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さて、そういうわけであっという間に討伐する日である。
いや、あんまり長引かせると収穫祭がね……それに関してはウルガモットだけじゃない。アニーティカでも収穫祭は行われるらしいので、どっちの街もなるべく早急に解決したい案件なわけだ。
手紙のやりとりに関しては基本的に街道を行ったり来たりしてるとはいえ、それでも途中で何度かマッシュルームベアと思しき魔物の姿を目撃していたようなので、手紙を運んでいたゲヘノムさんはさぞ大変苦労したのではなかろうか。
馬をとっかえひっかえしての街道往復とか、状況が状況じゃないとそもそもやろうって思わないよね。
ところで私、アニーティカで暮らしていた間に収穫祭なんてお祭りがあったかどうか全く記憶にないんだけど。
うーん、何かお祭りがあったとは思うんだけど、それが果たして収穫祭であったかどうかが定かじゃないんだよね。もしかして春先だったかもしれないし。向こうも花祭りみたいなのやってたんだろうか……?
星祭りに関しては早く寝るように言われてたらそもそも存在を知らないままでも仕方ないとして、花祭りと収穫祭は存在を知らないままってわけでもないだろうと思うのよ。
おばあさんと一緒に住んでた村みたいに閉塞的なとこならお祭りもちまっとしてお祭りというよりは大人たちが集まってのちょっとした宴会で終わる、みたいなやつで終了、なんて事もあるとは思うけどアニーティカはウルガモットと比べるとちょっと小さいかもしれないけど、それでもそこらの町や村と比べれば充分大きな場所だ。
思い返せば一応家の外に出て遊んだりした記憶がないわけじゃないから、お祭りがあったりしようものなら間違いなく参加してるはずなんだけど……
これっぽっちも思い出せないぞ……?
なんだろう、お祭りそのものがなかったか、はたまたあまりにも何事もなく終了した結果思い出として脳内に残る事すらなかったとかか……?
ともあれ、お祭りを無事に開始するためにはお祭りを台無しにするかもしれない脅威を取り払わないといけないわけだ。
今回はギルダーの皆さんもほぼ総動員といった感じで参加している。
ちなみに自警団の人たちは街の守りをガチガチに固めている。
万が一がないとも限らないからね。
最悪こっちがどうにもならなくなったら応援要請で自警団の人が呼ばれるようになるんだけど、そうなると騎士団が街の守りに回る事になるらしい。
そうなった場合色々と大変な事にしかならないので、そうなる前には終わらせられるといいなぁ。
ウルガモットとアニーティカを繋ぐ街道近くの森の奥、って聞いて案外近くなのでは? と思ったものの。
大体中間点だったのでまずその現場に行くだけで一日程かかったよね。道が整備されてる街道だから馬車で進むにしてもまぁ、そんな時間はかからなかったんだ。悪路だったらもうちょいかかったかもしれないけど。
で、森の中に入る前に一度野宿する事になったよね。
マッシュルームベアが発生している森の近く、というとても危険な場所での野宿とか周囲に他に戦えるギルダーがいるっていってもめっちゃスリルあるよ。
一応交代で見張りしてたみたいだけど、私はそれに不参加でした。
回復要員なので何かあったらたたき起こされる可能性はあったと思うけど、そうじゃない時はとりあえず休んでおけとの事。これ人数が多いからそうなっただけで、もし少数だったら私も見張りに参加してたんだろうなぁ。
森、って一言で言ってもその中に入れる場所はいくつかあるらしく、アニーティカギルドの人たちは私たちがいる場所とは別のところから森の中に入る事になっているらしい。
アニーティカギルドでは魔物研究だとかそれ以外のあれこれを研究してる人とかもいるらしく、森の中にある例のキノコについてもどこに発生しているか、というのを把握されているらしい。
とはいえ、その量はそこまでではないため今まで放置されてたに過ぎないらしいが。
マッシュルームベアが発生しなかったとして、その森にあるキノコを全部回収したとしても、麻薬の材料とするにはとてもじゃないが足りないのでそれで一儲けを企む奴が出たとしても正直割に合わなさすぎる。だからこそ、そのキノコの存在を知る者がいても今まで放置状態だった、らしい。
魔物が出る森の中にわざわざ危険を冒して行って、けど収穫は全然……じゃぁね。
マッシュルームベアから生えてるキノコレベルの大きい奴があるっていうならともかく、そうじゃなかったら一獲千金の夢を見ても本当にただ夢見るだけ、ってやつか。
下手にそのキノコをとってそこら辺にばら撒いて他の魔物がうっかり口にしてそれがいつかバーサークベアの餌になる事を期待するにしても、本来ならその成功確率も低めだったわけだし。
この辺にバーサークベアがいないからそのキノコは放置されてたに過ぎない。いたら多分そうなる前に回収されてそうだしなぁ……
ある程度キノコの発生場所を知ってるアニーティカギルドの人たちがキノコの撤去作業をして、こっちはある程度盛大に動いてマッシュルームベアをおびき寄せる。要はウルガモットギルドの役割は囮だ。
場合によってはアニーティカギルドの人がマッシュルームベアに遭遇した場合、逃げてこっち側にそいつを押し付ける事もあるのだとか。そこら辺は事前の打ち合わせで話が通ってるので、それについて今更何を言うでもない。
それにしても、勢ぞろいしてるギルダーの皆さんをこうしてみてると中々に壮観だなぁ。
一応の胞子対策なのか、皆顔に布巻いたりマスクっぽいのつけたりしてるんだよね。一応風魔法で対策とるって話だけど、それでもうっかり吸い込まないとも限らないし。直接吸い込むのとワンクッション置いて吸い込んでしまうのとでは、まぁちょっとの違いはあるんだろう。
私はいつもより気持ちしっかりめに口元隠すようにマフラー巻いてる。
「さて、それじゃあこれからマッシュルームベア討伐を開始するわけだが」
そう言ったのはカイルさんだ。
一応彼がリーダー的な立ち位置にいる。
「他にも凶暴化した魔物がいる可能性は高い。場合によってはそいつらとの戦闘もある。
と、まぁ、それはわざわざ言わなくてもお前らなら充分理解してるだろうけどな」
そう言っておどけたように肩をすくめたカイルさんに、数名のギルダーが笑いを漏らす。
これから魔物退治をする割に、緊張感とかそういったものがない、和やかな雰囲気だった。
「ある程度の範囲は風の魔法で風上の位置が固定されるとはいえ、範囲外に出る可能性もある。くれぐれも自分がいる位置の風向きに注意してくれ」
一瞬前まで笑いが漏れていたというのに、その言葉にぴしっと空気が引き締まった感じがした。
風上にいると信じ切っていたら実は範囲から出て風下に立ってました、しかもマッシュルームベアが目の前に、なんて展開になったら最悪死ぬかもしれないわけだし、気を引き締めるのは当然だろう。
「万一怪我をした場合は無理せず一度撤退し、怪我を治してから復帰してほしい。無論、状況によっては無理をするしかない場合がある事もあるが……」
「あ、すいませんカイルさん」
その言葉に。
私は思わずはーい、と手を上げて割り込んだ。
「ん、なんだエルテ」
「その治癒魔法なんですが、ちょっと色々改良しまして」
「改良? おう……」
意味を理解しきれていない感じがするけれど、それでもカイルさんは頷いてみせた。
とりあえずわかりやすいように私が指をパチンと弾いてみせると、それと同時にいくつかの魔法陣が浮かび上がる。本来であれば地面や紙に書くだろうその図形が空中に光を纏った状態で浮いているという事実に、馴染みがないのか数名のギルダーさんたちは僅かに身を引いた。
一応アニメとかだと空中に魔法陣を描く、っていうシーンがあったりもするけど、それだってあくまで描くだけで水中に漂う海藻みたいにゆらゆらしないもんな……まぁ気持ちはわからんでもない。何かペラッペラしてる魔法陣がくねくね動いてるのは確かにちょっと……見慣れるまでは何これ状態だろう。正直自分でもそう思うし。
「とりあえずですね」
「お、おう」
「出発時点からコツコツと皆さんにマーカー打ち込んだので現時点この場にいる人たちが怪我をした場合、この魔法陣が勝手に治癒魔法をかけます」
「ん?」
「とはいえこの魔法陣もどこまでも移動できるわけじゃないので、一定の範囲内での活動になります。
なので怪我をした場合、拠点としてボクが待機してるだろう所まで戻るまでしなくても、魔法陣が見える範囲まで戻れば大体どうにかなるかと」
「おかしいな、オレの知ってる治癒魔法と違う……」
「安心しろ、俺もそう思う」
カイルさんの呟きに即座に頷いたのはルーウェンさんだ。
ついでに他の人たちも同じような感じだった。
解せぬ。




