総力戦
とんでもない事になった。
夜になった途端、海からサハギンが大量に押し寄せてきたのだ。
こんなにいたの!? っていうくらいいた。
日が沈んですっかり暗くなった夜の海。そこから頭を出してこちらを見ているその目は爛々と輝いてじっと見据えている。最初何かと思ってビックリしたわ。
「来たぞ! 構えろ!!」
カイルさんの声がして、近くにいたギルダーの人たちが一斉に武器を構える。
海から出てきたサハギンたちがどこで調達したのかわからないけど槍だとか銛だとかを構えて突撃してくる。あらかじめ結界張ってなかったら私、串刺しになってたんじゃなかろうか。いや、私後方にいたからまず間合いにも入ってないんだけど、なんて言うか殺気が凄くて。感覚的に「あ、これヤバいな」って察するしかない状況だったよね。
メルドーラの自警団の人も数名いて、そっちもそっちでサハギンたちの攻撃をどうにか防いでいる。普段ならもうちょっと持ちこたえられたんだと思うけど、今日のサハギンはいつも以上に殺気が凄いというか、勢いがある。
いやうん、でしょうねぇ……って元凶が言っていいものかわかんないけど。
多分、あの洞窟があった場所の下、やっぱ何かあると思うんだよね。
で、その洞窟を壊したわけで。
崩れた洞窟は大小さまざまな岩となり海に沈んでいったわけで。
小さいやつは多分潮の流れに乗りつつそこら辺に落ちてったとは思うし、海底に落ち切る前に遠くに流れていったかもしれない。でも大きな岩のまま海に落ちてった部分はそう簡単に流れていったりしないだろう。
その場から動かない事はないだろうけれど、流されるにしてもとてもゆっくりになるんじゃないだろうか。海がめっちゃ荒れたらわからんけど。
もし、あの場所に何かがあったとして。
そうなったらいきなりでっかい岩がごろごろ落ちてきたわけだ。
まぁ、怒るよなぁ……とは思う。
でもまさかこんなに出てくるとか思わないじゃん?
右見ても左見てもサハギンが目に映るんですけど。ゲームだったら一度の戦闘に出てくる魔物の数の最大数が表示された挙句、倒してもすぐさま連戦で同じように一度に画面に表示される分の敵がドン! と出てくるやつ。
しかも連戦も下手したら二度三度で終わる感じじゃないんだよね。下手するとあまりにも同じ戦い繰り返し過ぎてプレイヤーが「もしや……負けイベント……?」とか勘繰るやつ。絶対そう。
もしくはある行動を取るまで延々と戦闘させられるタイプのイベントか? とか疑うやつ。
ゲームだったら回復手段に余裕があってついでに時間に余裕があるならここでレベル上げとかできるかな、とか思い始めるかもしれないけど、結局そこで延々粘るより先に進めてもうちょい強い敵から経験値稼いだ方が確実ってなるやつだと思うの。
とりあえず私の少し前の方でルーウェンさんが戦っている。
ルーウェンさんは魔法が使えるとはいえ、これだけサハギンいっぱいとはいえこっち側の人たちもいっぱいいて混戦状態になってると魔法を使っても味方を巻き込むから普通に前に出てるんだとは思うんだよね。
ゲームだとたまに味方も巻き込むタイプの魔法とかあるけど、大抵のゲームって味方まで吹っ飛ばしたりしないじゃん? 大体敵と混戦状態になってても何故か味方だけ回避して敵だけ魔法で薙ぎ払っちゃうのがデフォルト、みたいになってるけど、生憎と攻撃魔法をそういう風に使おうとするととっても集中力が必要になるのだとか。
夜になる前にルーウェンさんに聞いてみたら、混戦状態で魔法使うとか自殺行為だぞとか言われたので。うん、ゲームだったらね、どんだけ高威力の魔法使っても味方は絶対巻き込まれないとかなんだけども。現実はそう甘くなかった。
というか、その話を振った時点で「お前が規格外なだけだ。普通にできると思うな」と言われてしまった。
え、私そんな規格外かな?
確かに無詠唱で魔法を発動できるとはいえ、使えるものは結界と治癒。回復魔法だ。
もし攻撃魔法が使えた場合、やっぱ味方巻き込んじゃうんだろうか……いやでもなぁ、何かその場にいる敵全部は無理でもある程度認識できてる敵だけならどうにかなりそうな気がするんだよなぁ……
別のゲームで何か敵にマーキングというか、ターゲットにしてそいつ重点的に攻撃するように指示を出すとか、何かあったし。その応用であらかじめ目印つけた相手にだけ発動するような攻撃魔法とか頑張ればできるんじゃないかなぁ……と思わなくもないのね?
まぁ、下手にマーキングしてますよ、ってあからさますぎるとそのマーキングを消そうとして術者を率先して狙ってきそうだけど。
ほら、これも別のゲームにいたと思うんだけど、味方一人に攻撃を集中させるような指示出してくる敵キャラとかさ、下手に防御力もないタイプに狙い定められると困るしそういうのも最初のうちに倒そうとするじゃん?
壁役に狙いが集中する分にはいいけど、魔術師タイプとかヒーラーに攻撃集中させられるような事になったら防御に徹しても下手すりゃ戦闘不能になりかねないし。
敵全体に魔法は無理でも、1グループとかそういう感じでならいけるのでは?
なんてのもぽろっと漏らしたらその話は後日改めて聞くとか言われてしまった。
え、って事はこの世界の魔法使う人たちってそういうのはできない感じか?
なんて思ってきょとーんとしてたらルーウェンさんに何故か溜息を吐かれた。解せぬ。
ともあれ、こんだけ敵味方入り乱れた状態だと攻撃魔法なんて使う以前の問題なのだとか。
とりあえず私はルーウェンさんに守られる形の場所にいて、怪我をしたらしき人にかたっぱしから治癒魔法を発動させていく。結界とかも発動させればいいのかもしれないけど、守りに徹してるならともかくこれから攻撃しますよって人に結界張ると逆に邪魔になるからなぁ……
とりあえず砂浜から先、メルドーラの町側にはまだサハギンたちは行っていない。というか、砂浜で食い止めてる状態というか、砂浜が戦闘フィールドというか……
自警団の人たち数名が砂浜を照らすように篝火焚いてくれてるので、視界はそれなりに。月明かりだけが頼りです、とかなると私も誰が怪我をしてるかわかんないからね。適度な明るさ大事。
こうして見ているとルーウェンさんとカイルさんがダントツで強いんだなぁ……と思えるが、ウルガモットから一緒に来た他のギルダーの人たちも中々に強い。
というか、私と比べたら皆強いんだけどね! どうも! 戦闘能力5か、ゴミめ……とか言われる以前の非戦闘員です!
怪我をしてく片っ端から治してってるけど、ギルダーの人たちはそれにある程度慣れてるけどこっちの自警団の人たちは慣れてないのか、治った直後に「!?」とかいう感じで一瞬混乱してるっぽいな……いやでもここで私が大声で「私が治しました!」とかやったら流石にサハギンの狙いがこっちに集中するからなぁ。
人の言語を喋ったりはしてなくて、ギャアギャアギュイギュイって感じの鳴き声? キシャーとかそんな感じの音は聞こえるけど、多分あれサハギン同士で意思の疎通はできてるっぽいんだよね。ある程度の知能があるなら、下手に私が回復要員なんて宣言したら間違いなく狙いがこっちに集中しそう。
結界で身を守れるけど、なるべくこっちにサハギンが接近しないように頑張ってるルーウェンさんの負担が倍増しそうなので余計な宣言はしないに限るな。
とはいえちょくちょく怪我をしてるのは何でだろう、カイルさんとかも致命傷みたいな酷いのは回避できてるけど、小さなかすり傷は結構できてるんだよね。
ルーウェンさんも同じく。
というか皆大体そんな感じ。
何でだ? とか思ってるとたまたま視線を向けた先にいたカイルさんが僅かにバランスを崩した。
あっ。
砂か。
そうか、砂浜。
土は踏み固めたらそれなりにしっかりした足場になるけど砂ってそうでもないもんな……
前世で海にキャンプしに行った時にテント張ったけど、下の砂が結構デコボコしててそのせいで寝て起きたら何か身体がギシギシするってなったのも一度や二度じゃない。ある程度ならして平らにしようとしても、なんだかんだテントの中に入ってちょっと移動したり寝転んだりしてるうちに、微妙な凸凹ができちゃうんだよね……
そっかー、さっき別のギルダーが何でそこで攻撃外した? みたいな事になってたけど、あれも砂に足とられてバランス崩した結果かな……
サハギンはあまりそういうの影響受けてないんだろうか……と思って見てみれば、意外にも足さばきが軽やかである。嘘だろ……何か魚人っぽい顔して身体は人っぽいけど表面ぬめぬめしてるし両手両足に水かきもついてるから武器とか持つのもそんなしっかり握りしめたりできるか? とか思ってたけど、意外と器用になんとかなってるっぽいのが解せない。
砂に足とられてよろけた、とか思ってもすぐさま体勢整ってるんだよね。体幹がしっかりしすぎでは? 何? 絶妙なバランス感覚の持ち主とかなの? 種族全体で? 嘘でしょ?
それとも今怒りとかそういうやつでボルテージ上がりきってるから勢いに乗ってるだけ? どっちにしても長期戦に持ち込むとこっちが不利では……って気がしてきた。




