事後処理になるかは微妙だけれど
「すいませんちょっと足場固めまーす!」
前世で読んだスポーツ漫画とかだと、砂浜での走り込みは体力つけたり体幹鍛えるのにいい……!! みたいによく言われてたけど、流石に戦闘中にトレーニングしつつどうにかしろとか言われたらそれは無茶だと言いたい。
というか下手したら死ぬかもしれない状況下でそんなん無茶やん! ってなるよね。
いや、あの、ホントにね? 昼の間にここらで走り込みする、とかいう人がいるならそれはそれで構わないんだけどさ。今それどころじゃないじゃん?
怪我は即治せるけど、だからってじゃあすぐ治るなら問題なかろう、とかってある程度怪我をする事を前提に突っ込んでいかれても困るし。一撃で即死するレベルの攻撃とかで死んだら流石の私もお手上げだからね。
とはいえ私にできる事はそう多くない。
だからこそ、砂浜という若干不安定な足場をどうにかする事にした。
足下がしっかりしてたらお前らなんてうちのギルダーがあっという間に倒すんだからな……!
とはいえいきなり足下固めちゃうとビックリされるだろうから、一応それだけ宣言しとく。
仮にこれをサハギン側が聞いても、回復要員と判明するよりはまだ安全だと思われる。いやだって、足場固めるって発言で危険視されるような事ある?
何言ってんだ? みたいな目がいくつか向けられた気がしたけど、私はそれに構わずサハギンたちと戦ってるこの辺り一帯の砂浜に薄く結界を張った。
途端、誰かの靴がカツンと硬質な音をたてたのが聞こえる。
舗装された道のような強度になったのを察したのは勿論ウルガモットから一緒に来た仲間たちだ。
ついでにサービスで適当に目についたサハギンに結界ぶつけて殴っておいた。
いや、今までの乱戦っぷりだと下手な攻撃したらさ、いきなり目の前で何かに殴られたように吹っ飛ぶサハギンとか見て呆気にとられてその結果隙が……ってなりそうだったし。
でも今なら大丈夫そう。
すっかり固められた足場に、カイルさんが「でかした!」なんて叫んで豪快に武器をぶん回した。周囲にいたサハギンたちが可哀そうに纏めてずたずたになる。
「そういうのができるならもっと早くにやってほしかったんだがな……」
なんて呆れたように言ったのはルーウェンさんだ。
「いやあの、ボクそこまで動かないから思い至らなかったんですよね。ははっ」
てへぺろ、みたいなノリで笑えばじとっとした視線が向けられたけどすぐさまルーウェンさんも周囲のサハギンを切り伏せていく。
さっきまでは踏み込んで攻撃しようとしても砂のせいで下手したらそのままずるっと滑る事もあり得たけど、今は違う。他のギルダーの皆さんもさっきまでちょっと本調子じゃないんだよなぁ……みたいな感じだったけど、それが嘘のように動きが変わった。
その結果。
最初はむしろ向こうの方が数が多かったのに徐々に倒されていって気付けば大分サハギンたちの数も減っていた。どれくらい戦ってたんだろうか。
体感的には一時間くらいかな?
前半は割と回復だけして見てるだけだったから長く感じたけど、足下を結界で固めてからはあっという間に片が付いたからもしかしたら一時間かかってないかもしれない。いや、どうだろう? 時計見ながら戦ったりしてないからわかんないんだよね。
とはいえ、月もそこまで動いてないからそんな時間経過してないはず。
数える程度になってしまったサハギンたちはギャギャギャッ! と声を上げて、くるりと背を向けて海へと逃げた。
あの程度なら逃げてもまぁ……もっと大勢の仲間連れてくるかっていうと多分なさそう……かな?
あれ完全に怯えてたし。
サハギンの言葉はわからないけど、でも最初の頃の「ギギギ……ニンゲン、コロス」とか言ってそうな雰囲気と違って「無理無理無理!」って感じだったから。むしろ「命ばかりはお助けを~」とか言っててもおかしくなかった雰囲気ある。
ともあれ戦闘終了らしいので、私は砂浜に展開していた超薄型結界を解除した。
分厚く展開していたら今頃数センチとはいえ皆さんちょっとした落下体験をする事になってたけど、そういう事にはならなかった。
まぁ、分厚い方が強度もその分……ってなりそうなんだけど、あまり分厚くしすぎると最悪私の結界がギルダーの皆さんの足を取って転倒させる危険性があったからね。
ちなみに結界を敷いた後、今まで絶妙なバランス感覚で戦ってたサハギンはやけにバランスを崩す事が増えていた。
そこで気付いたんだけどさ。
サハギン、水から出てきたじゃん?
っていうか魚って大体ぬるっとしてるじゃない?
そのぬるぬるが多分足の裏とかにもあって、砂がそれにくっついてたのが多分滑り止めになってた可能性あるよね。でも結界が足下に展開された後は砂が自分の足の裏にくっついてる分だけ、となればそのうちその砂も取れたりするわけで。新たな砂の追加にはならなかったなら、逆に結界の上というのは彼らにとって馴染みがなく、またよく滑った事だろう。
ちょっとすり減った靴底で雨が降った日に出かけてそこから別の建物の中に入ったら結構滑る事あるけど、まさしくああいう状況になったのではないかと。
正直足場固めたらこっちが有利になるかなとは思ったけどそこまでは考えてなかったなー。
結果オーライ。グッジョブ私。
ついでに怪我は大体治癒魔法で治したから実質こっちは無傷。
まさしく完全勝利である。
とはいうものの。
逃げたあいつらが他の仲間を引きつれてくる可能性もあるから、ここで「はー、終わった終わった、それじゃ戻ろうぜー」とするにはどうかという話になったので、今夜もまた数名に分かれて見張りをする事になった。
とはいえ見回りではなくあくまでも海からまたサハギンたちが戻ってこないかどうかの見張りなので、あちこち動き回る事はない。
見張り時間を決めて、それぞれ決まった時間だけ見張って朝まで様子見である。
私は最初の方で見張りに名乗り出て、それが終わったらさっさと戻って寝る事にした。
ちなみに夜のうちに引き返してくるサハギンは出なかったらしい。朝になって、最後に見張りをしていた人から聞いた話だ。
で、朝になったわけだけど。
「とりあえず海の中も確認して来ようと思うんですよね」
なんて私が言えばカイルさんとルーウェンさんが「は?」と全く同じタイミングで声を出した。
いや、「は?」じゃなくてさ。
昨日の夜のあのたくさんのサハギンとか、あれおかしいレベルでいたじゃん。ゲームだったらこれ実は通常戦闘でイベント戦闘ですらないとか言われても納得できないくらいの連戦っぷりになってる勢いだったからね。
「エルテ、お前泳げるのか?」
「少しくらいは。でも流石に海の中を自由自在とはいかないでしょうね」
「……それで、見てくるとか言うのか?」
もう水の中とか第二の故郷と言っても過言じゃないし私の事はマーメイドとお呼び、なんて言えるくらいに泳げるっていうならまだしも、そうじゃないのにそんな事を言うとなれば確かにその反応も理解できない事はない。正直ちょっと失礼では? と思うのもそうなんだけど。
「とはいえ流石に見るだけで精一杯ですね。なので攻撃魔法が使えるルーウェンさんも一緒に来てくれると」
「……生憎俺は水中で魔法を発動できる程の実力はない。お前のように無詠唱でぽんぽん魔法が使えると思われるのも困る。できても無音詠唱が精一杯だ」
拠点に他にいた人たちもその会話を聞いて、そりゃそうだよなぁ、って反応をしていた。
無音詠唱は声に出さないで詠唱する事であって、その分発動までに時間が多少なりともかかる。水中で使えないわけじゃないけど、息ができないのだから呼吸が続かなくなれば最悪その詠唱も途切れる。ルーウェンさんはそれ含めて言ってるんだろう。
「あ、大丈夫です。結界ごと行きますんで」
「…………そういう事か」
しばしの沈黙の後、ルーウェンさんはようやく納得したようだ。
実の所数日前。まだメルドーラに来る前の話だけれども。
雨が降った日があった。
それも結構突然の土砂降り。
たまたま外に出かけていた私は勿論傘なんて持ってなかったし、家までは少し遠かったし、かといって雨宿りできそうな場所もなければしたところでいつ止むかもわからないとなれば、さっさと帰るのが最善だと思ってそのまま帰るために移動していたわけなんだけど。
その時にそうだ、結界があるじゃない。と閃いて結界を頭上に展開した。結界もものによっては水を通す場合もあるけど、今回は雨水を防ぐつもりでやったので結果として私は透明な傘を差してるような状態になって無事びしょぬれを回避できたのだ。
でもちょっと足下は濡れた。もっとしっかりやっとけば完全無傷だったのになー、まぁ次にこの失敗を活かす事にしよう。
そう考えていたわけだけど、あの時確かルーウェンさんいたんだよね。とはいえ向こうは家の用事か何かで出てたのか、馬車に乗ってたから向こうも濡れるとかそういうのはなかったけど。
「あの時、雨降ってる割に濡れてないなとは思ったけどお前の結界は何でもありか……」
「なんでも、かどうかはわかりませんけど。ちょっと応用がきくだけです」
でも今回もあの時と同じように海水を弾きつつ潜水はできると思う。
とはいえ、潮の流れを読めるわけでもなく、ただ入るだけとなれば私一人じゃ間違いなくどんぶらこっこと流されていくのが明らかだ。流れ流れていった先でどっかの島に辿り着くとか別の国に辿り着くとかならいいけど、大型の生物にぱっくんちょと一飲みされたら流石に困る。それに漂う期間が数日ならともかくいずれ結界を維持できなくなったらその場でジエンドだし、辿り着いた先が無人島だったらやっぱり最悪衰弱死だ。
無人島生活とかいう番組が前世であったけど、あれだってさ、一応かろうじて多少の資源がある無人島じゃん。完全に岩場しかない食べ物もなく水の確保も難しい、みたいな所ではないじゃん。でも私の場合そういう所に流れ着く可能性もあるわけじゃん。
ここでもう一人、攻撃魔法とかが使えるルーウェンさんがいないと困るわけだ。
水の魔法と風の魔法が使えるなら移動も多少の舵取りはできるだろうし、酸素の問題も多分どうにかなると信じたい。
そこら辺を説明すれば、とっても渋い顔ではあったけれど反対はされなかった。
だってあの洞窟があったあたりにもし本当に何か――それこそサハギンだけじゃない、魔物を呼び寄せるような何かがあった場合、メルドーラの危機は去っていないという事になるわけで。
折角サハギンたちを沢山倒したからこれで一安心だな、なんて私たちが帰った後、メルドーラが別の魔物に滅ぼされました、なんて報せが来てみろ。こうして頑張ったの無駄に終わっちゃうわけだよ。頑張ったのはどっちかっていうと私よりも他の皆なわけだけども。
なので、何もなければそれで良し、何かあったらその時考えようって事でまずは私とルーウェンさんが海の中に潜って洞窟があった付近を確認する事は決定された。




