表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一体どうしろと  作者: 猫宮蒼
一章 自衛のために好感度とかもっとわかりやすくしてほしい

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/267

パン屋の朝は早い



 寝ないで一晩中ディットさんを看ている……とまではいかなかった。

 いや、なんていうか、途中でディットさんが寝返り打った時に普通に腕動かしてたから、あぁ、ちゃんと動いてるな、ってなったんだよね。

 これなら明日の朝改めて回復魔法かけたりするので大丈夫かな、って。勿論これが腕が動かせない状態だったらそういうわけにもいかなかったかもだけど。


 もし、もし朝になってディットさんが起きてその時に腕がマトモに動かなくて回復魔法かけても駄目、ってなったら最終手段としては改めて腕をぶった切って再度回復魔法をかけなおす、っていう事になるとは思う。

 私だったらごめんだわ。改めて腕を切り落としにかかるとか、めちゃくちゃ痛いやつじゃん。


 とりあえずは大丈夫そう、と判断したのでじゃあ私も今日のところは寝るとしますかね……と思ってベッドに入る。流石に寝ずの番をするつもりもないからね。ディットさんの怪我がもうちょっと酷い状態だったらどうなってたかわかんないけど。



 ――で、朝になって起きてみたら。

 上半身を起こした状態のディットさんがじっとこっちを見ていました。

 えっ、何!? 心臓に悪い。

 意識が回復したのはいいけど、なんでじっとこっち見てんの?

 人の寝顔とか見て楽しいか?

 正直家で寝る時と違って服のまま寝てるから、ぐっすり眠れたかっていうと実のところそんなんでもない。

 マフラー首に巻いたまま寝てるのがやっぱ不味かったかな……下手したら寝てる間に首絞まってる可能性があってもおかしくない。

 普段家で寝る時は当然マフラーなんて巻いたまま寝ないし、髪も一応結んでたのをほどいて寝てる。

 しかし今回はギルドに泊まる事になったので、マフラーは一応巻いたままだし髪も結んだ状態で寝てた。鏡で見てないからわかんないけど、起きた時点で多分髪はボサボサになってるはず。結んでても変な部分でたわむ感じというか……まぁ、後で梳かして結びなおすのはやるけども。


「……おはようございます。調子はどうですか?」

「あぁ、おはよう。調子か、調子ね……悪くはないよ」

「腕は動きますか?」

「あぁ、問題なく」

「違和感とかもありませんか?」

「そうだね。驚くくらいに普通だよ。てっきり、取れてしまったかくっついていたとしてももう二度と動かないんじゃないかと思っていたけれど」


 まだ半分眠いなーと思いながらも声をかければ、ディットさんはいつから起きていたのだろうか。私が思った以上にしっかりとした口調で返ってきた。

 って事はこれ多分起きてベッドから出ないままとはいえ、一応腕ある程度動かしてちゃんと動くかどうか試してたっぽいな……


 確かにあの時の怪我は酷いものだったから、あの時点で気を失う直前に起きたら腕がとれてる可能性だとか、はたまたくっついていたとしてもマトモに動かないかもしれない、と考えてもおかしくはない。

 けれどもいざ起きてみれば、腕はちゃんとくっついてるし動かせばきちんと動いている。

 それ以前に自宅でないのはすぐにわかっただろうし、周囲を見てここがギルドであるとディットさんなら気付いただろう。そこで他のベッドで私が寝てたのを見て、大体察したってところかな。


 正直まだ眠いなと思わなくもないんだけど、流石にここで二度寝はどうかなと思ったのでもぞもぞと身じろぎしつつも起き上がる。とりあえず顔とか洗いたい。

 髪は結んだままだったしなおかつマフラー巻いてあったから思ったよりもボサボサじゃないけど、それでも一度髪をほどいて梳かして結び直さないと後頭部のあたりがきっと酷い事になっている。鏡がないからわからないけど、手を後ろにやって触った感触からなんとなくわかる。


 このギルド、一応こうして仮眠できる部屋があるし、ついでに洗面所とか風呂場らしきものもあるから身支度するのも問題はない。

 ただ、風呂場に関しては湯船にゆっくり浸かって、って感じじゃないんだよね。どっちかっていうとシャワー浴びるだけみたいな。基本的にここでのシャワー室の使い方は酒飲んで酔っ払って吐いたとかだけならまだしもそれが身体にかかった、とかいう時に使う事が多いみたいだからね……ギルド内でお酒が出るわけでもないんだけど、一仕事終えた後で酒場で飲んでその後でギルドに立ち寄ったとか……報告だったら先にしてから酒場に行けと言いたい。


「先に洗面所使っても?」

「あぁ、それは勿論。わたしはもう少しこのままでいるから構わないよ」

「じゃあ、お言葉に甘えて」


 のそっとベッドから出て、あくびを噛み殺しながら部屋を出る。

 思った以上に早い時間に目が覚めたらしくて、ギルドの中はまだ誰もいなかった。ギルド長も朝一で来るとか言ってた気がするけどいないって事は……マジで早朝か。壁に掛けられた時計を見れば、普段ならこんな時間に起きたらまだ早いわ、とか言って二度寝しててもおかしくない程度には早い時間。

 かろうじて日は出てるから明るいけど、冬なら真っ暗な時間帯だわ、これ。


 とりあえず洗面所で顔洗って髪梳かして結び直したりしてたらドタドタとやや主張の激しい足音が聞こえてきた。


「おぅい、起きてるな? ところでそっちにいるのどっちだ?」


 洗面所の向こう側、ドア一枚を隔てた先でギルド長の声がする。


 とりあえず洗面所を使用しているのは音でわかったのだろう。けれどもそれが私かディットさんかまではわからないらしく、そんな感じの問いかけが飛んできた。


「おはようございます。ボクです」

「エルテだったか。あーっと……ディットの様子はどうだ?」


 流石に向こうの部屋を直接確認まではまだしていないらしい。

 まぁそうか。

 もしかしたらまだ寝てるかもしれない、と考えると流石に起こすかもしれない行動は避けるよね。


 ドアを開けてギルド長に顔をみせれば、ギルド長は私の表情から何となくディットさんの無事を察したのだろう。あからさまにホッとする。


「腕は特に問題なく動くみたいです」

「そうか……そうか……! それなら良かった……!!」


 ちょっとばかりギルド長の目が潤んでいた。本当に心の底からの無事を喜んでるその様子に、しかし私はギルド長が単純に涙もろいだけか、それとも相手が貴族だから何らかの責をもしかしたら問われる可能性を考えてかのどっちだろう……? なんて考えてしまっていた。心が荒んでるのは認める。


 そもそも責を問うのであれば、まず貴族がギルダーとかやらんでほしい、って話になるから流石に責任をどうこう、といった事にはならないのか……?

 自分から危険に突っ込んでっていざ危険な目にあったら周囲に責任を、となれば流石にそんなギルダー周囲から倦厭されるか。


「ところで飯は? 食ったか?」

「いえ、今起きたばかりなんで……」

「そうか。それならこっちで用意しておこう……ディットも起きてるのか?」

「あ、はい。先に洗面所使わせてもらいました。今声かけてきますね」

「おう」


 なんて話しながら移動してみれば、どうやらギルド長は家からいくつかの食材を持って来たらしい。ここにも備蓄があるとはいえそれは保存食だ。味はまぁ、悪くはないけど良いとも言えない。普通。限りなく普通。

 私はともかくディットさんは怪我をしてたわけだし、保存食よりはちゃんとした食材で調理したもの食べて栄養とってほしい。

 まぁあの人貴族だし、家に帰ったらちゃんとしたどころじゃないレベルのご飯が出てくるとは思うんだけど。


 部屋に戻ってディットさんに声をかければ、ディットさんは既にベッドから出ていた。私が戻ってきたのを見て洗面所に向かう。


 あ、と思った。

 部屋から出て洗面所へ向かうディットさんの後ろ姿を見れば、後頭部に寝癖ができている。

 まぁそりゃ寝てたんだし寝癖だってできるよ、とは思うんだけど普段からキッチリ着込んでる一切の隙なんてありません、みたいな人の寝癖というのはなんというかレアだ。


 ぴょこんと跳ねたそれは、なんだか植物の芽のようだった。

 ちょっと可愛い。


 ディットさんが洗面所で身支度を整えたりしてるだろう間に、ギルド長はキッチンで食事を作っていた。

 とはいえここはギルド。基本的に人が生活するための場所というよりは単なる仕事場で、キッチンはそこまで大きいわけでもない。

 元々この建物が一軒の家で、それらを仕事場として改築したのか、それとも最初から仕事場として建築されているからそこまでキッチンが大きくないのか……果たしてどっちだろう。家だったと考えるとキッチン小さい気がするから最初から仕事場として、の方だろうか。


 ご飯をここで食べよう、って事はあまりなさそうだけど、それでもお茶を淹れたりはするのでキッチンがないと困るのはわかる。でも、お茶くらいしか使う用途がない、というのであればキッチンは小さくても問題なかったのかもしれない。


 漂ってきたいい匂いに思わず私のお腹も反応する。そうだよね、なんだかんだ昨日ディットさん運び込まれてきた後は食欲もロクになかったから備蓄食料が、とか言われても食べる気なかったもんな。そりゃお腹も空いてて当然だったわ。


「そろそろできるからそこ座って待っててくれ」

「はーい」

 言われた通り椅子に座って待つ事にする。やや経ってからディットさんもやってきた。

「ディットは? 飯食えそうか?」

「えぇ、むしろかなり空腹なので今のままだと厳しいくらいです」

「おう、じゃあ口に合うかはわからんがたんと食えよ」


 なんて言いながらテーブルの上にギルド長が用意したのは野菜たっぷりのオムレツとやっぱり野菜たっぷりのスープ。あとはパンだった。

 パンはここに来る途中で購入してきたのだろう。

 パン屋の朝ってとても早いから、既にどっかの店が開いてても何もおかしくないし。

 しかしまぁ、なんていうか見事に野菜たっぷりだな……別に嫌いじゃないからいいけど、ギルド長の見た目からして肉しか認めん! みたいな雰囲気もあるから、もっとこう朝からガツン!! としたのが出てくるかと思ってたわ。


 あとギルド長の見た目からもっと豪快な感じのが出てくるかと思ったけど、オムレツの形は崩れる事なく綺麗に整えられていた。

 ……もしかしなくても私より料理上手なのでは……?

 私自分でオムレツ作ろうとすると大体途中で失敗してスクランブルエッグになりかけ、みたいになるんだよね。味は美味しいし自分で食べるやつだからまぁいいやで終わるんだけど、流石にあれは人様には出せない。


 うーん、万が一の事を考えて自分ももうちょっとそこら辺練習しておくべきかなぁ……?


 オムレツを失敗する事があるって時点でオムライスなんて勿論失敗しまくるよね。

 包むのを諦めて乗せた方がまだマシな見た目になるっていうね。


 パンは思った通りギルド長がここに来る前に買ってきたらしく、焼きたてだった。ほんのりまだ温かい。パン、オムレツ、スープと交互に口に入れていって食べすすめていく。

 美味しい。

 何か久々に人様の作った料理食べたな。リタさんいなくなってからはご飯なんて自分で作ってたからね。いや、リタさんいた時も割と自分で作ってたけど、でもたまにリタさんも作ってたしそもそも一人で食事をするって事はなかった。

 今はもうすっかり一人だもんなぁ……


 たまに自分以外の誰かの料理が食べたくなってもそうなると外食になっちゃうから、それもそれでちょっとな……ってなるんだよね。

 あんまり散財しちゃうわけにもいかないし。

 一応それなりに稼ぎはあるけど、贅沢三昧できる程じゃないから。


 美味しいなぁ、なんて思いながら食べて、気付いたら綺麗に食べきっていた。

「ごちそうさまでした。ギルド長料理上手なんですね」

「おう、褒めてもこれ以上はなんもでねぇぞ」

 なんて言われたけど表情からはまんざらでもないらしい。にかっと笑みを浮かべている。


 ディットさんも食べ終えたらしく、見ればすっかり皿の上は綺麗になっていた。


「ところで早速あの討伐戦で何があったかを説明した方がいいでしょうか?」

「おっと待て待て。もうちょっとしたらルーウェンのやつも来るはずだからな。話はあいつが来てからだ」


 ギルド長にそう言われてしまえば今すぐ話す、なんてわけにもいかない。

 ギルド長は昨日の時点で一応大まかに何があったかを聞いてはいるはずだけど、それは他のギルダーの人視点だ。ディットさんがどうしてあんな大怪我をするに至ったか、はわかってなかったように思う。

 ルーウェンさんも恐らく事情を知ってはいるはずだけど、ルーウェンさんが見て感じた事とディットさんの視点とでは多分若干の違いがある。

 そういや赤化した魔物が出ていた、なんて話もちらっと聞いたし、そういう意味ではそれぞれの目線で見た情報をすり合わせておくのは大事なことかもしれない。


「……ルーウェンが……そうですか、わかりました」


 だがしかしディットさんの表情は浮かない。なんていうのか、あいつも来るのか……とか言い出しそうな雰囲気だ。でも、嫌だとは言わなかった。言っても意味がないと思っているのかもしれない。

 まぁ確かに言ったところで……となるのは私でも理解できる。


 ルーウェンさんが来るまでの間、何も話さないで黙ったままというのも気まずいと思ったのか、ギルド長は腕の調子を聞いていた。それについてはディットさんも全く問題がないと答えている。


 まぁ実際そうなんだろうけど、この場に私がいるのに気を使って言ってる可能性も捨てきれないぞ……とか思ったけど、多分そう言うのはギルド長が見抜くと思うので、ギルド長が特に何か言い出す感じもなければ本当に大丈夫なんだろう。


 まぁ、もし駄目だった場合、最悪もっかい腕切断して再度くっつけるっていう自分でも絶対やりたくない感じの治し方とか実行するかもしれない、ってなるとちょっとくらいの不調なら言わないよね。

 でも言わないまま違和感が残る状態でそのままにしておくと、腕を動かすのにいつかは無理が生じて……って事にもなりかねない。


 いやでも私だったら黙ってるわ。最悪もっかい腕千切りますとか言われたら泣いて喚いて駄々こねる自信しかない。治るから、とか言われてもそういうこっちゃないんだよって話だもんな。治るから腕千切りますね、はどう足掻いても全世界の人間の大半がお断りする案件だと思っている。


 ま、自分だったら治癒魔法かけまくって微調整しまくってどうにか治すわ。でもそれは自分の身体だからどうにかできるってだけの話で、別の人のとなると調整するのも時間が経過し過ぎたら上手くいくかわかんないもんなぁ……


 ゲームの中みたいにもっと簡単に魔法使ったら全回復! っていうのなら楽な話だったんだろうけどね。

 こういうとこだけ若干現実味とか出されましても、ってなるわ。



 ちなみにそのすぐ後にルーウェンさんがやってきたので、話し合いは案外すぐに始まってしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ