数の暴力の大勝利
「ふふふふふ、ははははは、はーっはっはっはほげぇっ!?」
まず私がやったのは、何かやたらとテンション高いプリーザを結界でぶん殴る事だった。
いや、実の所さっきからルーウェンさんとこれどうすればいいんですかね、みたいな話をしてる時もこいつのハイテンションな笑いが響いていてですね。
正直うるさいのなんの。
考え事をしていても纏まるものも纏まらんわ、となったのでまずは黙らせるよね。
完全に攻撃が来るなんて思ってなかっただろう予想外の方向から不可視の結界で殴られた事で、防御態勢をとるでも回避行動に移るでもなく無防備にその一撃を食らったプリーザはこっちの想像していたよりちょっとだけ勢いよく吹っ飛んで白目向いて倒れた。
そのまま外側からの攻撃を防ぐしついでに内側からも出られない結界で即座に確保する。
いや、放置でもいいかなと思ったんだけど、こっちの想像裏切って早々に復活してまたうるさくされるのもアレだし……
で、何かいきなり後ろで笑いながら追っかけてきてたおっさん……まぁ、私と同年代くらいだしだとしたらあのプリーザは実年齢が何歳であれおっさんに見えるだろうという事でおっさん呼びするけど、それが突然静かになったものだから気になったのか反射的に後ろを振り向いた二人の足を止めるべく、即座にこちらも結界で閉じ込め。
「えっ!?」
「何だッ!?」
後ろを向きつつも止まるつもりはなかったらしい二人は、しかし私の出した結界で阻まれてべちょっと結界にぶつかって止まるしかなかった。
とはいえこれも説明は後回し。
次にすぐさま黒化したマッシュルームベアも結界で動きを封じた。
とはいえ。
マッシュルームベアは全体を結界で覆ってはいない。
追いかけていた獲物が突然動きを止めたのでマッシュルームベアもまた速度を僅かに落としつつあったわけだが、その前足後足を固定するように結界で動きを止めた。
全身を結界で覆っちゃうと勢いよくぶつかって頭のキノコから胞子が出るしなぁ、と思ったのと、全身覆っちゃうと次に攻撃するにしても、前にやったような結界縮小させて圧迫死狙いっていう感じになっちゃうからね。
前足と後足を固定した事で急に動きを封じられてちょっとだけ頭のキノコから胞子がぼふっと出たけれど、それはすぐさまルーウェンさんの風魔法によって上に飛ばされていった。
動こうにもその場にガッチリ結界でロックされた状態のマッシュルームベアは、どうにか身を捩って動けるようにならないかと四苦八苦している。そして目に見えない何かにぶつかりつつも黒化したマッシュルームベアもまた動きを封じられた事に気付いた男女は「え? え……?」と事態を把握しきれていない声を上げつつも暴れるような真似はしないでその場で大人しく状況を観察していた。
下手に暴れられると面倒なのでそれはそれで助かる。
その次に私がした事は、マッシュルームベアの頭から生えてるキノコを覆うように新たな結界を作った事だった。
両手両足の動きを封じたとはいえ、この状態であいつを攻撃して倒してくださいよ、なんてやろうにも近づいた時点で頭突きの一つは飛んでくると思っていい。
そうなると至近距離で胞子を吸い込む事になってしまう。いくらルーウェンさんが魔法で風を出しているといってもだ。弓矢とかボウガンで離れた所から攻撃するにしても黒化したマッシュルームベアだ。そう簡単に攻撃が通るとも限らない、というかまず通らないだろう。
一撃で急所に命中させるだけのスナイパーが今回の討伐に参加してるギルダーの中にいるかもしれないけど、多分この場にはいない。というのもこの場にいる全員の武器が剣とか槍とかなので。
結界でこれ以上胞子がそこかしこにまき散らされないようにして、あとはじゃあ近距離で延々攻撃するしかないわけだ。
結界で圧縮して殺すのは正直ちょっと……前回同様身体中の穴という穴から体内の何もかもがぶしゃーと出るとなると、悪臭対策なんもしてないからなぁ……風の魔法で上空に匂いを流すにしても、一切悪臭と関わらなくて済むわけでもないし。
「動きと胞子は封じました。あとは皆さんで頑張って仕留めて下さい」
ぐっ! と親指を立ててそう言えば、でかした! と言って真っ先に攻撃したのはマトハルさんだ。即決して即行動に出るまでの時間がとても短い。まぁ、マトハルさんは私とよく行動してるし、前にマッシュルームベアと戦う事にもなったわけだし、そういう意味では慣れているわけで。
事情を理解してしまえばそりゃあ躊躇いもなく行動に移るわけだよ。
とはいえ、マトハルさんの攻撃はほとんど通らなかった。精々かすり傷をつけるのが精一杯といったところか。けれどもマトハルさんが行動に移った事で、他のギルダーの人たちもするべき事は理解したのだろう。各々が武器を手に代わる代わるマッシュルームベアへと攻撃を繰り出している。
ギルダーの人たちの実力がないわけではないが、それでも武器の優劣はあるのだろう。
人によっては武器が駄目になりそうになってやむなく攻撃の手を止める者も出た。
通常個体のマッシュルームベア相手になら充分通用するレベルの武器も、しかし黒化個体には意味がないらしい。
ゲーム目線で考えると通常個体はともかく黒化個体、レベルどんだけ上の相手なんだって話だよね。
現時点での最強装備が通用しない相手が出てるわけだし。ウルガモットで入手できる武器も、そりゃまぁピンからキリまであるけれど、それにしたって武器なんてのは自分の命を預けるものだ。言葉こそ話さないけれど、武器は己の相棒でもある。ウルガモットのギルダーは当然その事を理解している。だからこそ、金がないから安物の武器で……なんて状態でこの討伐に参加しているはずもない。
だがその武器が通用しない者もいるのも事実。
これがゲームならいくつ先の町で手に入る武器で攻撃が通るんですかねぇ……って話ですよ。
初期装備でも攻撃が通る相手ばかりのところで中盤から終盤じゃないと手に入らない武器とかじゃないと攻撃通らない、みたいな相手だもんな黒化マッシュルームベア。
とはいえ、動きと胞子を封じている。
それはつまり、向こうが攻撃しようとしてもできるのは精々噛みつこうとする程度で、前足で薙ぎ払ったり後ろ足での蹴りが来る事もない。そして胞子も結界で覆われているのでこちらには届かない。
真正面から攻撃しないで横とか後ろからの攻撃であればやりたい放題である。
圧倒的攻撃チャンス!
マトハルさんはそれを理解しているので、一度で攻撃が通らずともその場で何度も攻撃を叩きこむ。前は攻撃を当てたら一度離れて、またタイミングを見て接近して攻撃、というのを繰り返していたが距離を取る必要がないだけ攻撃を叩きこむ速度も凄い。
正直私の目には何かもう残像が見えてる感じがしてきた。
何度か同じ場所に攻撃されて、ようやくダメージが通ったらしいマッシュルームベアがぐおうぐおうと低い唸り声を上げるが、生憎そんな声で動きを止めるマトハルさんじゃないし、まだ武器が使える状態にあるギルダーたちも攻撃の手を緩めるなんて事はしない。
結界でマッシュルームベアの頭部分を覆っているのもあって攻撃が通る場所は限られてしまっているが、それでも充分攻撃を当てる場所はある。首のあたりを狙って攻撃が通ればうまい事首落ちたりしないかな、とは思うんだけど、動かせる部分がそこ、っていうのもあってマッシュルームベアはせめて近くにいる誰かしらに噛みつこうと試みているらしく首の動きが激しいため、そこを狙って攻撃するよりは普通に胴体とか狙った方が確実で、だからこそ皆がかわるがわる攻撃している。
動けない相手を一方的によってたかって数の暴力で攻撃するとか字面だけ見るととても酷いな……とは思うけど、じゃあ黒化マッシュルームベアの動きを解放……なんてやれば途端に死ぬのはこっちだ。いや、頑張ればこっちが勝つとは思うよ? ただ犠牲も少なくないってだけで。
ゲームなら戦闘不能になっても多分それ死んだわけじゃなくて気絶とかだろうけど、実際この状況で戦闘不能に陥るのって間違いなく死ぬ時だよね。
流石にゲームのキャラが死ぬのと違ってリアルで関わりのある相手に死なれるのは寝覚めが悪すぎるので、こうして自分が参加している以上はなるべく全員の生還を目指したいところ。
この場にいるギルダーが交代で攻撃してるというのに、マッシュルームベアはまだまだ元気いっぱいだ。流石黒化個体。やたら防御力があって全然こっちの攻撃が通らない、無駄に長いイベント戦みたいな感じになってきた……更に数名の武器がそろそろ使い物にならなくなりかけそう……ってなったあたりで別の場所でマッシュルームベアやら他の魔物の討伐をしていた人たちも合流して、攻撃できる人が増えた。
そうして攻撃を続ける事、数十分。
どんだけ時間がかかってるんだよ、と言ってはいけない。もし結界で動きを封じていなければ、反撃されないように距離をとったりお互いの動きを確認して立ち回ったりしないといけなかっただろうし、今以上に倒すまでに時間がかかっていたはずだ。それこそ、数十分どころではない。数時間、とかいう時間が経過したかもしれないわけだ。
反撃されないようにして攻撃に専念した事で、思った以上に早く倒す事ができた。
黒化マッシュルームベアが死んだ時点で、別行動をしていたウルガモットのギルダーだけではない。アニーティカギルドの人たちも集まりつつあったので、終わった時にはあたり一帯の人口密度が半端なかったのだけれど。
うちのギルダーはともかく、見たとこアニーティカギルドの人たちも大きな怪我をした様子はない。
うん、マーカー打ち込んだのはあくまでもうちのギルダーたちだけであって、アニーティカギルドの人たちにはできなかったからね。これで向こうだけ被害が出ていた、なんて事になってた場合、それもそれで気まずいなと思えただろうから、ほぼ全員が無事という現状は間違いなく言う事無しで終わったと言えるだろう。
うん、結界で黙らせて気絶して白目向いて泡吹いてるプリーザを被害に遭った括りに入れなければ。
これから黒化マッシュルームベアの死体を焼却したりして最後の後始末をしないといけないんだけど、このおっさんどうしたものだろうね。
凶悪犯ってほどでもないけど犯罪者は犯罪者だから放置するわけにもいかないし……流石にここでマッシュルームベアと一緒にお焚き上げするのはマズイよね……?




