収穫祭
さて、そんなこんなで収穫祭当日である。
前日の飾りつけとかは他の人たちが張り切ってやってたっぽいのでそっちは私ノータッチです。
というかリース作りに参加していたギルダーさんたちは大体ノータッチだったかな。
まぁせっせと作った挙句更に飾りつけもとなると中々に重労働になるからね……家のドアの部分に飾るだけ、とかならまだしも、ホント街の色んなところに飾られてるからそりゃこれだけ飾るとなれば作る人と飾る人にわけないとやってらんないわ。
作った上でこれは絶対この場所に飾るんだ! っていう拘りのある人もいるかもしれないけど、全部を飾るとなるとやっぱ重労働だよなぁこれ……
普段のウルガモットとは装いが大分異なってるのを眺めながら、人の波をすり抜けるように移動して私は早速立ち並ぶ屋台を見ていた。ふぉおおお……!! 花祭りの時も中々に美味しそうな食べ物が並ぶ屋台が多かったけど、収穫祭はそれ以上……ッ! 何から食べようかめちゃんこ悩むな……!!
とはいえ胃には限界というものがあるわけで。
目についたのを手当たり次第に、とはいかないので何を食べるかをしっかり決めないと後半食べたいものがあるのにもうお腹いっぱいで無理……ってなりそう。
でもなんか美味しそうな匂いがそこかしこから漂ってるからなぁ……!!
保存食関係なら家に持ち帰るのも有りだけど、そうじゃないのも一杯あるし。
ついでに冬用の防寒具も少し揃えておきたい。
リタさんが生きてた頃に使ってたやつ、手袋はちょっと薄くなっちゃってるからそれは確実に買っておきたい。指先薄くなってて何かの拍子に穴開くんじゃないかって気がするんだよね。
最初から穴が開いてるタイプの手袋ならともかく、そうじゃないのは流石にちょっと。
マフラーは問題ないとして、あとはコートとかも地味に新調したい。コートはおばあさんと暮らしてた村にいた時から冬の間使ってたものだけど、少し大きめサイズのものをおばあさんに用意してもらったとはいえ流石にそろそろサイズが厳しくなりつつある。昔はぶかぶかだ~とか言ってたのにね……成長したなぁ。
食べ物も気になるけど先に防寒具買って一度家に戻って荷物置いてからの方がいいかな、と思ったのでまずは誘惑を振り切りつつ防寒具が売られているであろう所まで移動する。食べ物が並んでる屋台があった所と比べると人はまだそこまで多くない。
なのでじっくりと見る事ができた。
「おや? エルテ……?」
あ、これ良さそう、と思って早速手袋を購入した矢先に知った声が聞こえてそちらへ視線を向ける。
「あ、ディットさん」
「冬支度ですか」
「はい、手袋と……あとはコートを」
思い返せば去年は冬でもあまり外に出る事なかったからどうにかなってたけど、今年は流石にそうもいかないだろうと思うんだよね。
ギルドの手伝いとかあるし。
薬屋に関してはある程度この時期売れる商品の在庫もきっちり準備してあるから、精々冬の間に採取できる素材集めを頑張るくらいだと思うんだけど、冬になると街の外の動物や魔物からすれば餌がとれなくなるわけで。
冬眠するものもいるみたいだけど、そうじゃないのも勿論いて、だからこそ冬場に外に出るのは中々に危険なのだとか。
去年はほとんど外に出る事なくリタさんの身の回りの世話ばかりだったけど、その後リタさんも亡くなったしそれ関係で色々と慌ただしくしてたからマジでほとんど外に出るような事はなかった。家の外に出る事はあっても街の外に出る事はなかった。そうしてようやく落ち着いたかな、と思った頃には自分のこの先どうするか、で悩んでたし。
そうしてとりあえず薬屋継続するか、って決めたころには春が近づいてたもんな。
だから去年から地味にサイズが小さくなりつつあったコートであっても、去年はそこまで困らなかった。ロクに外でなかったわけだし。
しかし流石に今年は違う。寒いからギルドにもいきません、とはいかない。
凶暴化してる魔物を放置しておくのも最終的に街の治安に関わるし、そうなると討伐に出るギルダーさんはそれなりにいるはずだ。
怪我だってするだろうし、であれば治癒魔法が必要になるだろう。いやまぁ、どうしても私が外せない用事があって、とかなら事前に傷薬とか置いていくってのも考えたけど。
でも薬は薬である程度使ったら再度納品しないといけないし、そうなると作らないといけないわけで。
材料を集めたり作って届けたり、を考えると素直にギルドに足運んで治癒魔法使う方が楽なんだよね。
流石に人前に何度も出るのがわかりきっててサイズが小さくなって見ててなんとなくうわぁ……って思われそうなコートで外出するのもね……まだ幼いうちなら「あっ、新しいの用意する前に成長しちゃったんだな」とか思えるけど私もう成長期って言える感じでもないから……
「コートならあっちにあるお店の方でいいのありましたよ」
「ホントですか?」
このあたりは手袋とか帽子とかマフラーといった小物系だったから、もうちょっと奥の方へ行く必要があるんだろうな~とは思ってたけどディットさんは既にそっちを見てきたらしく、案内しますよと言ってくれた。
自分でじっくり見て回るのもいいけど、生憎この後食べ物関係の店を見て回るというのが控えてるのであまり余分な時間を使いたくない。
これ幸いとばかりにディットさんに案内されて私はそのコートが売ってるお店へと移動したのである。
コートだとかの着るタイプの防寒具が売られているお店は、なんというかめちゃんこあった。
ずらっと並ぶこの収穫祭のためだけに開かれた露店だとか屋台だとかの一画を占めているといってもいいくらいあった。
とはいえ、よくよく見れば子供向けとか、大人用であっても女性用男性用と分かれていたり。
これ、ディットさんに案内されないまま来てたら適当にすっ飛ばした結果その見てない部分にお探しの品がありました、なんてオチになりそう……って思って最初からじっくり見ていって結局無駄に時間を消費する流れになっててもおかしくなかったな。
本来の自分を基準にするなら女性用コートがいいんだろうけど、いかんせん私少年だと思われてるからなぁ。
今更性別カミングアウトするにしても、何かこう……タイミングが掴めない。
あとほら、やっぱり面倒ごとが舞い込んできそうな気もするし……
ギルダーとしてとかじゃなくて、どっちかっていうと薬屋の方とか。
ギルダーとして、の面倒だとか厄介ごともある程度想像したけど、薬屋やってるのが一人の少女です、とか明らか面倒な犯罪者に狙われそう。
リタさんが死んだ直後とかではそこまで思ってなかったけど、ギルドのお手伝いとして花祭りとか星祭りとかの見回り警備に参加した時にそりゃもう大量に現れた不審者だとかの数を思い返すと、女、それもまだ若いのがたった一人で店を経営しているとかさ、強盗とか押し込めそうな感じするじゃん?
ガチムチのマッチョな店主が一人で店をやってる、ってところとろくすっぽ戦えそうにない少女が一人でお店やってる、ってところならどっちに強盗に行くかって聞かれたら間違いなく後者だと思うよ。
例えそのガチムチマッチョがノミの心臓で超絶ビビりだったとしても、そこまで知らないなら見た目で判断するのが大半なわけだし。
少女が一人、よりは少年が一人で店やってる、の方がまだマシに思えてくる。
もーちょい知名度が上がればまた違ってくるとは思うんだけどさ。
こう……騎士団などで犯罪者から情報吐かせるための尋問などの手伝いもしている少女、ってなったら少年より何かヤバさが際立つ気がする。
しかしそれはそれで世間体に響くのでそういった方向での知名度を上げようとは思っていない。
ともあれ、あまりガッツリ男性物、という感じのしない、男女どっちでもいけそうな気がするデザインのコートを買う事にした。
ディットさんがこれとかどうです? って勧めてきたやつが中々にいい感じだったんだ。デザインとか機能性とかお値段とか。
うむ、とてもいい買い物をした。
あ、そういや靴も見ておきたいな、なんて呟けばディットさんは靴ならそっちですね、とか言いつつ案内してくれた。
有難いけどいいんだろうか……ディットさんが率先して案内してくれてるとはいえ、傍から見たらこれ貴族をパシってるように見えんか?
貴族のお家って立場とか面子とかそういうの結構気にしたりするって聞いた気がするし、そうなるとこれ大丈夫? という疑問が絶えない。
思わずそっと問いかければ、ディットさんは問題ないですと即答してくれたけども。
ホントか? ホントにか!?
まぁ……ここでやたらと疑っても本人がそう言うのであればこれ以上はどうにもならないだろうし、あまり気にしすぎないようにした方がいいんだろうなぁ……
「そういえばディットさんも何か買いに来たんじゃないんですか?」
黙ってても何となく私だけが勝手に気まずくなってるので、とりあえず思った事を口に出した。
冬用の防寒具を買いに来た先で遭遇したわけだし、ディットさんも何か買いに来たんだろうか、と思ったもののその手には一切の荷物がない。単なる冷やかしか、それとも見回りをしていただけなのかもしれない。
「買いに来た、というよりはただ見ていた、が正しいかな」
「冷やかしですか」
「はは、そうとも言うね」
先導していたために私より少し先を歩いていたディットさんだが、こっちに振り返ってとても爽やかな笑みを振りまく。キラッキラなエフェクトが見えた気がした。
本来なら冷やかしなんて迷惑だと思われそうだけど、いかんせんそれやってるのがディットさんだ。
ちょっとお店の商品をじっと見てるだけで、あらこれ素敵! なんて思ったお嬢さんたちがその店に集まったりするんだろう。
というか、実際さっきまでそんな感じだったからね。
私がディットさんにお勧めされたコートを買った店とか、これとかこの辺が良いと思いますよ、とか言ってたんだけど、私が選んだ後でそれ以外のやつを他のお嬢さんが速やかに購入してたし。私と体格がそこまでかけ離れてないお嬢さんだったので、彼女もあのコートは丁度良い感じだろう。
お祭りという事もあって周囲は人が多いけど、思ったよりもディットさんの周辺に人が群がるという事はなかった。まぁ、ディットさんもウルガモットで暮らして何年目よ、って話だし、いい加減ディットさんのファンクラブにでも入ってそうなお嬢さんたちにもある程度ディットさんを眺める時のルールみたいなのがあるんだろう、多分。
無事に靴も購入して、一度買った物を置いてくる事にした。
ディットさんもそのままついてきて、荷物を置いて身軽になった私とそのまま収穫祭を見て回る事にしたようだ。
恐らくファンクラブだろうお嬢さんたちならともかく、他所からやってきた旅人さんとかはディットさんに関わる際のルールとか知らないから、一人だと絡まれる事もあるのかもしれない、と思う事にしておいた。
他に連れがいるなら……あ、いや、どうだろ。そんなちんちくりん置いて一緒に行きましょ! とかいうパターンはあり得るぞ……?
まぁ、パトロールするなら一人よりは他に一緒に誰かいた方がいいので、私もそのままディットさんと収穫祭を見て回る事にした。
ところでディットさんは、屋台を全制覇するぞ! みたいな事やり始めたら一緒に参加してくれるだろうか……?




