それはさながらB級映画のような
一体何事だろう? と思いつつも二人に声をかけるのは正直躊躇われた。
今はまだお互い武器を手にしてないけど、何かきっかけがあったら普通に殺し合いが始まりそうなんだよね。いやだよそんなギスギスした雰囲気の中話しかけるの。
というわけでそっと足音を立てないようそろりそろりと移動してギルド長の所まで行く。
「おはようございます」
「おう、今日は早いな」
この会話は勿論小声でおこなっている。寝起きドッキリする仕掛け人みたいな感じといえばおわかりいただけるだろうか。ギルド長もそれに合わせて小声だった。
まぁここで普通に返事だけしたらギルド長に注目が集まりかねない。
「あの二人どうしたんですか?」
「あぁ、いや、大した事ではないんだが……ほら、マッシュルームベアが出ただろう?」
「えぇはい」
「どうしてキノコを確保しなかったんだってあいつが責めてな」
あいつ、とギルド長は顎でゲヘノムさんを示した。
「いやでもあのキノコ、色々と不味いものなのでは」
「そうだな。普通に生えてる段階だと小さすぎて薬の材料にするには量が必要になる。とはいえ必要量を集めるとなると一筋縄ではいかない。
だがマッシュルームベアから生えてるキノコならそれ一つで事足りる」
そうなんだ。
そこは聞いてなかったな。何か麻薬の材料になるとは聞いたけど。
「だが、マッシュルームベアが倒された後は速やかに立ち去らないと他の魔物が寄ってくる。それに、倒すまでに暴れたマッシュルームベアにはキノコの胞子がたっぷりと纏わりついている事が多い。それをうっかり吸い込めば自分も危うい。
それに……そう簡単にあの頭のキノコは引き抜けるものじゃないからな。採取するとしても難しいんだあれは」
あぁ、だからギルド長はそこまで詳しく説明しなかったんだな。
一人で仮に倒したとして、近づいた拍子に風でも吹いて胞子が舞い上がったりして、それをうっかり吸い込んでしまったら。
その場で酔っ払ったみたいな状態になって、そのうち最初にやってきた他の魔物にやられる可能性はとても高い。
複数名でキノコを採取しようとしたなら、一人がそうなった時点でそいつを回収し他の誰かが代わりに……という事も考えられるけどあまり時間をかけすぎるとやっぱり魔物がわらわら集まってきてしまう。
どう考えても危険である事に変わりはない。
「そういえば、剣とかナイフで切断するのは駄目なんですか?」
「あぁ、そうすると切ったところから色が変色して効果がなくなる。あれは手で引っこ抜かないと意味がないらしい」
「なるほどなぁ」
金属で触れると変色するっていうのは別におかしな話でもない。キノコ以外でもそういうものはある。
それに別のキノコは手で裂いたらそこから色が変色するなんてのもあるし、まぁ金属で切断したらそこから色が変わるなんてのは別に珍しいわけじゃない。
キノコを材料として採取するなら素手で引っこ抜くしかないというわけか。
ただキノコを廃棄するつもりであるなら剣とかで切ってしまってもいいわけか。でもそれするくらいならさっさと立ち去るかな。
他にもマッシュルームベアになりえそうなバーサークベアが周囲にいて、死んだばかりのマッシュルームベアの死骸を食べたりして新たなマッシュルームベアに! ってなりそうなら場合によってはキノコを切断するのも有りだろうけど。
でも結局死骸食べてそうなったら意味ないのか。切り捨てるくらいならその手間省いてさっさと立ち去った方が早いな。すぐ近くにバーサークベアがいてマッシュルームベアの死骸を食べるのがわかりきってるならそうなる前に倒す方がいいのかもしれない。
バーサークベアがどれくらい強いかにもよるけど。
「で、なんであの人キノコを欲してるんですか?」
「あぁ、薬の材料として必要としてるらしい」
「でもあれ麻薬の材料になるとは聞いたけど、他に使い道あるんですか? ボクあまりそこら辺詳しくないんですけど」
「極少量だと麻酔のかわりにもなるらしいんだけどな……まぁ普通に麻酔作った方がマシ」
「へぇ」
モルヒネみたいなものかな?
戦場で痛みを誤魔化したいけど麻酔は困る、みたいな時とかモルヒネが使われたりって話はふわっと聞いた気がするけど詳しくは知らない。
というか、痛みを誤魔化すくらいならポーション飲んでさっさと治した方が手っ取り早いよなぁ……と思うのが本音なわけで。
なんて私とギルド長がひそひそやってるうちにも、何かマトハルさんとゲヘノムさんの言い合いは続いていたらしい。
「あの時点で遭遇したならお前は危険を冒してでもあのキノコを採っておくべきだった……」
「危険を冒す意味がわからない。そもそもあのキノコの使い道は限られている。下手に持ち帰ってどうする? 麻薬の材料としたい後ろ暗い連中が目をつけるのがオチだ」
マトハルさんの言い分はもっともだ。
下手にそんなん持ち帰ってどうしろとってなるのは当然の流れすぎる。
それでなくともウルガモットって表向きの治安はよくても何かあったらすーぐ犯罪者が出没するからね。
マッシュルームベアの頭から生えてるキノコを持ち帰った、なんて話が漏れたら麻薬の材料として高値で売れると思った相手が盗みに入らないとも限らない。
末端価格おいくらなんだろ?
でもまぁ、大分お高い感じはするよね。
見た目はキノコでも見る人によっては金塊と同じカテゴリになったりするようなのがある、と知られればそりゃあ悪い事を企む人は出ると思う。
ギルドで保管しておくにしても、ギルドだって一日中人がいるわけじゃないからさぁ。特に夜。
ギルド長がここでお仕事して寝泊りする時ならともかく、普通に家に帰る時もある。
キノコをギルド長が常に持ち運んだりするなら……あ、いや、それでもやらかす相手が徒党を組んでギルド長のところに襲撃掛けたりする可能性が出るのか。
ギルド長が戦ってるところを見た事がないから何とも言えないけど、それでも結構強いらしいとは聞いている。だからって集団で襲われたら無事で済むかはわからない。
かといってうちで預かるのもな……結界で守りは万全だけど、一日中ずーっと結界張るのもなぁ。キノコ以外で店の商品荒らされるのも困るからそうなると家全体を結界で、ってなりそうだし。
そこら辺考えると、あのキノコはクマを倒した時点で他の魔物に食べられて新たなマッシュルームベアが出ないうちに別の魔物の体内で効果を失ってくれないかなーって考えるのが一番マシに思えてくる。
消極的と言えばそうなんだけど。
でも人里に近づかないバーサークベアをマッシュルームベアになる前に倒しきってしまおう、とか考えるよりかはまだマシな気がする。
人里に近づかないとなると倒すには勿論こっちから行くしかないわけで。
マッシュルームベア以外の魔物ともそうなれば遭遇するだろうし、倒さないというわけにもいかないかもしれない。でもあまり下手に魔物を倒し過ぎて周囲の生態系が乱れるような事になると、それもそれで問題が発生しそうだもんなぁ。
他の地域から別の魔物がやってきた時に、そこで既に住んでる魔物が縄張りを荒らす敵と認識して戦う事もあるらしいし。
そういうのなくして他所からの魔物が今日からここ俺たちの縄張りでーすなんてやられるのも困る。そういうのが勢いに乗って人里まで襲うようになるなんてのもあるらしいからね。
最終的に討伐するにしても、その手前で出るはずがなかった被害が出るのも困る。
こうやって考えると世界って上手くできてるなぁ、って思えてくるから不思議。
「大体あのキノコを採取したところでどうなる? 麻薬の材料? だったら尚更採るわけがないし、麻酔の材料にするにしても、だったら普通の麻酔で事足りるだろう」
マトハルさんがさっきからマトモな事しか言ってない。いや普段からマトモな事しか言ってないけど。
ただ、普段あんまり人前で喋るタイプじゃないから違和感があるのはきっとそのせい。
そうなんだよね、現時点でゲヘノムさんがあのキノコを必要としている理由がハッキリしてないから、マトハルさんがとても正論パンチしてるようにしか見えない。
ちなみにそんな会話をしているうちに、依頼の確認にでも来たらしいルーウェンさんとディットさん、それからカイルさんがやってきた。
入るなり何やら言い争ってる二人を見て、何事? とばかりに目を向けている。
「馬鹿野郎! マッシュルームベアがあれで済むはずないだろう! まだいる、まだいるんだ。それらを退治するにしても、下手に数があるうちに遭遇したら間違いなくあの胞子の餌食になる。だからこそ事前にあのキノコを使った薬で症状を中和する。じゃないと危険なのはこっちだぞ!?」
その叫びに。
「おいゲヘノム、そいつぁ一体どういう事だ……?」
てっきり単純にキノコが欲しかっただけのゲヘノムさんの我儘からきた言い争いかと思いきや、途端物騒さを帯びてきたそれに。
ギルド長がひく~い声で問いかけるのは言うまでもなかったのだ。




