原因がわからない
見回りに行った先でサハギン二体と遭遇し、それはあっさりとカイルさんが倒してしまった。
わー、つよーい。
こっち見て襲い掛かってきたサハギンほとんど一瞬で切り捨てたよ。
カイルさんが一体、ルーウェンさんが一体、とかではなくカイルさんが二体同時にスパッと。
こうやって見てるともしかしてサハギンそこまで強くはない? と思いそうだけど、多分カイルさんが強すぎるだけだなきっと。私が一人で挑んだら倒すまでにどんくらいかかる事やら。結界で殴れば多少の不意打ちにはなると思うけど、一撃で殴り殺せる威力が出せる気がしない。いやだってさ、ちょっと想像してみてほしい。
これが例えば小さなネズミの赤ちゃんとかならさ、確実に殺せると思う。想像すると可哀そうだけど。
でも生まれたばかりのロクな抵抗手段も持たない皮膚もお肉もやわらか~い存在ならまぁ、殺そうと思えば可能だと思うんだよね。大きさも小さいしやろうと思えばそれこそ手で握りつぶすだとか。
……想像するととても可哀そうだから実際にはやらないけど。いやだって、それで死ぬようなか弱い生物をあえて殺そうとか、正気か? 罪悪感とかお持ちでない?
例えば毒を持ってますとか病気を媒介するので見かけたら処分してくださいとかならこっちの命も危険に晒されてるだろうからやると思うけど、そうでもない……そうだな、リスの赤ちゃんとかハムスターの赤ちゃんを、わざわざ殺そうとする事って、ある?
例え増え過ぎて間引かなきゃ、とか思うにしたってまず貰い手探さないか??
まぁ、自分より圧倒的に小さい生物なら、殺そうと思えばできるだろうなぁ、と思うわけですよ。
でもさ、サハギンて大体人間と同じくらいの大きさなのよ。成人してる人間サイズ。
そりゃ多少の誤差はあるけど、私と同じくらいのサイズからもうちょい大きめの……それこそカイルさんと同じくらいの大きさのサハギンもいるわけで。
で、そんな人間サイズの相手を殺そう、ってなった時に、さっき想像した子ネズミの赤ちゃん殺す方法でいけると思う? 無理だよね。どう考えても耐久度合的にも無理だよね。
人間相手なら首絞めるとか後頭部に鈍器振り下ろすとか首の骨折るとか心臓一突きとかまぁそれなりに色々な方法あるけど、子ネズミの赤ちゃん殺そうとした時と同じように両手で包んでギュッ! とかはさ……首あたりならともかく抱き着いた状態でギュッ! として絞め殺せるだろうか。
鍛えてるなら可能かもしれない。でも私には無理だ。そこまでの力はない。
というかサハギンじゃなくても普通の人間相手でも抱き着いて絞め殺すとか無理では?
首狙えばどうにか……とは思うけどそんなん相手も抵抗しますわ。
まぁつまり何が言いたいかっていうとだ。
結界で殴ってどれくらいの威力を出せば殺せる威力になるのか想像がつかない。
ちっちゃいハムスターとかはね、下手にギュッ! としたらまぁ死ぬよなぁ……って何となくわからんでもないのよ。でも人間の耐久度合ってどれくらい? って言われてもすぐさま理解できる人、いる?
一般市民でそういう人、いる?
何か殺しとか仕事でよくやってます、みたいな人ならそこら辺の加減とかもわかるのかもしれないけど、私のような非戦闘員で荒事とは基本無縁な存在でそういうのに詳しい人、いる?
世界中探したらいるかもしれないけど、でもそんな多数いないと思うのよ。いたら怖いな。
前に盗賊たちから情報聞き出すのに結界で殴った時はさ、大体これくらいの威力で……ってある程度人を殴る時ならこんなもんだろ、みたいな感じでやったけど、あれ以上の威力はちょっと出せなかったんだよね。
あまり勢いつきすぎて殺しちゃったら不味いかなって思いもあったし。
人間ですらそうなのに、魔物相手にどれくらいの威力でやればいいんだろうか、ってのがいまいち掴めない。
全力でやっちゃえばいいじゃない、と思われるだろう。でもね、それやって下手に勢い余り過ぎて周囲にまで被害が出るような事になると大変なのよ。
あまりにも強すぎる威力になってた場合制御不能になって、とかいう可能性が出てくる。
制御不能になった挙句それが自分の方にやってきた、なんて事になったら最悪自滅だ。
例えばの話だけど。
山で木を切るのにチェーンソー使ってるとして。
切ってる途中でちょっと角度変えようとしたら木のすぐ近くにあった岩にかすっちゃって、チェーンソーの刃が欠けたと想像してください。
その欠けた刃は果たして制御可能でしょうか? って聞かれたらまぁ無理ってなるよね。
しかもその欠けたやつが跳ね返ったりして足にザクー、なんて刺さったら。
絶対痛いと思うのよね。
全力でやらかしたとして、制御ミスった場合のまだ優しい展開での怪我が上記に近い状態だと思われます。
そしてダメージを思った以上に食らった場合、術者の集中力は持続できるかっていうと多分無理。そうなると新たに治癒魔法とかも使えなくなるだろうし、圧倒的に自分が不利な状況になってしまう。
なので現時点での私の結界は基本的にぶん殴ってある程度弱らせてからじゃないと、トドメを刺すにも難しいんだよね。
一撃で仕留める一連の流れが自分の中で掴めていないのが原因だと思う。
かといって人様が一撃で倒してるのを見てもあまり参考にはならないんだよね。
確かにマトハルさんとかは一緒に素材採取に行った時遭遇した魔物とか盗賊とか簡単にサクサク仕留めてるけど、実際それにどれくらいの力がかかっているのかだとかがわからないからね。マトハルさんに聞いても大して力は使ってないとか言われてもさ、マトハルさんの基準と私の基準が完全一致してるわけでもないから……
結局のところ自分で感覚を掴むしかないわけで。
とりあえず洞窟の中に入ってみたけど、こっちの気配を察知したのか奥の方でダボン、という水の中に何かが沈むような音がした後は静かなものだ。
「この下にいるのがわかっていても、こうなるとどうしようもないな」
「ですねぇ。ここ壊すにしてもまず許可を得ないといけないわけだし。というか、流石に今やっちゃうと爆発音でメルドーラの皆さんびっくりしちゃうし。事前告知しないと怒られるのこっちでしょうしねぇ」
「というかだ、ここ壊したとして、こいつらここに集まらなくなるって確証もまだないわけで」
カイルさんがとてももっともなツッコミを入れた。
「うーん、なんでここに集まってるんだろうか、って考えて、まぁ一つは集まりやすいからだとは思うんですよ」
堂々と普通に海から砂浜に向かって上がってきたら、流石にメルドーラの人たちだって気付く。そうなるとどうなるかっていうと、当然追い払うか場合によっては退治するわけだ。
それはサハギン側からしても望むものじゃないだろうし、ならこっそりひっそり上陸できそうなこの洞窟はある意味打ってつけ。
「でも、他に理由がある、と考えるのも有りかもしれません」
サハギンが何を思ってここに来ているのか、というのは実の所わからない。
単純に縄張り拡大のためにここに来たのか、それとも他の理由があるのか。
どっちにしてもサハギンは人の言葉を解さないし、サハギンの鳴き声をこちらも理解はしていない。相互理解は無理なのでそうなるともうサハギンがここから逃げて近づかなくなるか、メルドーラの皆さんがこの町を捨てて他の所へ行くかしないといけないわけだ。
意思の疎通ができれば共存の道もあるかもしれないけど、無いからなぁ。
「他に……例えばこの下、もしくはこの近辺の海に何かがある、とか……?」
私の言葉にルーウェンさんはそんな風に呟いて考え込んだ。
あぁ、うん。確かにそれも考えられる。
洞窟の外、砂浜から海に行く分にはいきなり深くなってないけど、この洞窟と繋がってるところから海に潜ろうとしたら結構な深さがありそうだもんなぁ。底が見えないから気軽にちょっと潜ってみるね、とかは怖くてできない。
というか一応泳げるけどいきなり足のつかない深さのところから行けって言われたら流石にちょっと……
基本は海水浴場で遊泳できるエリア内でしか海なんて関わった事ないもんなぁ。
とりあえずここでこうしていてもサハギンたちが戻ってくる様子はない。多分こっちの気配を窺ってるだろうし、ここに私たちがいる以上向こうも出てこようとはしないだろう。こっちから潜っていかない限りは。
カイルさんもルーウェンさんもこれ以上ここにいてもどうしようもないと判断したらしく、私たちは洞窟を出て他の場所もついでに見回る事にした。
こう……なんていうか、この手のイベントっていったらアレだけど、こういう場合ってなんかやたら戦闘が発生するんじゃないかと思ってたけど今のところはさっきカイルさんが倒したサハギンくらいだからなぁ。
今回の見回りも、こっちは特に何もなかった、と言っていいんじゃないかな。
応援で呼ばれた以上何もありませんでした、は逆にどうなんだろうって気もするけど。




