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一体どうしろと  作者: 猫宮蒼
一章 自衛のために好感度とかもっとわかりやすくしてほしい

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対象年齢考えるとかくれんぼはないな



 路地裏に入る前から人通りの少ないところだったので、更に人の気配が遠のいた気がした。

 建物の陰になってるせいか、路地裏は薄暗い。

 店が並ぶ大通りに比べるとさっきまでいたところはそこまで人がいなかったとはいえ、それでも離れた場所から賑わう声は聞こえていた。

 けれども路地裏に入った途端、なんだか一切の物音が消えてしまったかのようにしんと静まり返っている。


 例えばホラーゲームとかでBGMが流れてたのにマップを切り替えた途端一切の物音が消えたような……そんな不穏な何かを感じる。

 ゲームだったらとりあえず一度引き返して、あ、音が消えたのは演出とかここだけ無音のマップなんだな、みたいに確認するけど、ここで一度引き返して、あ、やっぱり路地裏って静かなんだな、とか確認するつもりはない。


 普段はそもそも行く事もない路地裏。例えば近道するのにここを突っ切ります、みたいなのがあればいいが、下手したら行き止まりになってるところもあるせいか、路地裏には浮浪者が住み着いていたりすることもあるのだとか。

 ……花祭りとか星祭りの時に出た不審者の一部はそういった浮浪者も混じっていたのでは……?

 いやでも私が捕まえたのに関してはそういった……住所不定無職、風呂もロクに入れません、みたいなのはいなかったな……一応それなりに身綺麗と言えなくもなかった。

 少なくとも、悪臭漂わない程度には風呂に入れる環境で、ついでに言うなら髪やひげを整える環境にあったと言えるだろう人たちだった。

 家に忍び込もう、みたいなところさえ目撃しなければ、それこそ普通にそこらの道ですれ違ったりしてもあいつ怪しい……! とは思わなかったと思えるようなのだった。

 私以外の人たちが捕まえたのは知らんけど。


 建物と建物の距離が近く、道も狭いせいで圧迫感がある。向こうから誰かきたらすれ違うのにお互いどちらかの壁際ギリギリまで身を寄せないといけないかも。普通体型ならそれでどうにかなると思うけど、万一すれ違う相手がとても太っていたら壁というか建物ギリギリにくっつくように避けても通れるかどうか……


 圧迫感と、風の通りもあまりないからか、妙にじっとりしている気がする。


 なんだろう、この……何とも言えない生温い感じ。

 じっとり汗が吹き出てきそうな蒸し暑さ……

 前世の夏に似ている気がする。

 暑さだけならまだしも湿度のせいでサウナか? と言いたくなるような蒸し暑さだった前世の夏。

 油断してると熱中症で倒れる程度ならまだしも最悪命を落としかねなかった夏。


 流石にそこまで酷くはないが、何と言うか似た感じはする。

 実際私の後ろにいるディットさんをちらりと振り返ると、何となく不快感がある、というのが表情に出ていた。


 私が先を進んでいるのは、結界を張ってるからだ。

 万一背後から何かがやって来ても大丈夫なように、私とディットさん二人を包むように結界を展開させている。

 私が背後にいた状態で結界を張ってもいいんだけど、その場合前で何かがあってもすぐさま対処できる気がしない。背後から何か来た場合はとりあえず結界が一度それを防ぐだろうし、次にディットさんが対応する。そこから私も結界で殴るかどうかを決める事ができる。

 背後から何かがやってくる、ましてや私たちを襲う、という展開はないんじゃないかなぁ、とは思うけど人の少ない所に行った奴から身ぐるみはがそうと考える犯罪者がいないとも限らないので油断はできない。

 ちなみに前方から何かが来た場合はそのまま私が結界で対応するだけだ。最悪そのまま結界で押し倒すようにして倒したそいつを踏み越えていけばいいだけだからね。


 進行方向的に視界を塞ぎたくないっていうのもある。

 ディットさんの方が背が高いので、前方で何かあった場合、何があったのかを私が把握するまでに時間がかかると思ったから、っていうのもあって私が先導する事にしたのである。


 いや……これがマトハルさんとかカイルさんとかルーウェンさんなら前任せたんだけどね。

 ディットさんはほら、弱いというわけじゃないとは思うんだけどいかんせん黒コフのせいで腕がとれかけたという一件のせいでちょっとこう……それなら私が前面に出た方がマシかなっていうね……



 ともあれ、薄暗く、人の気配なんてこれっぽっちもなく、じっとりとした不快極まりない場所を私とディットさんは黙々と進んでいく。

 ヴィンセントさんの名を呼ぶべきか悩んだけれど、結局私もディットさんも何も言わないままだった。

 いや……なんていうか下手に何か口に出したら、途端に何かが襲ってくるんじゃないか……? みたいなね?

 いやないとは思うんだけど、妙なホラーみがあるんだよね……?


 正直襲い掛かってこられた方がそいつ返り討ちにして口割らせればいいか、って気がしなくもないんだけど、襲い掛かってきたのがヴィンセントさんだった場合どうしたものか、ってなっちゃうからね。



 犯罪者相手だったとしても、どのみちそいつ引きずって自警団か騎士団に引き渡さないといけないから、というのもある。

 お祭りの日なんだから純粋に楽しんで終わりたいという気持ちがないわけじゃないんだ。そりゃあ、見回りもしてるとはいえ。

 けど見回ってるから犯罪者が出てもオッケーとかそういう理屈ではない。


 進んでいくうちに、通路が分かれているのが見えた。

 この辺り私あんまり来ないというかそもそも路地裏に足を踏み入れないから、詳しくないんだよね。ディットさん……も今ちらっと振り返って見たとこあんま詳しくなさそう。

 まぁディットさんはね、下手に人の少ない場所にいったらディットさんとどうにかなりたい挙句なりふり構ってられない系の女性に襲われたりしそうだもんね。

 ……私の中のディットさん完全に攫われるプリンセス系のやつでは……?


 とりあえず二つに分かれた通路の右へ行く事にした。

 理由は特にない。勘だ。

 左側と比べるとより建物の陰になってるせいで更に暗く感じる。昼間でこれなら夜はどうなっちゃうんだ。こんなところで猫と遭遇したら絶対お目目光ってるやつじゃん……というか目だけ光ってて身体部分がよく見えなくてビックリするやつだぞ……


 暗いから、というのもあったからか、ディットさんはどうやら無音詠唱していたらしく、少ししてから少し前の方に光の玉が浮かび上がった。

 目にきつくなく、優しく周囲を照らす光に私はじっと通路の先を凝視する。

 暗いから何ともいえないけど、多分行き止まりっぽい。

 通路の先が塀だとかで塞がってる、とかならまだしも、何だかわからない荷物で塞がっていた。

 ゴミ箱のような何かも見えるので、恐らくは近くの建物の誰かが置いたやつの近くに、他の人たちも便乗していらない物を捨てたとか、はたまた浮浪者が持ち込んできた物が集まってる……んだと思う。

 生ごみとかはないみたいで、悪臭はしてないのが救い。


 そのなんだかごちゃごちゃしてる所をディットさんが魔法で出した光の玉が照らしている。

 そしてそこで、かすかに動く影。


 ……どうやらさっきの分かれ道選択は正解を選んだらしい。


 結界を維持したまま私はそこへと近づいて、そっとその名を呼んでみた。


「……ヴィンセントさん……?」


 名が呼ばれた事にか、それとも別の意味でか影はびくりと一度大きく身じろぎし、しかしその呼んだ声が思っていたものとは違う事に少し遅れて気付いたのだろう。


 物陰からそっと窺うように顔だけ出して、ヴィンセントさんは私を見るとまだどこか警戒した様子ではあったけれど、それでも僅かに息を吐いた。


「……お前か……驚かせるなよ」

「何してるんですか、こんなところで」


 これがお子様であったなら、かくれんぼですか? とか聞けたけどヴィンセントさんの年齢を考えると今更童心に戻ってそんな遊びに興じる事もないだろう。仮に、もし実際童心に……なんてのが事実だったとして、わざわざ収穫祭という日にやるかな? とも思える。


 収穫祭という日にたまたま非番になって、普段ロクに顔を合わせられない友人と出会って、その流れで……うーん、ありそうではあるけれどどうだろうなぁ……普通にお祭り楽しんでお酒飲んでほろ酔い気分でまたなー、って感じでお別れしてお家に帰るとかのがよっぽどありそう。


 そういう流れにならない場合を無理矢理考えてみるけれど、例えば売られてる商品を買うだけのお金の持ち合わせがなく、しかし暇を持て余している……とかだろうか。そうしたらお金のかからない遊びとなって、幼い頃に遊んだあれこれ……って流れになってもまぁ、わからなくもないような……?


 でもヴィンセントさんがそもそもお金持ってないって事ある?

 私ヴィンセントさんの経済状況はそこまで詳しく把握してないけど、貴族の家でしょ?

 勿論貴族が全員お金持ちってわけじゃないとは思うけど、貧乏貴族であったとしても今日明日食べる物にも困ってる、とかではないと思うんだよね。庶民の貧乏は割とそういうギリッギリな家もあったりするけど。

 なおかつヴィンセントさんは騎士団所属だ。お給料とかそこそこもらってるはず。にもかかわらずお金がない、となると何だ……女か? ギャンブルか? でもルーウェンさんからヴィンセントさんの話をちらっと聞いた限りではそういうので身を崩すタイプじゃなさそうだしなぁ。


 ヴィンセントさんがどうしてこんなところで隠れてるんだろうか……? という疑問を解消させるには、本人の口からというのが一番手っ取り早い。けれども当の本人でもあるヴィンセントさんは私の顔をぽかんとした表情のまま見ているだけで、教えてくれそうにない。

 物陰に隠れてしゃがみこんでるのもあってこうして見るとなんだか迷子の子を発見したような気持ちになってくるが……ヴィンセントさんは私より年上だよなぁ。今は視線が私より下になってるとはいえ、隠れてるところから出てきて立ち上がれば私の身長を余裕で超えるわけだし。


「ここに来るまでに誰かと会ったか……?」

 視線を巡らせようとしたらしいヴィンセントさんだが、ディットさんの出した光の玉の位置が悪かったのか眩しそうに目を細める。

「いえ、誰も。さっき路地裏に駆け込んでったヴィンセントさんを見かけて、何かあったのかと思って来ただけです」

 私がそう言えばあからさまにホッとした息を吐かれた。だがしかし、直後に響く重い足音にヴィンセントさんの表情は一瞬で強張った。

 何事かと思って振り返れば……


「マーイスイートハーニー♪ やぁっとみつけたわよ~ん」


 どすんどすんという足音とともに、明らかな武闘派です、みたいな見た目のゴッツイ男がそんな事を言いながら駆け寄ってくるところだった。

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