そこは経験の差
マーカーに関してだけど。
正直ホント、使いどころが限られているものだと私は思っている。
私みたいに治癒魔法陣を使うのにその魔法陣が治癒魔法を発動させる対象者に打ち込む、というのであれば別に何も困る事はない。
事前にこの人たちが対象者です、みたいに触れてマーカーを打ち込む事ができれば何にも問題ないからだ。
例えば途中参加してきて新たにパーティーメンバー入りしました、みたいな人がいたとしても、そちらにも打ち込む事が出来れば問題ないし、そうでなければ直接治癒魔法を発動させられればやはり問題はないわけだ。
治癒魔法陣がある程度効果を発揮して力を使い切って消えても、新たに追加で出せばこれも問題はない。それこそ、私の魔力が尽きるまでは延々治癒魔法を広範囲発動できる状態にあるわけだ。
ついでにもし途中で実はこいつ裏切り者でした、みたいな展開になったとして。
その場合はその人のマーカーだけを消せば済む話。裏切ったと見せかけて実は裏切ってませんでしたパターンだとまぁ、ちょっと困るけど、その時は再度またマーカーを打ち込めばいい。
けれどそれ以外。
攻撃魔法の場合はちょっと使いどころが限られてくる。
マーカーを打ち込まないといけないわけだけど、例えば魔物退治の際、魔物相手にマーカーを打ち込むとなると途端に難易度が上がるのは言うまでもないわけだ。
ただマーカーを打ち込むために触れるにしても、敵認定している相手の接近を魔物がそう簡単に許すはずがない。不用意に接近すれば攻撃を食らうのは明白。
なので敵にマーカーを打ち込んで、という使い方は正直あまりお勧めできない。
例えば戦うのが一人だけ、というのであればまだしも複数の仲間と共に戦うのであれば、マーカーをちまちま打ち込んでいても全部にマーカー打ち込み終わった、なんて頃には最初の方で打ち込んだ魔物を倒してしまっている可能性もある。
そうなると折角マーカーを打ち込んだとしても、魔力を少量とはいえ無駄に消費しただけで終わる。
酷い時だとマーカー打ち込み終わる頃にはほとんど戦闘が終了しかけていた、なんて事にもなり得てしまう。
そう、例えば私が攻撃魔法を使えたと仮定して。
魔物にマーカー打ち込もうとしてるとしましょう。
同行者がマトハルさんなら打ち込み終わる頃にはもう終わってるよね戦闘。確実に。
無駄に危険を冒してマーカー打ち込んでもその頃には大体終了してるってそれ、素直に大人しく隅っこの方でガタガタ震えてろよって話になっちゃうわけで。
同行者が仮にマトハルさん以外の人だったとしても、結果としては似たような事になると思うんだよね。
そうならない場合って、自分よりももっと実力がへっぽこな人になるんだけど……じゃあその場合、マーカー打ち込む余裕があるかって言われたらまず無いと思う。むしろその人たちと一緒に逃げた方が確実というか。
なのでこの場合もマーカーを打ち込むのは魔物ではなく味方に打ち込んで、マーカーがある人には攻撃魔法を無効化する、みたいにした方がいい。それなら仲間に事前にマーカーを打ち込んでおけるし、乱戦になっても気兼ねなく攻撃魔法をぶっぱできる。
とはいえ、周囲に影響を及ぼすくらいの威力なら無傷と言うわけにもいかない気がする。
炎の魔法で周囲を焼き尽くしたとして。
マーカー有りの人たちが直接炎に焼かれる事はないとしても。
周囲の何かに炎が燃え広がったりしたらその熱で、って事にはなる可能性が高いんだよね。
直接は焼かなくても間接的に焼く事は可能だと思われ。
これも例えばだけど、メルドーラで洞窟破壊した時みたいな感じで何らかの物質を破壊しようと試みたとして。
火精霊の息吹みたいなアイテムがなくて、魔法でやる、という時に事前にマーカーを打ち込んでおけば、魔法が発動した直後にすぐさま巻き込まれるという事は回避できると思う。
まぁ、その場でぼーっとしてたら破壊した何かの破片だとかが降り注ぐだとか、二次災害的に爆発してそれに巻き込まれるとかいう状況は充分にあり得るわけなんだけど。
ただ、最初の魔法の威力が凄くてもそれに関しては影響を受けないのであれば、脱出する時間稼ぎにはなるんじゃないかなぁ……でも使いどころがとても限られてるとしか思えない。
それならいっそ、最初からここを戦場とする、みたいなところに仕掛けとしてマーカー打ち込んだ方が使い道ありそうな気がする。
こう、杭みたいなの打ち込んでそのマーカー付近に近づいた人に容赦なくバリバリーって攻撃魔法が、的な。
普通の街道でそれやっちゃうと無差別すぎて旅人とか行商人とか一切の人が寄りつけなくなるから、例えばどこかの町や村への封鎖とかにも使えるとは思うけど、やり方次第では下手したら暴動起きるよね。
崩壊の危険があってこの先に近づいてはいけませんよ、っていう立て札とかあるにも関わらず先に行こうとした奴がそのマーカー有りのオブジェに近づいた、とかなら攻撃魔法の洗礼を受けても自業自得な気はするけど、そういうお知らせも何もない場所でいきなり近づいただけで攻撃魔法が発動するようなのがあったら、色んな意味で問題しかないからね。
まぁ、場所にマーカー打ち込むにしても、ずーっとは無理だと思っている。
マーカーそのものに使う魔力はとても少ないけど、だからってずーっとそれ発動しっぱなしはキツイと思うし。
だから例えば時間制限有りで罠を仕掛けるとかそういうのであればもうちょっと活用できるんじゃないかな、なんて攻撃魔法とマーカーを絡める場合のあれこれをルーウェンさんに言えば、成程なと頷いてくれた。
魔物討伐の時に役に立たせるにはちょっと考えて使わないといけない感じかな。
けれどそれでも上手く使いこなせれば便利な事は便利だと思う。
使いこなせれば。
名声とかはどうでもいいけど、でも多分魔法を扱う貴族だとか研究者だとか、そういったところにとってはある程度必要なんだろうな、と漠然と想像はできる。
わざわざ私に許可を取りにきたルーウェンさんに、私もまたどうぞどうぞと譲るのは全く構わないんだけど、発表したはいいけど、周囲が全然このマーカーについての意味を見出せませんでした、とかってなった場合、逆に役にも立たないものを開発した無駄な家、みたいな評価を出されたりしないだろうか。
私としてはそっちの方が心配。
何かこう……家の名を貶めた、みたいな感じにならない? 大丈夫?
そういう感じで聞いてみれば、ルーウェンさんはふ、と小さく笑った。
「問題はない。その場合、使いこなせない奴が無能という烙印を押される事の方が多いからな。それにこれは……充分役に立つものだ。
だからこそ、発表が済めば礼は必ず」
「はぁ……」
私的には治癒魔法に活用できてるけど、それ以外の使い道って他に何かある? 今つらつらーっとあげた中でもそこまで役立つ感じしないんだけど? という思いしかないので、ルーウェンさんがこうもきっぱり言い切るとは思わなくて、つい気の抜けた返事しかできなかった。
そこまで言うなら……という事で私はルーウェンさんにマーカー発動時の詠唱を教えておく。
基本私無詠唱だからね。そうでなくても無音詠唱だとかで詠唱なんて耳にする機会はない。詠唱をあえてやっているのは、魔法を習い始めたばかりの人くらいではないだろうか。あと魔物と戦うだとかの荒事とは無関係の生活に活用するタイプの魔法を使う人とか。
それなら詠唱聞かれても問題ないし。
けど、発表するのであれば、詠唱を知らないというのは流石にマズイわけだ。
詠唱知らないけどこういうのがあります、は発表というよりただの世間話で終わってしまう。
なのでルーウェンさんにも詠唱こういうやつです、と唱えてみせると、意外と短いんだな、と呆れなのか感心なのかよくわからない反応をされた。
マーカー打ち込むのだって一つ一つだからね。それなのに詠唱が長かったら……ねぇ?
大勢の人にマーカー打ち込む時とかどんだけ時間がかかる事やら……って話ですよ。
この前のマッシュルームベア討伐の時みたいに事前に一人一人マーカー打ち込むような状況ならいざ知らず、切羽詰まって急いでる状況で長々詠唱に時間とられてたら、そんな事してる間にピンチになってました、なんて事にだってなりかねない。
だからこそマーカーは極力短い詠唱で発動するように色々と考えた。
とはいえ、消費魔力も少ないし、詠唱も短いからって調子に乗って大勢にマーカー打ち込んだりして、いざという時肝心の魔法の方が魔力不足で発動できませんでした、なんて事になったら本末転倒だけど。
何か誰か一人くらいは調子に乗ってやらかしそうな気がするなぁ……とは思っている。
とはいえ、流石にそこまで私は責任とれないので知らん。
ところでそんな会話をしながらも手は動かしてたんだけどさ。
私が一つリースを作る間にルーウェンさん三つくらい作ってるんですよ……一体どういう事なんですかね……?




