もしかして 主人公
黒化マッシュルームベアは死んだとはいえ流石に死体をそのままにしてはおけないので、早々に手の空いたギルダーたちがそこかしこから木材を調達してきて死体を囲むように組み立てていく。
魔法で燃やす事も可能なんだけど、いかんせん通常個体ならともかく黒化個体は防御力が並どころじゃない。死んでるとはいえその防御力は健在だろうと思えるもので、だからこそ他に燃える物を集めて火力を上げようという魂胆らしかった。
キャンプファイヤーみたいな感じで木々を組み立てていくのも随分手慣れてるなぁ、なんて思いながら見てたわ。ちょっとした焚火程度ならわからんでもないけど、ここまで大掛かりな焚火とかする事ないじゃん? って思ったものの……どうだろ、実はあるのかもしれない。
野宿とか、動物とかは火を恐れて近寄ってこないけど魔物の場合は逆に近寄ってくることもあるとは聞く。
けれど、その炎の規模が大きければ警戒して寄ってこない事もあるのかもしれない。
そう考えればまぁ、彼らがそれこそ学校の文化祭とかでの後夜祭で作るようなでっかいサイズの焚火を作り慣れていたとしてもおかしなことではないわけだ。
……いやどうだろう。自分でそう結論付けておいてなんだけど、もしかしたらおかしい事かもしれない。
まぁある程度各地を移動するようなタイプのギルダーだったらそういうのができるようになっててもおかしくないとは思う。
逆に拠点がハッキリしていてそこからほとんど離れないタイプのギルダーはどうだろう……
いや、なんだかんだ作れる人は作れるんだろうな……
アニーティカギルドの人たちも手伝ってるのを見て何となくそう思った。
黒化マッシュルームベアがこれまた結構な大きさだったのもあってその死体を囲むように組み立てられていく木も中々の量になっている。
うわぁ……これ、明らかに人の手があるってわかってるからまだいいけど、もし自然にこれだけの量の木が積み重なって挙句燃えるような事になってたら確実に森全体が大惨事レベルになってるんだろうな……
ある程度組みあがったあたりで、ルーウェンさんが魔法で火をつける。
ゴウ、と音を立てて燃え上がるそれは完全に後夜祭のキャンプファイヤーそのものだった。
いやうん、お祭り気分になりかけたけど実際は全然違うってのはわかってるんだけどね……
周囲に大勢いるのと普段見る事のない規模のでっかい焚火っていう状況がどうしてもそれを思い起こさせちゃうんだよなぁ……
「あのぅ……貴方もギルダーなんですよ、ね……?」
黒化マッシュルームベアの死体が燃え尽きるまでは油断できない。
ある程度の他の魔物も退治したらしいとはいえ、死体が残ってるうちは他の魔物がどこからともなくおびき寄せられないとも限らないので、こうして周囲にはまだ沢山のギルダーがいるわけだ。
正直もう脅威はないだろうと思うんだけど、それでも念の為という事もあって私もこの場に残っている。
今はもう治癒魔法陣は出してないけど、それでも何かあった場合にすぐに治癒魔法を使える私がいるのといないのとでは状況的にも違ってくるからだ。
それでなくとも人はいるけど武器がそろそろ使い物にならなくなりそう……って感じのギルダーもそれなりにいるからね。
一応それでも戦えなくはないけれど、万全とは言い難いので怪我をする可能性はある。
拠点としていた場所でずっと待機してたならともかく、こっち側に出てきちゃったからそのままここで待機する事にしていた。少なくとも黒化マッシュルームベアが焼却されるまでは、他の魔物がやってくる可能性が高いのはここだ。そうなると怪我人が出る可能性が高いのもここ。
それなら、ここに残っていた方がいいだろうと思ったから残っていた。まぁ、私は木を組み立てたりとかはしてないんだけど。というかやれって言われてもまず拾って持ってこれそうなのが間違いなくほっそい枝とかだ。そりゃあここに来る途中で腐り落ちたかはたまた何か――動物や魔物だとか――がぶつかったりしてへし折れてしまった太い枝とかが落ちてるのは見たけど、あれ拾って持ってくるのも中々の重労働っぽいからなぁ……
どのみち私は非戦闘員なのと、戦闘中に大体の人たちの怪我を治すという役目はしっかり果たしていたのでウルガモットギルドの皆さんから「働け」とは言われていない。
まぁね? 下手に手を出していらん怪我をする可能性を考えると大人しくしてろってなるよね。
なんて感じで見物してたら、おそるおそるといった感じで声をかけられた。
それはあのプリーザに追い掛け回されていた男女のうちの女の子の方だ。
結界で足止めさせて、そのまま他の皆でマッシュルームベアに総攻撃してたから二人を解放したのはマッシュルームベアを倒してからだ。
ちなみにプリーザに関してはアニーティカギルドの人が引き取ってくれることになった。
ちょっと前にウルガモットで牢にぶち込まれたはずのプリーザたちはいつの間にやら脱走していたけれど、どうやら最近はアニーティカで活動していたらしい。
他の二人はどうしたんだろうか、と思ったがどうにも捕まえようとしたその手前で逃げられていたのだとか。
って事は残りの二人ももしかしたらどっかその辺にいる可能性があるのか、それともアニーティカで潜伏しているかもしれないのか……
どっちにしてもプリーザが捕まってアニーティカの牢屋にでもぶち込まれたら助けにやってくるかもしれない。上手い事やれば残る二人もそれで捕まえる事ができるかもしれないけれど、どちらかというと脱獄される方が可能性としては高い。
まぁ凶悪犯じゃないのだけが救い……か?
軽犯罪を何度も繰り返すようなのが身近にいるというのもそれはそれでどうなんだろって話だけど。
「ギルダーというよりは手伝いかなぁ……」
あくまでも私は非戦闘員。治癒魔法による回復がメインだ。
「ボクはあくまでも非戦闘員だから」
そう言い切れば、彼女は「そうなんですか……」とどこか拍子抜けしたような表情を浮かべていた。
「ところでキミたちは?」
私がそう問いかければ、二人は揃ってこっそり話しかけてますよ、という感じでちょっと丸めていた背中をぴしっと伸ばす。
「あ、そうだ。わたしはエレナ。アニーティカギルドのギルダーです」
「オレはポール。同じくアニーティカギルドでギルダーやってる。
で、こいつの幼馴染だ」
その言葉に。
ピシャン、と私の背後に稲妻が落ちたような気がした。
いやだって、あまりにもなんていうかこう……
主人公みがある……!
年齢は私と同じくらい。
違ったとしても精々一つ二つくらいの違いしかないだろう、と思える。
ゲームの主人公の年齢として見るならまさしく、といった感じだ。
どっちがそうであったとしても、それっぽく見える。
いやうーん、ビジュアル的に、というか色合い的にはエレナの方がそれっぽいかなぁ……
エレナは金髪碧眼でいかにも活発そうな感じだ。お転婆、という言葉が似合いそうな感じとでも言えばいいだろうか。
対するポールは茶色い髪にオレンジ系の色合いの目と、明るいけれどどこか落ち着いた要素がある。
「わたしたち今回が初めてギルダーとしての活動だったから……」
なんて言うエレナに、ますます主人公ぽいなと思えてくる。
初めての依頼でこの討伐戦に参加した、っていうのも中々に無茶では? と思わなくもないのだが、ゲームの主人公として考えると普通にありそう、ってなるよね。
大体フリゲじゃなくても他のゲームだって初っ端から主人公がレジスタンスとして活動していきなりの負けイベ戦闘だとか、テロリスト活動しててとある施設を爆破させるだとか、はたまた何の前触れも説明もなく仲間たちと連携しつつボス戦とか、プレイヤー置いてけぼりにするような出だしは存在する。
主人公目線で見ると別にそこに至る展開はおかしくないんだけど、初見ゲームプレイヤーからすると完全にわけがわからないよ状態。
でもそれと比べるとこの二人は新米ギルダーとして活動し始めた矢先、収穫祭を脅かすかもしれない存在の魔物退治に参加……まぁ、わからんでもないな。単独でこなさないといけないような依頼ならともかく、アニーティカとウルガモットで協力するって事は他にも人が大勢いるわけだし、新米であってもある程度指示に従ってればどうにかなりそうな感じもするし。
むしろ先輩方の活躍を間近で見る事もできそうなので、色んな意味で参考になりそうなんだよね。
そうしてここから始まる様々な冒険、とか考えるととても主人公みがあるといってもいい。
「なるほどね。それで、なんであいつに追いかけられてたの?」
二人がとても主人公っぽい、という思いを流石に前面に出すわけにもいかず、至って普通に問いかける。
これがマッシュルームベアに追いかけられてたからどうにかしてウルガモット側のギルダーに任せようとして、っていうならわかるんだけど、どう思い返してもこの二人、マッシュルームベアじゃなくてプリーザに追い回されてたもんなぁ。
そのせいで「なんで?」ってなるのも仕方ないと思う。
私がそうやって聞けば、エレナとポールはどこか気まずそうにお互い視線を合わせて、大した事ではないんですけれど……と前置きしてから口を開いた。




