど来年もまた大量発生してたらそれはそれでアレなので、あまり多大な期待をしないようにしておこう。こういうのは大体期待したらした分だけ裏切られるやつだ。


 ともあれ、とても平和的に並ぶ店を見て回り、いくつかの保存食を買う。

 自分でも作れるけれど作るには手間のかかるやつだとか、食べた事のない感じのやつで気になったのをいくつか買い込んで、流石に荷物が多くなってきたので一度家に戻って荷物を置く。

 そうして再び店を見る。


 途中で気になった食べ物を買って食べて、なんて事をやっていれば、あっという間に日は沈み空が茜色に染まっていく。

 酒場なんかでも収穫祭はやってるので、まだまだ終わりではないけれどそれでも大分人の数は減ってきた。

 こういう大規模な祭りって二日とか三日くらいに分けてやったりしないんだろうか、とも思ったのだけれど、ディットさんに聞けば他の土地でもずらしてやってるから、運がよければ複数の場所でお祭りを楽しめるのだとか。うーん、それができるのって一定の限られた人だけでは……? とも思ったけど、まぁ、うん。


 何らかの仕事で住んでる土地を離れ、今年は収穫祭の参加は無理そうだなぁ、って人が別の町とかで参加する、みたいな事ができると考えれば悪い話でもない。多分各町ごとに若干店の種類が異なったりするだろうし。そういう違いを楽しめる、なんて考えればそれはそれで有り。

 結果としてやっぱうちの故郷が一番だな、なんて思うのも、はたまた来年もここに来よう、なんて思うのもそこは人それぞれってやつだろう。


 ……そう考えるとちょっとだけ自分の故郷でもあるアニーティカの収穫祭なんかも気になるんだけど……まぁ、わざわざ行くかってなると……う~ん。

 単純にちょっと興味がわいただけで、何が何でも違いを体験したい、とかそこまでの熱意はないんだよね。これはあれだ、友人が新しい生活用品とか美容器具とか買った時に、使い勝手どんな感じ? ってとりあえず聞くのに近い感覚。余程べた褒めなら自分もちょっと購入を考えるけど、普通の感想程度であればいつか自分も買う時に参考にしようかな、くらいのふわっとしたノリに近い。


 ディットさんは収穫祭に参加しているといっても、本当にふらっと周辺を見て回る程度で私と一緒に屋台で食べ物買ったりする以外で特にこれ買おう、みたいなのはなくて、結果的に私が買った保存食のいくつかを持ってくれた。荷物持ちにしちゃうとか恐れ多すぎやしないか……?

 大丈夫? これ、普段私とディットさんで腐った妄想してるお嬢さんとかも流石にこれはレッドカード出してこない……?

 一応私も手ぶらではなく荷物があるんだけど、それでもアウト判定出されたりしないだろうか……美形になんて事させてんだ、とか言われたら返す言葉もないんだよね。


 まぁ、何往復もして荷物運ぶのも大変だから、ディットさんが少しでも荷物を持ってくれたのとても助かってるんだけど。

 申し訳ないなぁ、なんて態度でいたら、ディットさんはこれまたどえらい爽やかな笑みを浮かべていた。


「構いませんよ。あれからそこそこ経過しましたけど、やはりふとした瞬間に腕が動くという事を実感できるので」

「あれから一切不調とか違和感はないんですね……?」

「勿論、むしろあんなことがあったなんて嘘のようだね」


 腕がとれかけたというのに、嘘のよう、で済ませちゃうのもどうなんだろう。

 いや、今問題なく動いてるならいいのかな……?

 まぁ、ちゃんとくっつくならこれからも無茶して大丈夫、とか思われたらそれはそれで困るんだけど。毎回私が治癒魔法を使える状況下かどうかわかんないし。



 そんな会話をしながらも、買い込んだ保存食を見て思った以上に買ってしまったな、という事実に気付く。

 いや、流石に冬の間に食べきれないくらいに買ったとまではいかないけれど、それでもどんだけ買ったんだよって自分で自分に内心でツッコミいれるくらいには買ったなぁ……

 リタさんが生きていたならまだしも……いや、多分リタさんもどんだけ買い込んだんだい!? って言いそう。わー、やっちまったなぁ。とは思うも後の祭りである。


 とりあえずこれ以上保存食を買うのはやめて、あとはもう適当にそこら辺ふらふら見るくらいに留めておこうかな。

 防寒具以外で食料じゃないやつが売られてたような気がするし、そこら辺見とけばまぁ、これ以上余計な食べ物は買わないはず。


「ディットさんはどうします?」

「そうですね、それではもうしばらくエルテと一緒に」


 乙女ゲームなら何かスチルになりそうな、こう……なんだ、慈愛に満ちたみたいな微笑み浮かべて言われたけど、え、いいんですか? 家に帰らなくて、って真っ先に思ってしまった自分がいる。

 まぁ、ディットさんだってこどもじゃないんだし、そろそろ暗くなってきましたよ、みたいな時間帯に家に帰らないとお母さんに怒られるとかそんなのはないだろう、きっと。

 というかその場合ルーウェンさんから念話で色々言われてそうな気がするし。


 というわけでここまできたらいっそギリギリまで収穫祭粘ろうと思ってるけど、あまり遅くなってもな……夜になったら多分出回るのってお酒がメインな気もするので、ある程度のところで切り上げるつもりではいる。飲まないのに酒の席に居座ってもねぇ……?

 おつまみとかは美味しいの多いけど。流石にそろそろお腹も一杯になってるし。多少動いたとはいえ、それでもやっぱり食べ過ぎた感は否めない。


 ある意味人生最初の収穫祭みたいなものなので、ある程度満喫したら戻ろう。

 来年からはほら、もうちょっとこう、見る物絞れると思うんだよね。

 ディットさんという保護者がいるようなものだし、ヤバそうなところに突撃しなきゃ大丈夫でしょ。酔っ払いとかあからさまに面倒そうなのがいる所とかに行ったりしなきゃへーきへーき。



 ……そう、多分私は浮かれていた。

 お祭りの雰囲気に完全に飲まれていた。


 普段の私ならそろそろ疲れてきたしもう帰ろうかな、で家に帰ってただろうはずなのに、何か色々浮かれていた。



 そしてうっかり出向いた先で――



「……リタはなぁ、凄腕の薬師だったよ……なんで逝っちまったんだろうなぁ……」

「はぁ……寿命ですね」


 私とディットさんはゲヘノムさんに捕まり、なんでか思い出話を聞かされていた。


 酔っ払いにマジレスとか超絶無意味っぽいけど、ところがどっこいゲヘノムさんは困った事に素面である。

 酒場、というか酒を提供してるビアガーデンみたいになってるところでこの男、よりにもよってホットミルク頼んでましたね。

 最初はこう、ヨーグルトリキュールとかそういう系統のお酒でも飲んでるのかな? って思ったけど普通にホットミルクだった。最初は何の冗談かと思ったよね。


 いや、あの、酒場でママのミルクでも飲んでな、みたいなさ、三下が煽る感じのシーンとかは割とよく見かけるけど、そういうの無しに普通にホットミルク頼んでる人とか滅多にいなくない?

 酒場以外の場所でなら別に何とも思わないんだけど、今現在いるここは、昼間は露店がそこそこあったけど早々に店仕舞いされて開けたスペースとなっている。そしてそこに展開されたビアガーデンっぽいもの。

 いくつかのお店があって、そこで色々なお酒を提供している。


 勿論お酒以外の飲み物もあるみたいだけど、現状ちらっと見まわした限りではここにいる大半の人たちは当然とばかりにお酒を飲んでるわけで。


 偏見を承知で言うけど、ゲヘノムさんとか見た目だけなら何かとんでもなくお酒強そうなんだよね。それこそウォッカとか水みたいに飲んでそうなイメージ。だからこそ余計にホットミルク飲んでるっていうのが衝撃的というかなんというか……


 よーしお兄さんがお前らの分も奢ってやるぞー、とか言いながらこっちが断る間もなく注文しちゃったせいで、立ち去るタイミングを見事に逃した私とディットさんは、とりあえず少しだけなら付き合うか……という気持ちでゲヘノムさんの話を聞いていたわけだが。

 出てきた話題がリタさんについてだったというわけだ。


 そういやゲヘノムさんてリタさんの知り合いだったんだよなぁ、と今更のように思い出した。

 マッシュルームベア討伐の前に店に訪ねてきていたことを、今の今までつるっと忘れてたわ。


 ゲヘノムさんの口から語られるリタさんは、例えリタさんの事を知らない人が聞いても凄腕の薬師だったんだな、というのがわかるものばかりで。

 そこだけ聞けば確かにリタさんが亡くなってしまったのは何というか……大いなる損失、という感じである。


 まぁ本人割と寿命が近づいてるの把握してたんじゃないかなって感じで結構あっさり逝っちゃったけど。


 たった一年程とはいえ一緒に住んでた私も結構悲しかったりしたので、それ以上に付き合いがあっただろう人からすればもっと悲しんでいても別におかしな話じゃない。


 ……その割にリタさんの口から他の人の話ってほとんど聞いた事ないんだけども。おばあさんの事くらいかな。私と共通の人物ってなったらそりゃまぁおばあさんの話くらいしかできそうにないのはそうだけど。


「坊主はそういやリタの弟子だったな……どうやって弟子になったんだよ。リタの弟子になりたいって奴はそれこそ結構いたんだぜ……? まぁリタ本人が一切受け入れなかったけどな」

 かくいう俺もその一人なんだけどなぁ……なんて言ってる。

 え、これ、弟子になった理由言わないと解放されない感じのやつ……?


「しいて言うなら」

「しいて言うなら?」

「コネです」


 リタさんの友人だったらしいおばあさん経由なので、ぶっちゃければコネに尽きる。

 だからこそそう答えたら、ゲヘノムさんは何言ってんだお前? みたいな顔をしていたけれど。


 事実なんだよね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ