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一体どうしろと  作者: 猫宮蒼
一章 自衛のために好感度とかもっとわかりやすくしてほしい

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そういう連戦イベントは望んでなかったんだよなぁ



 ガサガサと茂みをかき分ける音。

 それに真っ先に反応したのは勿論マトハルさんだ。

 というか、多分その音がするちょっと前から気付いてたっぽくて既に武器を構えていた。


 私たちがいる場所からそっち側は少し薄暗く見えるせいで、ハッキリと何が近づいてきているのか、私にはよくわからなかった。とはいえ、それが人でない事だけは理解している。

 グルル、という低い唸り声。

 以前この近くで遭遇した狼だろうか、と思ったがそれとは何となく違う気がした。


 そうこうしているうちに、そいつは姿を現した。


「クマ……!? え、いや、キノコ……?」


 その姿に、思わず私は呆気にとられる。


 いや、こういう所でクマと遭遇したって時点で割と命の危機を感じる場面だとは思うんだけどさ。

 なんていうの? そのクマの頭からでっけぇキノコが生えてるんだわ。

 というか他の部分も述べるとするなら、そのクマの目は何か焦点合ってないしちょっと虚ろだし、口から涎がだーらだーら垂れてて……すごく……アヘってます……みたいな印象が強い。ラリッてます、って表現でも可。いやどっちもそう変わらないんだけども。


 というか、魔物、だよね……?


 普通のクマにキノコは生えないはず。

 生物に寄生するキノコって確かあったと思うんだけど、冬虫夏草だっけ? ああいうのしか知らないからなぁ。でもあれ虫とかに寄生するとは聞いたけどクマに寄生はしないよね……? というかあんなでっけぇキノコじゃなかったはずだし冬虫夏草とは違うはず。


 というかまずクマと遭遇した時点で危険極まりないというのに、頭から生えてるキノコのせいで危機感が仕事してくれない。キノコに意識を持っていかれる……ッ!!


「どっちが本体なんです……?」


 ちょっとあまりにもあまりな出来事すぎて、思わずそんな言葉が口から漏れた。


「どっちも何もあったものか」


 言うなりマトハルさんは武器を手にキノコグマへ接近する。そうして斬りつけてすぐさま離れる。離れたと同時にゴァアアア! と発狂したような唸り声を発し、キノコグマは後ろ足で立ち上がると前足をぶんぶん振り回した。

 あのままマトハルさんが更なる追撃をしようとしていたら、あの攻撃を食らっていただろう。

 マトハルさんは確かにギルドで盗賊だとか山賊だとかをメインに狩ってるらしいんだけど、魔物退治も普通に参加している。とはいえ、彼はどちらかといえばスピード重視といった感じだ。防具は最低限。動きを邪魔しないようなものしか装着しない。

 つまり、防御力は紙装甲といってもいい。


 一度でも攻撃を食らえば下手したら致命傷。


 私は既に結界を張ってその中にいる。多分、大丈夫だとは思う。


 いや、あまりにも威力の強い攻撃だったらもしかしたら結界耐えられない可能性あるから何とも言えない。大丈夫だとは思うけれども。


 でもマトハルさんに結界は張ってない。

 動き回るマトハルさんに結界を、となると制御しきれる気がしないからだ。

 結界をマトハルさんの動きに合わせる事ができればいいけど、そうじゃなかったらマトハルさんが結界にぶつかるなんて事になりかねない。


 発狂したように暴れていたキノコグマだったが、疲れ果てたのだろうか。前足を下げて、再び四つ足状態に戻る。その直後、マトハルさんは再び接近して斬りかかった。

 そうやって何度か攻撃しては離れるを繰り返して。


 かなりの時間が経過したと思う。

 マトハルさんは怪我をしていない。とはいえ、相手に接近されないようにしつつ、相手の隙を突いて攻撃を繰り返していた時点で体力も精神も相当消耗したらしく、肩で息をしているし正直これ以上長引いたら危険な気がする。

 キノコグマも何度も斬りつけられたためか身体中から血を流し、荒い息を吐いている。最初と比べれば弱りつつあるのはわかるけど、それでもまだ油断はできない。


 ある程度弱ってきてるなら、結界でぶん殴ったりするのもいけるのではないか? と思うんだけど……

 マトハルさんが余計な事はするなとさっきキノコグマから離れて一度こっち側に来た時に告げてったので、私としては手が出せない。

 余計な事、がどういうものなのかにも寄るけれど、マトハルさんが怪我をした時に治癒魔法使うのは大丈夫だと思う。でも結界で殴るのは駄目だと暗に言われた気がする。


 けどその理由はすぐに判明した。


 キノコグマが暴れるたびに、何やら舞っているのが見えた。


 あれは……胞子?


 キノコグマが暴れている時、マトハルさんは絶対に近づかない。距離をとって、そうして暴れていたのが落ち着いてから少しして攻撃に入る。


 あの胞子を吸い込まないようにしている……?

 というか、胞子が降ってその下にいるクマ部分にも胞子がくっついてるのが見えた。

 最初に気付かなかったのは、その時点でそこまで胞子が出ていなかったからだろう。

 何度も胞子を振りまいていくうちにクマボディに胞子がたっぷりとくっついてそれで見えるようになったんだろうな、とは思う。


 もしかしてマトハルさん攻撃する時息止めてる?

 まかり間違っても吸い込まないようにして息を止めて攻撃、その後離脱、とかやってある程度距離とってから息をしてるなら、そりゃ酸素が足りないわけだ。


 マトハルさんはキノコグマの狙いが私に向かないようにしつつ、攻撃を繰り返す。

 そうしてようやくキノコグマは倒れ――動かなくなった。



「……エルテ」

「はいっ」

「しばらくここに近づかない方がいい。オレたちも早急に離れるぞ」

「え、あの」


 何で? とは思ったけれどここでぐだぐだ言ってる余裕はなさそうだ。

 踵を返すマトハルさんに置いていかれないよう小走りでついていく。


 いつもの薬草調達程度ならマトハルさんは余裕で行って帰ってくる。肩で息をするくらい疲れるなんて事はない。

「途中、どこかで少し休みますか……?」

「いや、早めにギルドに報告しないと」


 ギルドに報告。


 その言葉で実は何気に大変な事になっているというのを察した。


 普通にウルガモットの外に出て魔物と遭遇してそいつらを退治したくらいじゃ、わざわざ報告なんてする必要がない。報告するのは大体討伐依頼が出ている魔物を退治しましたよ、とかそういう時くらいだ。


 けれど少なくとも今ギルドにあった依頼で、あんなキノコが生えたクマを倒してほしい、なんていうのはなかったはずだ。

 今日はそこまで依頼出てなかったから覚えている。


「あの、あの魔物について聞いてもいいですか……?」

「……あぁ、エルテは知らないのか。あれはマッシュルームベアと言ってな」

「えっ、あのキノコマッシュルームなんですか!?」


 おっといけない即話の腰折っちゃったや。

 いやでも待って?

 あの頭から生えてたキノコ、どう見てもベニテングタケみたいな色合いと形だったんですけど?


「いや、実際のマッシュルームとは違うんだが……あの魔物を見つけて最初に命名したやつがそう言い出したらしいからな……」

 マトハルさんはどこか遠くを見るような目を向ける。

「マトハルさんが名付けたわけじゃないですもんね。ごめんなさい話の腰折っちゃって」

「構わない。ただ、あの魔物についてオレもあまり詳しくは語れない。ギルド長に聞いてみてくれ。

 オレが言えるのは、あの魔物と遭遇したならあのキノコの胞子を吸ってはいけないという事と、倒したとしてもあのキノコを回収しようとしてはいけないという事だけだ。

 倒した後は他の魔物がアレを食らいにやってくるらしいからな。だからこそしばらくの間その近辺に近寄らないように、という話もある」


「キノコの胞子を吸っちゃったら……どうなるんですか?」


 薄々何となく把握はしてるけど、それでも念の為確認しておく。

 思ってるのと別方向に違ったらそれはそれで困るかもしれないからね。


「症状は人によるが……まず意識が混濁する」

「初っ端から大変すぎでは」

「次に精神が高揚し、人によっては楽しくなるらしい。だが意識は相変わらず混濁状態だからな。酩酊状態に近いかもしれない。酔ってその時の記憶がないとかそういう感じに近い、という話は聞いた事がある」

「……それ、不味くないですか?」

「そうだな。魔物を前にそんな状態になるんだ。一人の時に遭遇して尚且つ胞子を吸い込んだらまず助からない」

「危険なやつじゃないですかそれ」

「だからそう言っている」


 街の中でお酒飲んで酔っ払って楽しくなっちゃった~って感じで酔ってる時の記憶がなくなったとしても、その後の事は何となく想像できる。

 一緒に行った人の中で介抱してくれる人がいれば無事に家に届けてくれるかもしれない。

 一人で酔っ払ったまま帰ろうとして、途中で道のどこかで寝ちゃう可能性もある。

 そうなった場合、財布を盗られるだとか、身ぐるみ剥がされて下着一枚だけで道端で寝てるだとか路地裏に捨てられるだとかになるとは思う。

 流石にその状態で殺されるような目に遭うとなると、それはその人が普段恨みを買ってたとかだろうか。

 ともあれ、ウルガモットの街の中で酔ってそこらで前後不覚になったとしても、多分死ぬことはないんじゃないかなぁ……という感じだ。


 けれど魔物の前でそんな状態に陥ってみろ。

 死ぬわ。

 何が何だかわかってないうちにあのクマの強烈な一撃とかで殴られてそのままご臨終するわ。クマのパンチとか一撃でも食らった時点で人間ならアウトだわ。

 生きてたとしても無事じゃ済まねぇ。下手に顔面の肉とか削ぎ落されるような事になってみろ。手術しても治せるかどうか微妙な所だぞ。

 火傷した皮膚の移植で自分の身体の別の場所からこっちに皮膚を移しますよ、みたいなのはあったと思うけど、別の場所にある肉をこっちに移しますね、っていう手術の話は生憎覚えがない。

 そもそも皮膚はまだしも肉はそんな簡単に移動できるんだろうか? 無理では?

 生憎と前世は医療従事者とかでもなく精々風邪ひいた時に病院行く程度でしかなかったから、そんな詳しく知らないんだよね。


 でも魔物の前でそんな状態になったら不味いのは確実なわけで。

 まずもって死を覚悟するべき。

 成程そりゃあマトハルさんが神経張り詰めたみたいになって細心の注意を払って戦うわけだわ。

 私結界と治癒魔法は使えるけど、キノコの胞子はあれ毒扱いでいいのかしら? それなら解毒の魔法も一応使えるけど、胞子は毒とは別物でーす、ってなったらちょっとお手上げ感あるぞ。都合よく薬持ってるわけでもないしな。


 いや、場合によってはもしマトハルさんが胞子を吸い込んだとして、結界で殴ったら正気に戻るだろうか? 戻ってくれるなら殴る事もやぶさかではないんだけど、戻らなかったらアウトだよね。結界でマトハルさんが外側の攻撃を受けないようにしつつ中から自分で出ないように閉じ込めた上で私がウルガモットに戻って応援を呼ぶ必要が出てしまうな……!

 そうならなくて良かった。

 もしそうなってたら、その時点で私あのクマについて詳しく知らないからマトハルさんを結界に閉じ込めるにしても、内側から出る事が可能なタイプ展開させてたかもしれないし。


 あの倒したクマの血の匂いに誘われるのか、どうやらあれを食らうべく他の魔物がやってくるって話だし、魔物の種類によっては私とマトハルさんだけで対処できない可能性もあるしで、そりゃとっとと引き返すが吉ってものよね。


 ……って、思ってたんだけどさ。



 二匹目と、遭遇しました……

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