お宝の気配があれば違った
洞窟ももうないので目的の場所にそのままザブンと沈むにはちょっと難しかったので、とりあえず砂浜からまだ多少浅い部分経由でそっちに向かう事にした。
一日経過してるとはいえ、洞窟があった場所にはまだ洞窟だった残骸がゴロゴロ沈んでる可能性あるし、そういうのに下手に引っかかる可能性もある。
というわけで移動は完全にルーウェンさんにお任せである。
波がギリギリ来るか来ないか、くらいの波打ち際でルーウェンさんと二人並んだところで結界を張る。二人がすっぽり入るサイズだけど、そもそも結界って目に見えないからさぁ。とりあえず二人を囲むまぁるい結界は発動させたら足下の砂をぎゅむっと押し付けたので、そこに結界があるってルーウェンさんの方でもわかったみたいだけど。
今回の結界は私たちが外に出ないように閉じ込める役目もあるけど、ここから海に入るぞ、となった時にちょっと移動しにくかった。丸い形だから仕方ないといえばそうなんだけども。結界を中から転がす感じで重心移動させていって海に入る。最初はそこまで深くなかったけど、進んでいくうちに深くなってあっというまにすっぽり結界は海の中だ。
遊泳できるタイプの海水浴場ならもうちょっと浅い部分があったんだろうなと思いつつも、結構簡単に深くなったので仮に海に魔物が出なかったとしてもここで私は泳いだりできなかったんだろうなー、なんて感想を抱いていた。
南国の底まで透き通って見える系の海ではないけれど、それでも海の中はまだ割と綺麗な方だった。
結界ごと突入した勢いで少しばかり砂が舞い上がっているけれど、先が見えないわけでもない。というか、明るい時間帯だからってのもあるかも。
これが夜の海なら真っ暗すぎてルーウェンさんに魔法で明かりを出してもらわないと駄目だったかも。
……いやでも、下手に明るくしたらそれはそれで何か目立ちそうだからな。こっちの世界の海にどういう生物がいるのかもわからないから何が起きるかわからないってのも結構怖い。
とりあえず海の中に入った途端やたらでっけぇ生物がいました、とかじゃないだけ良かった。
正直頭も完全に海の中に入る程度には深い所に潜って、直後に自分より大きな生物がいたら死を覚悟する勢い。結界があるからまだ若干余裕かましてられるけど、それがなかったら確実に硬直してその隙にやられててもおかしくはないと思う。
「洞窟があったのは向こうだったな」
結界の中は空気があるのと海水が入ってないから普通に会話できる。それもあってルーウェンさんはそう確認してきた。いやうん、海に入ったはいいけど、陸と違って景色がガラッと変わったからさ。ホントにあっちで合ってる? みたいな気になるのは私もだから確認しておくのは大事。
このままだとどんどん沖の方に流されていきそうなので、ルーウェンさんは小声で詠唱をして結界をどうにか横方向へと移動させていく。結界の中は空気があるとはいえ、浮く程でもない。今は徐々に沈んでいってるところだった。
洞窟からそこまで離れた所からスタートしたわけでもないので、目的の場所には案外あっさりと到着した……と思う。思った以上に深いんだよね。
洞窟があった場所だろうな、と思ったのは洞窟だっただろう岩がごろごろしてるからだ。底に沈んだ物の上に重なるように乗ってたりしてるのもあるけど、それも安定してるのばかりじゃない。不安定にぐらぐらして小さなものはゆっくりと更に底の方へ落ちていく。
もっと軽い物に関しては昨日のうちにとっくに底に沈んでいったか流されていったはず。
洞窟があったあたりから結界で潜ってたら多分うっかりそこら辺にぶつかってただろうな、って思ったので、砂浜からのスタートは間違ってなかったと思う。
とはいえ、ここに来るまでに魔物らしきものは見かけなかった。ついでに魚も正直見ていない。単純に私が気付いてないだけかもしれない。
岩があるあたりから更に進んでみる。
足下を見れば底は一体どれくらい深いのだろうか、何かいきなり深さが増してる気がする。
洞窟から海に繋がってた部分もそこそこ深くなってそうだなって思ったけど、あの場所から海に潜ってたら、下手したら海から顔を出すまでがとんでもなく大変な事になっていたのではなかろうか。
カナヅチだったらこのまま沈んで浮かんでこれないレベルの深さは絶対ある……!
「エルテ、あれを」
「え? はい?」
ルーウェンさんに指し示された方を見れば、底の方に何やら大きな影が見えた。
最初は何やら大きな岩でも沈んでるんだろうかと思ったけど、どうやら違うっぽい。
ルーウェンさんは魔法で光の玉を結界の外に作ると、それをゆっくりと下へおろしていった。
「……船だ」
光の玉が照らすそれを見て、ようやく理解する。
随分ボロボロになってしまっているけれど、それは確かに船だった。
メルドーラの漁師さんが使うような小さな船ではない。どちらかというと客船と言った方がいいような船が、そこにはあった。
「……あれは、まさか」
「知ってるんですかルーウェンさん」
「あぁ、かろうじて見えるあの紋章……間違いない。四年前に行方がわからなくなったシュミット家のものだ」
「シュミット家……ですか?」
あぁ、と頷くルーウェンさんだけど、正直私にはよくわからない。船を所有してるって事は商人か貴族で、多分貴族なんだろうなーとは思うんだけども。
私の反応からさっぱりわかってない、というのはルーウェンさんも理解したらしい。どこか困ったように視線を彷徨わせ――最終的に沈んだ船へと向ける。
「中、確認した方がいい感じですか?」
「あぁ、できる事なら」
「ボクは結界を維持するだけで、移動はルーウェンさんなので確認するというならさっさと行きましょう」
生きてる人間は流石にいないと思うけど、魔物が潜んでる可能性は充分にあるし魔物がいなくてもなんていうか……魚の巣になってる可能性はある。
船が沈んでるあたりは大分深くなってるので明かりがないと流石にロクに見えない。朝の時間帯でこれだ。夜ならもっと真っ暗だったに違いない。
……正直な話。
別に近くを鮫が泳いでるとかではないんだけど、いつ出てきてもおかしくない雰囲気がある。
鮫じゃなくても魔物が出てきてもおかしくない。
結界に包まれてるとはいえ、何の音も聞こえないわけじゃない。それこそ海に入った直後は波の音もまだ聞こえていたし、結界に波がぶつかった時の音だってしていた。けれど今はルーウェンさんが風の魔法で結界を移動させている時の水のうねりとでも言おうか。何とも言えない音がするのだ。大きいわけじゃない。けれど、なんていうかあまり馴染みのない感じがする。
B級ホラー映画とかにありそうな雰囲気すぎて正直地味にこの状況に負けつつあるといっても過言ではない……!
知り合いの作ったフリゲでミラちゃんが主人公だった時は大体こういった水の中に入るようなイベントもなかったしさ~!
別のゲームだと海底から海流に乗って別の大陸に行くとかいうイベントがあったと思うんだけど、少なくとも私が転生したここではそんなのなかったはずなんだよね。
ゲームに無いイベントと言ってしまえばそれまでなんだけど、だからこそ何が起きても不思議じゃない。
基本的に一本道RPGならまだしも、フリーシナリオ系だったら今の自分の実力ではどうにもならない難易度のイベントとかもするっとやらかす事が有り得るからなぁ……
ゲーム基準で考えると、って話だけども。
もし船の中で幽霊とかいたらどうしよう。
魔物がいるくらいだから、何かの拍子に魔物と同じ扱いの幽霊が出てもおかしくないわけで。
船に乗ってた人たちの亡霊とか出てもおかしくないよねこれ……
えっ、何で今更私こんなホラーイベントみたいなの始まっちゃってるんです……?
さっきまで町をちょいちょい襲うサハギンを追い払おうとかいう感じの流れだったじゃん。
そいつらどうにかしてたくさん倒したし、あとは残党が残ってないかの確認みたいなものだったじゃん。
なんでいきなり男女ペア――ただし自分が男装っぽい事をしているせいで両方男性に見えている――で肝試しみたいな事してるんだろう……?
いや、海の底に潜る手段が他になかったからってのもあるんだけどさ。
幽霊に結界って効果あったっけ……?
生憎今までの人生で幽霊と遭遇した事ないからわかんないんだよね。効果があるならいいけど、なかったらどうしよ……対応策が何もないとかそうなると流石に……身を守る手段もないまま猛獣の前に出るような危険度では……?
あれそう考えると鮫と遭遇するくらいは別に何も問題ない気がしてきた。だって鮫は結界で殴れるはずだもの。物理攻撃が通る相手ってそう考えるととても良心的。
いやまて、幽霊が出たとしてもだ。
あれってアンデッドとか死霊扱いでいいの? だとしたら回復魔法が攻撃魔法扱いになる可能性もワンチャン……?
効果があるなら恐れる必要はないけど、もしそうじゃなかったらルーウェンさんに頑張ってもらおう。
そもそもまだ幽霊は出てないし、出ると決まったわけでもないのに私は船に入る直前までこんなことを考えていたわけだ。
常に最悪の事態を考えてそれに備えているといえば聞こえはいいが、思った以上に深い場所、しかも割と暗いという状況で私はすっかりこの雰囲気にのまれていたのである。




