立ち位置のわからない人
間違いない。
この人に見覚えがある。
とはいえ、どこかで会ったとかそういうんじゃない。
知り合い作フリゲの登場人物だよこの人!
とはいえ流石にそんな事を口走るわけにもいかない。
マトハルさんは私のうっかり漏れ出た呟きのようなものを、多分別の意味で受け取ったはずだ。
何せそこはかとなくマトハルさんと似ているのだ。
とはいっても黒髪黒目のマトハルさんと違って今しがた遭遇したこの人は、黒髪だけど目は赤い。闇落ちしたマトハルさんです、とか言われたらまぁ信じてしまうかもしれない。
といっても、そっくりって程でもないんだ。
あくまでも何か似てるな、程度。
双子というよりは親戚と言われた方がしっくりくる。
しかし、だがしかし。
知り合いの作ったフリゲはそもそも途中までしかプレイしていない。
しかも主人公が学生時代の話だ。
私がプレイしたその話から、この世界は既に数年が経過していて主人公はとっくに学校を卒業してるしフレッドさんと結婚しているというではないか。
プレイしてた時はさ、主人公のミラも仲間のフレッドも年下って認識で微笑ましくくっつくのを眺めてるといった感じだったけど、こうして自分が転生した今となってはあの二人年上なんだよね。
しかも私がプレイした途中までっていうのは、中ボスとしてマトハルさんと戦ったあたりだ。しかもあれよく考えるとホントに中ボス扱いだったかも疑わしい。
マトハルさんはウルガモット周辺の悪党どもをまとめ上げてるリーダー的立場だった。でもこうして私がここにいるこの世界のマトハルさんは悪党をまとめ上げるというよりはその悪党を退治する側に回っている。
そもそもミラが主人公だった話だとマトハルさんは戦闘で敗北した後捕縛されてからの処刑というコースだ。
私はそこから先の話を知らない。だからこそ、その後何らかのどんでん返しがあった可能性もある。
どっちかっていうとどんでん返しというよりは話の流れまるっと変更した、とかの方が可能性としてはありそうなんだよね。
だってマトハルさんが仮にどこぞのやんごとなき身分のお方でした、とかだとしても、それにしたってこの辺一帯の盗賊たちをまとめ上げて盗賊団結成してたわけだし。騎士団もおいそれと手出しできない規模の悪党。それがマトハルさんだったし、ミラたちはそんなのと戦ったのだ。中盤の盛り上がりとしてはそりゃもう充分だと言えただろう。間違いなく強敵だったのだから。
とはいえ、ストーリー全体としてはきっとそこまでの重要性はなかったキャラのはずだ。
私の知らないところでどんでん返しストーリーがあったらどうだかわからないけど、でもなぁ……彼女が作る話って割とコロコロ展開変わるから例え最初に重要そうなキャラだったとしても後から顔グラフィックがあるだけのモブになってたりもしたからなぁ……
マトハルさんの事は今はいい。問題は彼だ。
確か、ゲヘノム、ってマトハルさんが呼んでたよね。
名前は知らないけど、この人の顔は見た覚えがある。
フリゲの序盤で何かチラッと出てきて思わせぶりと言うか意味深な言葉を残して消えた人だ。
いやあれ絶対後から敵で出てくるやつ~! って思ったのは覚えている。
あと、黒髪赤目という闇落ちキャラにありがちな配色だったから余計に覚えてるってのもあるかもしれない。
あとは……一応ゲームのオープニングにもチラッと出てるんだよね。
趣味でゲーム作ってる知り合いだけど、作品ごとにオープニングの気合の入れ方が違ってたんだけどさ。
大抵はゲーム起動したらそのままタイトルが出てきて、その下のウインドウにニューゲーム コンティニュー システム エンド って感じなんだけど。
ニューゲームとコンティニューは言うまでもない。
システムはあれだ、文字の流れる速度とか音量調整とかのコンフィグとも言われるやつ。で、エンドはそれを選ぶとシャットダウンする。家庭用ゲームソフトだとエンドとかシャットダウンっていう項目はないけど、フリゲには割とよくあるやつだ。
そんなシンプルな画面が割と多用されてたけど、たま~にだけどオープニングムービーみたいなのがあるやつもあった。
っていっても美麗なアニメーションとかではない。ゲームの製作会社のやつと比べたらそこまで動きが滑らかってわけでもないし立ち絵がするっと流れてったりする程度だ。
とはいえ、それでもあぁこういうキャラが出るのね、ってわかる感じではあった。
で、ミラが主人公のゲームもまさにそんな感じで登場人物のイラストがさらっと流れていく感じのオープニングムービーがあったんだけど、そこにこのゲヘノムさんもいた。
基本は主人公からその仲間たち、って感じでそこから敵対してる存在がパパパッと出てくる感じだった。
マトハルさんも一応そこで登場はしてたんだよね。ほんと一瞬、って感じだったけど。
実際マトハルさんと戦って、その後でふと、そういやこの人もオープニングにちらっといたんだっけ……? ってなった程度だ。あまりにもチラ見せ状態すぎて重要キャラとは思ってなかった。
ただ、あのチラ見せからまさかこんな苦戦する相手だと思わなかったってのもあって、マトハルさんよりも割と長めにオープニング映像にいたゲヘノムさんは一体そんな強敵に……? ってなったっけなぁ。
まぁ結局ゲームはそこに至る前に終了したけど。私の人生ごとな。
他にもチラッと出てきて存在感だけ匂わせてくる、みたいなのはいたんだけど、いかんせんそいつらともちゃんと出会う前だ。
明らかに敵対してるだろうってのだけはわかる感じで、それでいてマトハルさんの後に登場するだろうと思ったらどんだけ強敵なんだと思ったものだ。
いつ出てくるんだろう、とか思ってた期待でもあったのか、案外記憶に残っているものなんだな……
下手したら実際の出番を見る前に知り合いがバージョンアップとかで話の展開も変えて本来とは違う出番になってる可能性もあるんだけど。
だがしかし、これだけは覚えている。
強敵だったマトハルさんを倒した後、ミラたちに直接というわけではないがゲヘノムさんが登場するシーンがあって、
「おーおー、マトハルなんて倒したくらいではしゃいじゃってまぁ……いやあ、今後が楽しみだなぁ……」
みたいなことを言ってたんですよ。
もうこれ明らかに次に出てくる強敵ですよって感じだったからね。その時点で名前とか出てなかったけど、明らかに主人公に立ちはだかる強敵の雰囲気だけはたっぷりだったからね。
というかそういう顔グラフィックがあって多分この後出てくるんだろうなー、的キャラは他にも数名いたけどそこに至る前で止まったもんなプレイが。
敵だったはずのマトハルさんがここで味方ポジションにいるってのも違和感あったけど、最近になって何となく慣れつつはあった。いやまだ闇落ちフラグあるんじゃないかと疑ってるけど。
でもまさかここでキャラもなんも掴めてない人物が登場するとか思わないじゃん?
私がプレイしたフリゲではこのゲヘノムさん、マトハルさんの事を知ってるっぽい感じだったけど、果たしてマトハルさんが彼の事を知ってたかどうかまではわからなかった。作中で二人が会話してるシーンがあったわけでもないし、そういう回想シーンがあったとかでもなかったからね。
でもなんだろ、マトハルさんはウルガモット周辺の悪党どもをまとめ上げて一大盗賊団みたいな感じになってたし、悪党には悪党なりの繋がりとかあるんなら、もしかしたら知り合いであった可能性はある。
その知り合い、が友人関係ではなく敵対関係だった、なんてのもありそうだけど。
えっ、そんなフリゲでチラッと出てきて黒幕とかそういう感じムーブかましてた人とマトハルさん……知り合い……?
っていうかさっきゲヘノムさんマトハルさんに「お兄さん」って呼んでもいいよとか言ってたよね。
え? 兄弟? 確かになんとなく似てるとは思うけれども。
私が困惑したようにマトハルさんを見れば、マトハルさんも私の視線に気付いたのか困ったようにこっちを見た。いや、何でマトハルさんが困ってるんだ……どういう関係? って感じで場の雰囲気についていけてないの私なんだけど?
「お? なんだよちんまいの連れてるなぁ」
そしてマトハルさんが私を見た事で、ゲヘノムさんは私の事を認識した。どうやら今の今まで視界にすら入っていなかったらしい。いやいいけど。ちょっとだけ上半身を屈めるようにしてこっちと目線を合わせてくる。
「坊主もギルダーか? それにしちゃ細っこいけど……戦闘スタイルこいつの真似すんのはお勧めしねぇぞ」
目線を合わせてにこっ、と人の良さそうな笑みを浮かべてくる。
いきなりガキがギルドでいっぱしの冒険者気どりか? とか言っておもむろに一発顔面にパンチいれてきてもおかしくないぞ、とか思ってた私の予想を裏切って思った以上にマトモな反応だった。いやごめんて、だって私の知ってる貴方どうしたって悪役とか強敵とかストーリー中盤以降で出てくるだろうボスだったんだろうなっていうね、そういう前世由来のしがらみのような何かがあるんですもの……
だからつい結界を張ってても仕方なかったよね。いや、笑顔で人の事ぶん殴ってくるタイプである可能性を捨ててなかったからさぁ!
けど実際はゲヘノムさんは私の頭を撫でようとしたらしい。
「お?」
けどその直前で私の頭に触れる事はかなわず、別の何かに阻まれる感覚に不思議そうな声を上げた。
「……結界かぁ。え、じゃあお前こいつ何のために連れてんの?」
すぐにそれが結界である事に気付いたものの、何でか驚いたようにマトハルさんに問いかけている。
いやでも、そういやマトハルさんて普段は一人で大体依頼こなしてるよな……思えば私がギルドの手伝いに入った当初、薬草調達に行くのに一人で行こうとしてたところにギルド長から護衛に、って言われてしぶしぶついてきてたっけ。足手纏いと一緒におでかけとかそりゃあ不服だったでしょうね。
まぁなんだかんだで今はもう当たり前のように護衛についてきてくれてるんだけど。
むしろ向こうから今日は行くのか? とか聞いてきたりするようになったもんなぁ。
「オレが連れているんじゃない。護衛でついていってるんだ」
「護衛ぃ!? お前が!? え、坊主お前どっかのお偉いさんか?」
「いえ、普通の庶民です。ウルガモットで薬屋やってます」
「ギルドの手伝いをしてくれている」
マトハルさんが補足説明とばかりに告げれば、ゲヘノムさんはますますわけがわからないという表情になる。
えっ、その表情は一体どういう感情からしてるものなの……?
なんてこっちが疑問に思っていたら、勝手に自己完結したのだろう。なぁんだ、みたいな感じになって、それじゃあさぁ、なんて軽い口調で問われる。
「じゃあこの近辺でマッシュルームベア見かけなかったか? 目撃情報があったからこうして出向いたんだけど」
「……あの頭からキノコ生えてるクマの事ですか……? それはまぁ、はい」
何せついさっき連戦してきたところだ。
目撃情報は一体どこで出たんだろう。
ウルガモットであったなら、私たちが外に出た後にその情報が回ってきたんだろうか?
「マジか。どっちだ!? どこで見かけた!?」
パッと顔を輝かせて聞いてくるゲヘノムさんに対して、私は果たしてこれ普通に答えていいものかとマトハルさんに助けを求めるように視線を向けた。
「少なくとも二匹、既に倒してある。今頃はもう他の魔物が群がってるんじゃないか? とりあえずは向こうだな」
「なっ、遅かったか……いやでもまだ可能性はある……じゃあなマトハル!」
「……いいんですか? 教えちゃって」
「構わん」
言うなり駆け出してあっという間に見えなくなってしまったので、思わずそんな事を聞いてみればマトハルさんは全く悪びれた様子もなくそう言い切った。
下手したらあのクマに今頃他の魔物が群がってる可能性があるって事でしょ? そんなところにゲヘノムさんが突撃して、その魔物たちと戦う事になったら……と思ったし、あのクマに何か用があったとして……なんだろ、頭のキノコ引っこ抜くとか? でもそれやってる間に他の魔物が寄ってきそう。既にいる可能性の方が高いんだけどさ。
「あいつなら何があっても大丈夫だろう。オレたちは戻って、ギルド長に報告だけはしておこうな」
「あ、はい……」
マトハルさんの知り合いらしき人と遭遇したからこんな場所で立ち止まる事になったわけだけど、正直お互いに疲れすぎている。ゲヘノムさんは大丈夫って言うなら、そうなんだと思う事にして私とマトハルさんはとにかくウルガモットへ戻る事を優先させた。




