呪いのせいとは言えない
呪いがどうこう、と言われても怯える要素がないし、そもそも怯えたからとてどうにかなる話でもない。何かそれっぽい出来事があってもすぐにこれは呪いが原因ね……! なんて早計に結び付けたりしないようにしないとなぁ、と気を引き締めるくらいしかやる事はなかった。
例えばちょっとした不幸・不運な出来事に遭遇したとしてもそれが全部呪いのせいだ、と思うのだけはマズイと思うんだよね。
前世でも魔法はなくても呪いはあったけど、あれだってほとんど呪われてるって自覚があってそこで効果を発揮する……みたいな感じだったし。
ちょっとした悪い出来事をなんでもかんでも呪いのせいだと思うと日常の些細な出来事全部そういう認識になりかねないからね。
仮に呪われてるとしても、その呪いを誰がかけたのかって話だし、現時点一番怪しいのってあの白い人なんだよね。怪しいだけで証拠はないから犯人扱いもどうかと思うけど。
でももしあの人が犯人だとして。
ここで私が呪われているという事を強く自覚してなんでもかんでもそうだと結び付けようものなら、思うつぼな気しかしない。
そもそも日常のちょっとした不運な出来事とかを呪いと結び付けようにも……ちょーっと無理があるっていうか……
ケース1
ギルド内部でギルダーさん方でちょっとギスった空気になって喧嘩勃発。殴り合いまではいかなかったけど、お互い胸倉掴み合っての睨み合いにはなっていた。
流石にそれ以上マズイ事になればギルド長が喧嘩両成敗で鉄拳制裁した可能性はあるけど、そうはならなかった。ただ、お互いがほとんど同時に掴んでた手を放してその直後にお互いの胸に手をどん、と当てて――要は突き飛ばしたわけだ。
たまたまそこに私がやって来て、一人のギルダーとぶつかったけど。
これを呪いというにはどうなんですかね? って気がするでしょう?
ちなみに私はギルドに入る時、外にいた時点で何か言い争ってる声がするなぁ、と思ったので万一中に入って殴り合いの喧嘩の巻き添えになった時の事を考えて、結界を張ったままギルドに入った。
なので私はノーダメージ。むしろ私にぶつかったギルダーの人が無駄にちょっと痛い目を見たかな、といったところか。
結界にぶつかったとはいえ、そこらにあるテーブルにぶつかるのと大差ない感じなのでギルダーの日常生活に支障が出る事もなかったし、むしろテーブルだったらまだしも入ってきた私にぶつかった事でちょっと申し訳なさそうに謝罪された。
突き飛ばした方にも。
ケース2
買い物帰りにウルガモットの街中の移動に使われてる馬車、の馬に何かあったのか暴走しちゃってそれがこちらに突撃しかけてるじゃありませんか。
このままでは馬に跳ね飛ばされて大怪我は免れない――!!
かといって結界で防御したら自分は無事だろうけど馬車の中の人と馬は多分無事じゃ済まない。
馬は下手に転ばせたりすると今後の生活、というかお仕事にも問題が生じると思ってたので流石に悩んだよね。
前世でもほら、お馬さんたちが競争するやつで転んだりして足に怪我しちゃったりしたら、騎手の人もだけど馬も最悪そこで引退とかあるって話だし……
悩んだ結果買い物して抱えてた荷物の中からニンジンを放り投げる事にした。
運が良かったのか、そのニンジンに気を取られて馬の暴走はおさまった。
怪我こそしなかったけど、折角買った荷物が一つ駄目になってしまった、と考えればまぁ、ちょっとした不幸な出来事と言えなくもない。
もっかい買いに行くのも面倒だったしな……
ケース3
なんと珍しい事に女の人に因縁吹っ掛けられたよ!
腐のつくお嬢さんたちは私とディットさんが一緒に歩いてるの見るだけで途端目がイキイキしだすんだけど、そうじゃないお嬢さんもいたみたいで。
ディットさんがいない私一人だけの時にわざわざ言いがかりをつけに来てくれました。
私じゃディットさんに相応しくないだとか何か色々言ってたし、最終的に私に掴みかかろうとしてたんだけど、身の危険をそれより前に感じてたから私は既に結界を張ってたし、そのお嬢さんが結界にぶつかる前に通りすがりの他のギルダーさんたちが止めに入った。
ディットさんに相応しいのは私よとか叫んでたけど、その後通りがかったディットさんは彼女の存在を認識してませんでした。えっ、ストーカー? 妄想癖の激しい人?
どっちにしてもディットさん本人から友人認定されてる私と、本人からもまずどちら様ですかとか言われる相手ではお互いの言い分のどっちに軍配が上がるかなんて言うまでもない。
その人はとりあえず頭を冷やせ的な意味で自警団の牢屋にぶち込まれたようです。
うーん、恋愛沙汰に巻き込まれた、と考えるととても不幸な感じがするけど、精神的に面倒なのに絡まれたなぁ面倒くさいなぁ、と思う程度でそこまで不幸だと思うわけでもない。
以上、ここ数日の間に起きた不幸な出来事でした。
って言ってもそこまで不幸だとは思わないよね。これ。
ちょっと間が悪かったとかその程度かな。
道を歩いてたら上から植木鉢が落下してきたとか、水が降ってきたとかの事故にみせかけてなのか悪意の塊なのかわからない感じの出来事の方がどっちかっていうと呪いとか人の悪意とか勝手に汲み取ってしまいそうな気がする。まぁそういうのはなかったんだけども。
一番目はホントちょっとしたタイミングの悪さが原因だろうし、二番目はまぁ、動物が暴れるような事に遭遇しちゃった不運な出来事ではあるけど呪いのせいか? って言われると微妙。
私にかけられた呪いのせいで周囲の動物が勝手に発狂するとかだったら、そもそも薬草採りにウルガモットの外に出た時点で魔物がやたらと活発に行動し始めるとかあってもおかしくはない。でもそういうのはなかったからさ。
三番目もこれ、呪いのせいとは言い切れないよね。ディットさんの美貌が悪い。
そう言っちゃうとむしろディットさんのあの美貌も何かに呪われてるんじゃなかろうか、むしろそっちの方が納得できる気がする。
とはいえ割と一気にこれらの体験をしてしまって、それらを目撃してたギルダーの人たちもそこそこいたようで、ギルド長からもちょっと気を付けろよ、とか言われてしまった。
気を付けた程度でどうにかなるとは思えないけど、これで全部って決まってるわけでもないのなら、いつ何が起きても冷静に行動できるように気を付けろよってのは言い分としてはもっともなんだよね。
何せ一番目の出来事が起きてから次の日に二番目の出来事だったし、三番目は更にその翌日だ。
三日連続でこんな事になってたらそりゃあ言わさるわ。私もそんな奴いたら「え、ちょっと気を付けてよ?」とか言うわ。
三日連続。
となれば次の日である四日目は警戒してしまうのも仕方がないと思う。
とはいえその日は別に何もなかったんだよね。
いつも通りに薬屋営業して、その後でちょっとギルドに顔出して、怪我してるギルダーがいたら治癒魔法かけて帰る。
三日間連続で負のイベントが続いたものだからそりゃ警戒はしたけれど、四日目は概ねいつも通りだったわけ。
で、五日目。
この日は依頼ついでに自分の所で使う薬草の確保に出かけたわけだ。
同行者はマトハルさん。
もうすっかりいつもの組み合わせみたいな感じすぎて、今更何を言うでもない。
ただ今回、依頼にあった薬草はいつも行ってる所とは少し違う場所にあるとの事なのでいつも通りに見せかけてちょっとだけ違う点がある。ただそれだけだった。
とはいえ、そこまでいつもの場所から離れてるわけでもなく、また魔物も出てきてもマトハルさんがすぐさま退治してしまっている。場所が違うだけでこれも概ねいつもの事だ。
「そういえば……ここから少し移動するが向こうに泉がある。そのあたりにも確かいくつかの薬草があったはずだが……どうする? 行くか?」
いつもと違う事といえば、マトハルさんがそんな事を言いだしたくらいか。
「泉、ですか……」
あるんだ。知らなかった。何か時々水音っぽいのが聞こえる気がするなーとは思ってたけど、湧き水か滝が近くにあるのかな? とは思ってたけど泉かぁ……
薬草があるというならちょっと足を運ぶのもいいかもしれない。まだ時間に余裕はあるし。
というわけで私はマトハルさんのその言葉に頷いて、その泉がある場所まで移動したのである。
泉、と言っていたがそこは小さな滝もあった。
あ、じゃあ時々聞こえた気がしてた水音はやっぱここからか、と納得はした。
水の落ちる音がするけれど、それだって爆音ってわけでもない。
水辺なのもあってさっきいた場所と比べるとちょっと涼しい。
それでいて、普段採取してるのとは別の種類の薬草がちらほら見えて、あっ、あれ地味に探してたやつだ! ってなったのもあって、私はいそいそと採取活動を開始した。
いやー、どうせならもっと早くにここ来たかったわー。
夏のもうちょい暑かった時期とかこの辺りで採取したかったわー。
などと思いながらもせっせと薬草を採る手は休めない。
既にある程度の薬草は採取していたから、ここで更に採るにしても採れる量は限られてる。というか、あまり大量に採っちゃうと持って帰るのも大変だからね。
なのでここでの採取はさくっと終わり、それじゃそろそろ戻りましょうか、となったのだが。
なんていうか、タイミング見計らってたんですか? って言いたくなるタイミングでそいつは現れたのである。




