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一体どうしろと  作者: 猫宮蒼
序章 難易度選択にイージーがない時点で人生はクソ
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疑いだしたらキリがないのはわかってる



 結論から言おう。

 特に問題なかった!!


 引ったくりの持っていたナイフ、それもこちら目掛けて振り下ろそうなんてしていたところへ的確に石ぶつけてナイフ弾き落すなんていう芸当してのけたのは、私がプレイしていた時点では仲間キャラの一人でもあったカイル。

 カイル・ルードだ。


 外見的にも間違いない。

 青、って言ったら知り合いにインディゴって訂正された髪の色も、ちょっと深い色合いの緑、って言ったらエバーグリーンって訂正された目の色もばっちり一致している。

 がっしりとした筋肉の付いた体格。腕の太さとか私と比べると倍以上ありそう……いやそりゃ剣ぶん回してるならそれなりに筋肉もつくだろうけれども。


 主人公が通っていた学校の剣術科にかつて所属し、卒業後はギルドに入ったとかいう経歴の持ち主だ。

 主人公の仲間になる剣術科の生徒、フレッドの先輩にあたる。


 頼れる兄貴分、みたいな感じだったとは思うんだけど……でも私の知らない設定がいつの間にかにょっきり生えてないとも言い切れないし、実は引ったくりとグルだった、なんてオチが出てきたとしてもおかしくないぞだってあの知り合いの作ったゲームは大体裏切られる、と思っていたのだけど、何の問題もなく彼はギルドに所属している人だった。


 そう、カイルに関しては何も問題がなかったのである。


 問題は……遅れてやってきた。


 引ったくり、と叫んだ女性は荷物を盗られた被害者だったのだろう。鞄を奪われ突き飛ばされたか何かして、足を挫いたらしいその人は、中性的な青年に抱えられる形でやって来て、カイルが拾った鞄を受け取っていた。


 鞄が戻ってきた事よりも、むしろ宝塚にでもいそうな雰囲気の青年に抱きかかえられているという事実にそれどころではないのか、ややぼうっとした様子ではあったものの、まぁ、気持ちはわからないでもない。

 顔面偏差値が高い人が至近距離にいたら視線どこ向けていいのか困るよね。いやまぁ、女の人は割と顔面直視してたけど。


 更にその後ろからこちらも顔立ちの整った男性が一人やって来る。

 青年もそうだけど、こちらも何ていうか、軍服というほどカッチリしてないけどそれに近い感じの服装だ。雰囲気からして貴族ですとか言われても納得しそう。


 結界に突っ込んで勝手に自滅したも同然な男はカイルが手早く縄で捕縛したので、強引に立ち上がらせて今はカイルが確保した状態だ。


 一連の流れを見ていると、どうやらカイルと後からきた男の人がひったくり犯を突き出すべく連れていくらしい。

 で、青年の方は女性を家まで送り届ける事にしたらしいのだが、女性が流石にそれは悪いですと断っている。

 けれども足を挫いているので、一人で家に帰すわけには……とちょっとした押し問答が繰り広げられていた。


「あの、治しましょうか?」

 このままだと延々と会話がループしそうな気配があったので、出すぎた真似かと思いつつも声をかける。

 私に関してはカイルが早々にひったくり犯に襲われかけていたが無事であると言われたので、既にこちらに意識は向けられていなかったのだけど、だからといってこのままここを立ち去るにはちょっとなー、と思ったわけで。


 女の人が青年になんだかんだ言いつつもお姫様抱っこで家まで送り届けてもらう事を良しとしていたら余計なお世話になるんだけど、どうやら本当に遠慮して自力で帰るつもりだったらしい女性はすさまじい速度でこちらの提案に食いついた。


 よかった、良かれと思ってやったのに余計な事して! とか言われると心折れるからな。


 女性の了承も得たのでサクッと回復魔法を発動させる。呪文の詠唱とかそういうのなくても発動できるから便利。一瞬女性の足に柔らかな緑色の光が灯ったかと思えばすぐに消える。

 消えた時点で治療は完了していた。

 これ大怪我だと中々光が消えないから、すぐに消えたって事は本当に女性の言う通りそこまで酷い怪我ってわけでもなかったらしい。でも、挫いたらそれはそれで後引く感じなので痛い事に変わりはないと思うけども。


 青年がそっと女性を下ろせば、女性は何度か確かめるようにその場で足をトントンと地面を軽く叩くように動かしてみたりして、最後にぽんと軽く跳んだ。

「治ってるわ。ありがとう!」

「いえ、大したことがなくて良かった」

「これなら一人で帰れますから、大丈夫です」

「そう、ですか。それならいいんですが。お気をつけて」


 もう一度ありがとうございました、なんてお礼を言って、女性はその足ですったかすったか軽い足取りで去っていった。うん、我ながら回復魔法の威力って凄い。湿布とかいらないもんな。


「……ところできみは、魔法科の生徒、だろうか?」

 青年にそう問われ、私は咄嗟に首を振った。

「いえ、学校には行ってません。ボクの魔法はほぼ独学です」


 男に間違われてるからとはいえ、話す時は自分の事をボク、と言うようにしてそれなりに経ってる。

 だからこそ「わ……ボクは」なんていう言いなおそうとした痕跡とかそういうものはない。


「独学? いや、ほぼ、というのは?」

 なんだか妙に食いついてきた青年に内心ちょっと引きながら、

「えぇと、ボクのお師匠様的存在の人がちょっとだけ、教えてくれたかな、みたいな」

「なんだその中途半端でどっちつかずな言い方は……」

「いやあの、その人もう死んでるし、どっちかっていうと薬の調合メインだったので……」


 魔法に関してはそもそも前世の記憶思い出した時点で使える事を自覚していた。

 思い出す以前から普通に使っていたんだと思う。それこそ、両親が基本的な部分を教えてくれていた……ような気もする。正直そこら辺あまりよく覚えてないけど。ただなんとなーくおぼろげーに覚えてるかなー? といった感じだ。


 その後、おばあさんからもちょっとだけ教わって、リタさんからもちょっとそういう系統の話題になったかな、ってだけだ。

 専門的な事は特に教わった覚えはない。


 両親に、とか言われるとどんなご両親だったんだ? みたいな話題になる可能性もあるし、正直実家の話題は出さない方がいいと思っている。

 いや、ホント、どうなってるかわかってないからさ……


 なのでそこら辺をぼかすとなると、あとはおばあさんかリタさんの話題に誘導するしかないわけで。

「魔法よりも薬の調合を……え、何で……?」


 最後の方はこっちに聞くというよりは、ついぽろっと出てしまった言葉のようだった。解せぬ、みたいな顔をしている。


「ディット、そろそろ行くぞ」

「あ、あぁ、わかりました。今行きます。

 きみには少し興味があるから、良ければ近々話がしたい。きみの都合のいい時に是非ギルドに立ち寄ってくれ」


 後からきた男に声をかけられ、ディットと呼ばれた青年は返事をしたあとで私の耳元でそんな事を囁いてきた。

 え、何。興味? なんで?

 何ていうか話を、と言った時にイヤな感じはしなかったけど、専門的な話題とかはついていけないだろうし、なんというか面倒な気配は感じられる。

 正直、面倒ごとは御免被りたいなぁ、というのが本音です。


 本来ちょっとギルドに行ってみようかなとか思ってたわけだけど、なんだかんだ男を引き渡すのにカイルさん一人で大丈夫っぽいみたいで既に彼はさっさとこの場を立ち去っているし、この二人はこれからギルドに戻るらしいしで、私のこれからの行動は急遽変更してお家へ帰る事にした。

 いやだって、このままギルド行ったら絶対そのままお話しようねコースじゃん……


 この人たちが他にお仕事あるならまだしも、そうじゃなかったら気のすむまでお話しようねコースじゃん……どう見ても身体能力的に向こうのが上だろうし、逃げられないじゃん……


 ギルドにはそのうち行くつもりではあるけど、なるべくこの人とは関わりたくないなと思ったのでちょっと数日様子見かな……


 そういうわけで私はさもこれから他に用事があります、みたいな顔をしてその場を立ち去ったのだった。


 カイルに関してはゲームにいたな、ってこっちが一方的に顔見知りだからまだいいんだけど、生憎ディットと呼ばれた人にもあの男の人にも見覚えはない。

 ゲームに出ていなかったか、顔グラもないモブだったか……いやあんな顔面偏差値高いのがモブでたまるか。

 となると、知り合いが後から追加したキャラの可能性もある。


 いや、流石にこの世界の人口全部の設定を知り合いが作ったりしてないだろうとは思うけど、それでも何かこう……流石にあれがモブって事はないわ、と思えるので。


 元々敵キャラとして用意はしてたけど使い道なかったからギルドの先輩とかそういうちょい役に転向させた、なんて可能性もある。

 下手にゲームで役割のあるキャラだといつどんな変貌を遂げるかも不明なので、極力関わりたくぬぇー……っていうのが本音なわけだ。

 勿論この世界がゲームの中だとは思っていないけれど、なんていうか所々に彼女の作ったゲームのあれこれとリンクしてそうな部分があるので油断してるといつ自分が死ぬ事になるか……


 っていう恐怖があるんだよね。


 カイルの存在的に、恐らくは本来のゲームの主人公ちゃんとか他キャラもいる可能性が出てきたけれど……それが何かの助けになるかどうかもわからない。


 というかだ。

 私がテストプレイしていたフリゲが私が死んだ後に完成したとして、サイトの作品倉庫にでもアップされたとする。

 その後、唐突に続編のインスピレーションがひょっこり湧いて出て作ろう、なんて考えていないとも限らない。


 なんというか、今の所ご時世的に不穏な何かがある、って感じでもないし、ゲーム開始時点なのか、それともエンディングを迎えた後なのかはわからないけれど、なんていうか、一作目が終わって二作目に入る前の嵐の前の静けさ的なものも感じられる。


 さっきの二人がその続編で出るメインキャラの可能性もあるわけだ。

 それを考えると……関わると、いらんフラグが乱立するのでは? と思うわけで。


 とりあえずしばらくはお家の中でおとなしくしてようかなって思うよね。流石に。

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