参加した理由
結局のところ。
海辺の町の魔物退治に参加する事にしたよね。
メルドーラと呼ばれるそこは港町などではないらしく、普通に海が近くにあるだけの町だ。
ウルガモットと比べると大きさは半分よりも下、といったところだろうか。
ギルドがなくて、町の守りは自警団が主流。
騎士団はこの町にはないらしく、町にいる騎士は町で暮らす貴族たちの護衛なんだとか。
なので数が圧倒的に少ないのでこちらはあまり頼りにならないらしい。
成程、そりゃちょっと離れた街のギルドに応援要請するわけだわ、って理解はした。
正直行く事はとても悩んだ。
それはもう切実に。
行っても行かなくてもなんらかのイベントが発生しそうな気がしてとても悩んだ。
行った場合はさておき行かなかった場合向こうで参加したギルダーの人たちが大怪我をするような事態に……だとかね、想像したわけで。
ウルガモットに居た場合も何らかのイベントらしきものが発生するんじゃないか、とは考えたけど、仮に私がいなかったとしてもそこまで大した事は起こらないのではないか? と思った次第。
だって元々私がここのギルドに参加してまだ数か月程度だ。
以前は私がいなかったんだから、いない場合に何かあってもこっちはまだどうにかなりそうだなって思ったんだよね。
まぁそれ言っちゃうとメルドーラに行く人たちもそうなんじゃないの? って話なんだけど。
正直馬車に乗るのはとても気が進まなかったけれど、すまん、新鮮な魚介に惹かれた。
メルドーラは港町ではないけれど、漁業で生計を立てている町なんだそうだ。
で、ウルガモットに届く魚介類の半分ほどはこのメルドーラから魔法で凍らせたりして運ばれてくるのだそう。
ウルガモットの近くにあるのは川だから、売ってる魚の大半川魚だとばかり思ってたら海のお魚も売っててあれどっから来てるんだろうかなー、とか思ってたんだけど謎が一つ解けた。
そして私は考えた。
ウルガモットにいて、何事もなく終わったとして。
もしメルドーラの町が魔物によって被害たっぷりになった場合、ウルガモットの街で売られるお魚の大半が消えるのではないか? と。
由々しき事態……これは由々しき事態ですぞ……!
魚とか骨とか取るの面倒だしたんぱく質なら普通に肉食えばいいじゃん、って人もいるとは思う。
まぁ私も魚の骨が面倒だなって思う事それなりにあるし。
でもさあ、やっぱたまに焼き魚とか煮魚とか食べたくなるんだよね。
ムニエルとかはそうでもないけど、塩で焼いたやつに大根おろしと醤油、もしくはポン酢の組み合わせとか何かたまにむっしょ~に食べたくなるんだよね。
でもさ、いざ食べたいな~、よーし今日の夕飯は焼き魚! 君に決めた!! とか思ってお店に買いに行ったとするじゃん? ところがいつも仕入れてた町が魔物によって壊滅とまではいかないけれどとってもいっぱい被害が出て当分お魚は……みたいになってみろ?
食べたい時に! 食べられないッ!!
こっちの世界って物流前世と比べてまぁ不安定なわけよ。
そりゃ前世の世界魔物とかいなかったもんね。場所によっては海賊とか現代でもいたみたいだけど、少なくとも私が前世で住んでた国の周辺で海賊が出たって話は聞かなかったなぁ。
そんなんなので場合によっては届くはずだった荷物が届かないって事もあるのよ。魔物の襲撃。盗賊の襲撃。うーん世知辛い。
前世だと地震の影響だとか大雨大雪の影響で貨物が~みたいな感じで路面状況で滞る事はあったけど、それだって数日後にはほぼ元通りだ。
でもこっちだと届けるための人が道中で死んでる可能性高いから、荷物もこう……時に魔物の腹の中、場合によっては盗賊に持ち去られそっから独自のルートで売られていく感じだろうか。
前世だと魚介がそれ以外で店に入らないってのはせいぜい時化の場合とかそんなんだろうか。でもそうじゃなかったら大体食べたいなーって思ったらどうにかなってた。
でもこっちの世界ではそうでもないわけで。
食べたいなーって思った時に食べられないと余計に食べたくなったりしない?
食べ物に限った話じゃないけど欲しいなって思った時に手に入らないと何かすっごく欲しくて欲しくて仕方がない、みたいになったりしない?
発売前に興味なくてスルーしてたゲームソフトが、でもなんか周囲の話聞いてたらむっちゃ面白そうやん! ってなっていざ買いに行ってみればどこも売り切れ、ってなったらすんごくやりたくなったりしない? まぁそういう時はデータのダウンロード販売があるだろって話だけど、それがなかった時代もあるんだよ。
ゲームじゃなくてもたまたま買おうとした矢先にすんごいブレイクしちゃって書店から姿を消して重版待ちみたいな本とか。
服とかもさ、買おうかどうしようか悩んでるうちにセール始まって、あ、それじゃ買っちゃおうかな次の休みにでも、とか思ってるうちに売れてたら、そこはかとなく後悔したりするじゃん? 何故もっと早く買わなかったのか……みたいな。
物によっては諦めがつくものもあるけど、そうじゃないともう物欲がとんでもなく成長していくわけですよ。そう考えるとやっぱ除夜の鐘って効果ないんだなって思うよね。あれ鐘の音を聞くんじゃなくて、直接お前の頭で鐘をつけって事なの? 脳細胞粉砕して煩悩ごとクラッシュさせろって事なの? 死ぬわ。
いやまぁ死ねば欲とかあったもんじゃないけども。
ともあれ、食べたいなって時に店に何にもありませんでした、というのを回避するために私は参加を決めたのである。食欲に負けたと言われればそれまでの話。
いやでもさぁ、娯楽の薄い世界での楽しみってなーんだ、ってなったら割と食べる事が趣味、みたいになっても仕方なくない?
インドアに徹するにしても部屋の中でできる事もたかが知れてるし、かといってアウトドアに精を出すにしてもそれだって限度がある。それなりに生活のために身体を動かす事は必須だからそこそこ動いたらやっぱお腹が空くわけだし。そうなると、やはり美味しいご飯は必須……ね?
ちなみに馬車の中の揺れに関しては結界使ってどうにか上手い事固定できないだろうか……とか考えたりもしてたんだけど、同じくメルドーラの町に行く事になったカイルさんが御者台の方に乗せてくれた。
馬車で行くとは聞いてたけど、御者の人いなかったんだよね。
えっ、馬車だけ借りて運転はギルダーの皆さんでやるの? マジかよ……って驚いたのは秘密だ。
私馬とか乗った事ないし馬車の運転というか操縦? まぁ操作とかできませんよって言ったけど、それはわかってるって真顔で返された。マジレスもそれはそれで何かこう、心にくるね。
とはいえ、馬車の中より御者台の方がちょっとだけマシに思えた。というかカイルさんの馬車の扱いがとんでもなく上手かったからではないかと思う。思ってた以上に揺れなかったんだよね。念の為酔い止めのお薬も持参してきたけど、これなら必要なかったかなって思ったわ。
……私じゃなくて、馬車の中の他のギルダーの皆さんには必要かもしれないけど。
ギルド長の話だと丸一日かけて馬車で行く、みたいな感じだったけど実際は朝早くに出発して夕方には着いた。昼のうちに到着するようにすると前日の夜出発になるから、そうなるとその分荷物も増えるのだとか。まぁ、灯りとかいるよね。魔法で照らすにしても誰がそれやるのって話だし。
それに暗い所で明るい魔法なんて使えばここにいますよって目印になってしまう。
やってくるのが魔物か盗賊か……どっちにしてもそんなのとエンカウントしたら蹴散らすなりしないといけない。余計な労力を使う事になる。
だからこそ移動は朝、日の出ギリギリになってからなんだそうだ。明るいなら灯りを用意する必要もないしね。
まぁ、メルドーラに到着したとはいえ、その時点で大体皆眠さマックスになってたけど。
途中カイルさんが他の人と馬車の操縦を交代したりもしていたけど、馬車の中で休憩するにしても、休んだ気がしないと思う。私は最初から最後まで御者台に居させてもらったけど。
……でもあれ、馬車の中で揺れるの困るなぁ、っていうのに対する親切心というよりは、馬車の中で揺れないように身体を固定させる結界展開されたらその分他の連中のスペースが狭くなって困るとか、はたまた魔物や盗賊が出ても開幕結界殴りで仕留めてくれっていう魂胆があったのではないかと思っている。
メルドーラに到着したとはいえ、流石にこの状態じゃ使い物にならないのでは、と思ったけど実際に私たちが行動するのは今日ここで休んで明日になってからなんだそうだ。
この町にギルドはないので、拠点扱いできる場所がない。とはいえ、この町の応援要請でやってきたのでこの町に二つある宿のうち小さめの方一つを貸し切る事になっているんだとか。
太っ腹……って言っていいの、か……?
とりあえず今日の所はしっかり休んで明日から頑張るぞ!




